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弱々しい樹木はワタ埃みたいな色をしている

ずっと欲しかったあの、

 引き続き、きょろきょろ、きょろり。


 灰色の髪の毛を持つ幼子はトゥーイの腕の中で一生懸命に、少しでも多くの情報を見て、聞いて、感じ取ろうと、張り切って努力していた。


「ワぁー(@_@) ぁー(^▽^)」


 見た感じキンシやルーフよりもずっと年下で、腕の中にすっぽりと納まってしまう体の大きさから、もしかしたらメイよりも若いかもしれない。


 そんな年の頃にしか見えない人間は赤ん坊の声のように不明瞭な声で、しかし人らしい表情の豊かさを全身全霊で周囲の空間に表現していた。 


 狭苦しい繭の中で一生懸命に短い手足をばたつかせるので、トゥーイはバランスを崩して倒れそうになる。


「………───………───」


 トゥーイは無言で、しかし眉間にはっきりとしたしわを深々と刻みながら必死に両足を踏ん張る。


 彼の無言の制止など構うことなく、幼子は異常さを感じさせるほどに急速に肉体を稼働させようとしていた。


 それこそ青年の腕の中から、子供たちの視界の外、遠く離れた場所にまで一心不乱に向かうことを望んでいるかのように。


「ウィー、ウィー(‘へ’)」


 プックリと薄桃色な唇から、けたたましい不平不満の叫びが発射される。


「あわわわ、どうしたんですか、どうしましたか?」


 幼子のただならぬ様子にキンシがおろおろと動揺する。


 しかし魔法使いには子供との付き合い方の経験値がほとんどゼロに等しかったので、何も出来ず狼狽えることしかできなかった。


「なんか、どんどん顔色が悪くなってるような気がしないか?」


 キンシよりは幾らか落ち着いていながらも、ルーフもまた仮面の下の目を大きく見開いて幼子の様子を慎重に観察している。


「こいつは、あのバケモンの死体の中にいたんだよな?」


 ルーフは幼子から目を離すことなくトゥーイに簡単な質問をする。


「はい、言うとおりあなたの」


 トゥーイもできるだけ簡潔に、ありのままの事実を少年に伝えた。


 ルーフは妹の手を握りしめたまま、もう片方の手の指で顎を擦りながら考慮する。


「だとすればこいつも怪物に喰われたのは間違いねェとして………。もしかして、」


 思考をまとめるよりも先に、ルーフは鋭い視線でキンシに問いかける。


「あの、ナントカっつーバケモンに喰われると、体に害が現れたりすんのか?」


 彼の真剣な心配に、キンシは若干どもりつつもすぐに答えを返す。


「い、いえ、彼方さんに食べられること自体に、人体への大きな害はないとされています。実際に」


 言葉を一旦区切り、じっと黙っているメイの方を見やる。


「速攻で救出できた場合は、メイさんのように体の回復は短い時間で済むことがほとんどです」


 まず最初に安心できることを述べ、そしてすぐに表情を曇らせる。


「ただ………、長時間にわたり揺り籠の中に閉じ込められた被害者が、長期にわたる体調不良に侵されることも………」


「そうか」


 ついに不安に押し負けそうになり、言葉を途切らせてしまったキンシに対してルーフは会話のピリオドを簡単に打った。


 とにかく早く行動しなくては。


「ンン、ンんん(‐""‐;)」


 メイとは、自分が知る限り一番強い女性である妹とは異なり、この幼子は本当に誰かが助けなくてはならない存在である。


 少年の中の、遠い意識がそう主張してきていた。

千本の木が生えていました。

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