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3分間で終わる価値と基準

 浮遊するビルの上で、少しばかりのすったもんだが起きた後。

 ビルの上から降り立ち、なんとかしてハリの仕事現場までたどり着いていた。

 

 浮遊ビル群の航路から徒歩で少し歩いたところ、そこは閑静な住宅街と呼ぶべき空間が広がっていた。


「この辺は静かでしょう?」


 ルーフの前方を歩くハリが、前を向いたままの格好で彼に話しかけていた。


「そう、なんだろうか……?」


 魔法使いがそう表現している、光景に対してルーフは素直に同意を返せないでいた。


「俺にしてみれば、ここも充分に騒がしくて仕方がないけどなあ……」


 魔法使いの言葉に素直な同意を返したくなかった、という理由ももちろんある。

 しかしながら、存在の有無も怪しい反発心以上に、ルーフはただ単に周辺の景色に何ら特別性を見出せないでいた。


「車は多いし、横断歩道まみれだし、家も密集して息苦しいっての」


 反発の心意気のせいもあるのだろうか?

 ルーフは自分の口調に粗雑な雰囲気が含まれているのを、どこか客観的な視点にて自覚していた。


「たしかに、ここ数年で家の数はどんどんと増えている気がしますけどねー」


 少年の反抗心を知ってか知らずか、いずれにしてもハリの歩く先はもう、決まりきっていた。


「ここですね、ここがボクの今の仕事場です」


 ハリの足が止まった、彼の視線が少し上側に向けられている。

 魔法使いの背後にいたルーフは、彼が見上げている先に見えるものを、静かに追いかけていた。


「ここが……?」


 誰にも見られていないことを良いことに、ルーフはハリの背後で首をかしげていた。

 たどり着いた、その場所はどこにでもありそうなアパートの、一つの建物でしかなかった。


 ハリは迷いの無い動作で、アパートの小さなエントランスホールに足を踏み入れさせている。

 背中には黒色の網が掲げられており、中身には捌いたばかりの怪物の死体が込められていた。


 魔法使いと怪物の死体を追いかけるように、ルーフも建物の中に足を踏み入れていた。



「いけないなー。それはあまりにもいけない感じだぜ? カハヅ君よ」


 スマートフォン越しにルーフにそう説いているのは、エミルという名の魔術師の声であった。


「あのバカ、ちょっと油断するとすぐに変てこりんな仲間引き連れてくるんだからよ。油断してたら、君の入る余地が無くなっちまうぞ?」


「別に……、空いた席を狙っている訳じゃないんで……」


 エミルからの助言を、ルーフはスマホのマイクごしに受け流そうとしている。

 ハリの、もう一つの仕事現場に誘われた、ルーフは今ひとりで椅子の上に腰かけていた。


「でも、結局は君一人だけになっちまったってことなんだろ?」


 作業机の上に体重を少し預けている、ルーフの耳元にエミルの声が電波越しに届けられていた。


「できれば人数を増やして作業に取りかかってほしかったところだが……。まあ、君だけがちゃんとたどり着けただけでも、儲けものだと思えばいいよな」


 電話越しの状況を、エミルはすでに幾つか納得をするかのような声音で受け入れいている。

 電波の向こうで魔術師がうなずいている、その気配をルーフは不可解なものとしてしか受け取れないでいた。


「でも……結局俺がここに呼ばれた理由が、イマイチよく分かってねえんだけれども」


 今更ながらの質問に対して、エミルは通話の向こう側で簡単に理由を伝えている。


「ンなもん決まりきってるっての。キミ絵が上手いだろ? だからあいつの仕事を手伝ってやってほしいんだよ」


 エミルがルーフに理由を伝えている。

 その間に、ルーフは自らの状況をより正確に判断するために、周辺に視線を漂わせていた。


 アパート内の部屋の一室。

 あまり生活の気配を感じられないその場所は、ハリが説明したとおりに仕事のための空間であること、そのことには変わりないようだった。


「仕事を手伝うって……」


 具体的にはなにをすべきなのだろうか、ルーフはまだ理解を追いつかせていなかった。

 

「アイツの方から、何か指示があったんじゃないのか?」


 スマホ越しの呼吸音、あるいは沈黙の長さから、ルーフの戸惑い具合を察しているらしい。

 エミルが問いかけている内容に対して、ルーフはため息交じりの返答だけを電話口に寄こしている。


「仕事の指示は……玄関超えた辺りで真っ先にメモで手渡されたけどな」


 言葉に、例えばわざとらしい脚色を加えたりだとか、そのような手間をかける必要もなかった。

 実際に起きたばかりの事を、今はただおさらいでもするかのような、そんな気軽さで思い返している。


 確か、こんなことをいっていたような気がする……。


「ボクはですね、ちょっとこれを片してから、そちら側の内容に参加させていただきます。すみませんね、バタバタとしちゃって」


 とりあえず謝罪の形だけを用意したに過ぎない。

 そんな雰囲気のある口調を使っていた。ハリは怪物の死体と心臓を携えたままで、ルーフにメモ用紙の一枚だけを押し付けるようにしていた。


「ここに書かれているカンジで、ひとつお願いしまーす」


 ……と、言うわけでルーフの手元、右指の中にはハリから手渡されたメモ用紙が握られていた。

 椅子に座り、作業をするのにとても調度がよさそうな、そんな感じの机に軽く身をあずけている。


 机の上に右の手のひらを添える、開いた隙間にメモ用紙が記述内容を、誰にも隠されることなく明らかにしている。


 ルーフはメモ用紙を見る。

 見て、読んでみた。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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