表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

688/1412

眼鏡を粉砕したいウサギちゃん

 どうしてそんな話し方をしているのか、ルーフはミッタにそんな質問をしていた。


「ひさかたぶりの会話だというのに、聞きたいことはそんなことなのか」


 ミッタは兎のような形を耳をピコピコと動かしながら、灰色の瞳でルーフを軽く睨み付けるようにしている。


「なに、たんなる初期設定なんじゃよ。君の肉体にざんりゅうしていた情報をかき集めたら、こんな具合のしあがりになった。ただそれだけのことに過ぎないんじゃ」


「俺の中の情報……?」


 身内にこんな話し方をする人物がいたか、ルーフは考えようとした。

 しかし、考えるよりも先にルーフは疑問の答えをすでに見つけ出していた。


「まるで爺さんみたいな話し方だな」


 記憶の中にある祖父の姿を思い出そうとした。

 途端に、ルーフは全ての行動を忘れてしまいそうな、強い気配のある疲労感に見舞われていた。


 そんなルーフの様子に、ミッタは耳をピクリと動かしながら、興味深そうにうなずきを繰り返している。


「なるほど、なるほど。きみの記憶にちくせきされたカハヅ博士のイメージが、そのままわしの造形に影響を与えたということか」


 そうして、ミッタはフワフワと漂いながら、ひとり納得を重ね合せているようだった。


「ともあれ、わしがこうしてこの場所にあらわれたのは、きみがわしを望んだからなんじゃろうな」


「望んだ?」


 ミッタが、もうすでに当たり前のように存在をしている、彼女が状況についてを簡単に予想している。

 状態にまだ違和感しか覚えていない、ルーフはまばたきを多くしている。


 少年の琥珀色をした右目が、キョロキョロと挙動不審になっている。

 その視線の先にて、ミッタは空中であおむけになりながら考えだけを進ませていた。


「きみが、きみ一人だけではかいけつできない事柄のかいけつをもとめて、わしのことをここに召喚した」


 ミッタは自身がここに、この場所に存在している理由について、そのあらましを簡単に言葉にしている。


「であれば、わしのやることは決まりきっているな」


 言葉を発している途中、全てを言い終わるよりも先に、ミッタは己の思考の中に考えをまとめているようだった。


「さあ、あるじさまよ、今ここに召喚せしめた下僕めに、あなたが望むだけの命令を下してみるがよい」


 仰向けになっていた姿勢から、ミッタは一気にルーフの足元へと体を滑りこませている。

 彼女の身につけている、薄い布で必要最低限の部分を覆い隠しているワンピースのすそが、ふわりと揺らめいていた。


 幼女がひとりで勝手に納得を作りだしている。

 彼女の展開の速さに、しかしながらルーフは思考を追いつかせられないでいた。


「いきなりそないなこと言われてもなぁ……。俺は一体どうすればいいんだっての」


 ミッタからのいきなりな要求にルーフが迷っていると、扉の奥からハリの声が響いてきていた。


「……さっきからどうしたんです? ぶつくさぶつくさと、うっとうしいですよ?」


 この状況の根源たる本人から、あたかも真っ当らしい意見を投げつけられてしまった。

 誰のせいでこの状況に陥っているのか、ルーフはハリに向けて文句を投げつけたくなる衝動に駆られている。


 しかし実際に愚痴をこぼすよりも先に、やるべきことがあると理解している。

 ルーフはようやくコミュニケーションの一端を掴めたこと、そのことを頭の中で最優先にしていた。


「あのぉ! 原稿のベタ塗り、用意された分だけは終わったぞ!」


 ようやく本来の目的を果たせる。

 状況が、ルーフの喉の奥を若干不必要なまでに大きく拡張していた。


 少年の少しばかり場違いな大声に対して、ハリが扉の奥で少し考えを回す沈黙を返している。


「そうなんですかー。思った以上に、お仕事が早くて助かりますー」


 本心から思っているか、あるいは口からデマカセをたれ流しているにすぎないのか。

 そのどちらともとれるような、そんな言葉の使いかたをしている。


 それ以降はまた同じように、扉の奥で沈黙をしてしまっている。

 また新たに訪れた静かさに、扉の外側にたたずんでいる、ルーフとミッタが互いに視線を交わしている。


 ほんの数秒の内、黙っている間、先に唇を開いたのはミッタであった。


「とりあえず、おなかでも空かないかのお」


 彼女にそう指摘をされた。

 ルーフは言葉で表現された途端に、自身の体が空腹感を覚え始めたことに気付かされていた。


「…………」


 また少し、思考を巡らせた後、ルーフはようやく次の行動についてを言葉に変換していた。


「……、そろそろ晩飯でも作るか……」


 と、言うわけで、少年と幼女は台所に立つことを選んでいた。


「エエんかいな……勝手に台所使って……」


 場所に移動する最中、足をその場所に踏み入れながらで、ルーフは基本的な疑問に心配をしている。


「使用許可は、ほんにんからキチンともらったじゃろ」


 少年の不安に返事を寄越すようにして、ミッタが先ほどのやりとりを思い返すワードを用意していた。


「今はもう、わしたちを阻害するものは、なにひとつとして許されぬのじゃ」


 大げさに言葉を使っている。

 ミッタにしてみれば励ましのつもりだとしても、ルーフにはどうにも不安の要素だけが、ただただ深みを増すばかりであった。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ