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マッチとピーナッツを用意しよう

 ルーフが動揺をしまくっている。その外側、アパートの近くに敷かれたアスファルトの道の上、そこでは「集団」なる人物たちが寄り集まって、この様な事を叫んでいた。


「不埒なる言葉の生産を認めなーい!」


「認めなーい!」


「感情を主義とするものを反対するー!」


「反対するー!」


「この魔力至上主義を否定するー!」


「否定するー!」


 ……一応ルーフの知っている言語圏、言葉の使いかたと同様の具合を、「集団」は有しているようだった。

 とは言うものの、言葉が理解できるゆえに、ルーフは彼らの目的を把握することができないでいた。


「……何なんだよ……あいつら、なんでこんな場所であんなに叫んでいるんだよ……!」


 唐突な、あまりにも唐突な凶事に、ルーフは不必要なまでに怯えのような感情抱いている。

 よもや相手側に聞こえるはずもないというのに、ルーフは自身の音量を可能なかぎり小さく薄いものにしている。


 怯えながら声を潜めているルーフに対し、ハリの方はいたって平常心を崩すことなく、怯える少年に引き続き事情を解説していた。


「ですから、この灰笛にも「集団」の一派が毎日抗議活動をしているんですよ」


「集団?」


 またしても登場してきたその単語を、ルーフは頭の中で自身との関連性を検索しようとしている。

 答えはすぐ近くに転がっていること、その事だけがルーフに獲得できた感覚であった。


 それ以上の事情、はまだ分からなかった。

 ルーフ本人ではなく今この場所で存在しうる、彼に最も近しいもの……、つまりはミッタが引き継いで事情を理解しようとしていた。


「ほら、あるじ様、わしらをとっ捕まえて、この体を好き放題にいじくろうとした。あの愚か者共のことじゃよ」


 たったそれだけの説明だった。

 それでもルーフが記憶のなかで再建策をするのに、充分すぎるほどの情報量を満たしていた。


 ほんの数週間前の出来事、ルーフとミッタはこの体を「集団」の手によって怪獣、と呼ばれる異形の形に変身させられそうになった。


 それらの人体実験もさることながら、拉致監禁、暴行事件その他、現代で考えられる犯罪行為のあらゆるものを体験せしめられた。


 「集団」とはつまり、今のところルーフにとっては敵に等しい意味合いを持つ。

 そんな組織のことだった。


 その集団が、引き続き窓の外で抗議の声を張り上げていた。


「ここにぃー! 敵対組織に属する魔法使いが居ることはぁー! 皆さんすでにっ! ごぞーんじのことだと思いますぅーっ!」


 彼らはどうやらデモンストーレーション活動をしているらしかった。

 何か明確な対象を否定するために、己の主張を拡声器越しに高らかに言葉へ変換している。


 その声はとてもうるさく、音量はこの周辺に存在する人間の意識を、否応なしに誘導させる強引さがあった。


 ルーフがたまらず顔をしかめ、眉間に深々としたしわを寄せている。


「……いったいあいつ等は、どのことに文句を言っているんだよ……」


 ルーフは集団の行動について、至極単純な疑問を抱いている。

 少年からの質問に、答えているのはやはりハリの声だった。


「たぶんですけど、ボクがここに居座っていることが、何処かの誰かのリークでばれちゃったんでしょうね」


 理由を説明している途中で、ハリは自分の胸に左の指をそっと添えていた。


「なんとっても、ボクは古城のお抱え魔法使いですから。そりゃあ、集団が目の敵にするのも当然のことでしょう!」


 自信満々に、この状況の理由の理由、原因について語っている。

 ルーフが呆気にとられていると、彼の背後でミッタがガスレンジを添加させる音が響いてきていた。


「古城と集団は、現在互いに睨み合いとつぶし合いをきかせとる関係じゃからのう。敵の仲間を、ここでひとりでも多くつぶしておきたいんじゃろうよ」


 かなり物騒な予想を口にしながら、ミッタはガスコンロでフライパンを熱している。


「……それで、どうするんだよ?」


 幼女が焼けたフライパンに卵を割り入れている。 

 ジュウジュウと卵の白身が白く焼ける、音色を聞きながら、ルーフは現状の問題を解決する方法を魔法使いに求めていた。


「あいつ等は、何をしたくてあんなことをしてるんだっての」


「それは、叫んでいるままの、そのままの意味ですよ」


 少年の疑問に、魔法使いが淡々と答えている。


「現状を、魔力によって運用される社会を変えたくて、彼らは集団を形成しているのです」


 魔力の力を主体に運用される社会の否定、それが集団の目的らしい。

 つまりは魔術師の否定であり、古城の存在を拒否することに繋がる。


「当然、ボクのような魔法使いは社会に不必要、そんな存在であると、彼らは証明したいのですよ」


 他人事のように語っている、ハリは眼鏡の奥の視線を少し遠くに向けていた。


「そのままでいいのか?」


 ルーフが、呟くように疑問を口にしている。

 それに答えるのまた、魔法使いの声だけだった。


「もちろん、ボクだって否定をするだけの力なら持ってますよ」


 ハリという名の魔法使いは、遠くに向けていた視線を近く、ルーフのいる方角に移動させている。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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