外側の壁はいつか必ず、壊さなくてはならない日が来るのでしょう
色が見えない、
こうだったらよかったのに、正直なところキンシはそう願っていた。
例えば、本物の毛糸玉のようにやはり内部は外見と同じように糸の連なりでしかなく、もちろん中身なんてものもなく、だから自分の指は何者にも触れることなく。
それこそ木の枝みたいに多少の進行の妨害をされつつも、結局は何事もなく通り抜けるのだと。
そんな感じの期待も、もしくは願望もキンシの中には、あるいはここにいる全員が望んでいたのかもしれない。
いずれにせよ彼らの願いなんて叶うはずもなく、ただただ無意味でしかなかったのだが。
「………っ」
感触に直に触れているキンシはそれまで猛威を振るっていた好奇心を一気に沈静化し、未知への恐怖をたっぷり喉に含ませる。
叫び声をあげて他の誰かにこの後の現実に関する責任をなすり付けられたら。
ああ! なんて素晴らしいことか!
出来るものならそうしたい、そうするべきだ。
だけど、
キンシは自分の手を休めることはしなかった。
何がそんなにも若者を突き動かすのか。
それは若者自身にも理解できかねていることであった。
あえて言うならば未だ心の内に灯り続ける好奇心か、
あるいはもっと別の、強迫観念じみた───。
いずれにしてもキンシの指は暴くことを止めなかった。
左手の指でその「中身」がどの位置に、どのくらいの深さにあるのかを淡々と探りながら確認する。
ぐにゅ、ぶにゅと、糸の波はキンシの指に合わせて波打ちやがて連結を崩壊させていく。
キンシはごくごく短い間に一通りの調査を終えた後、浅く息を吸い込んで右手を繭の中身へと食い込ませる。
自らが作った割れ目に両手を添えて、そして一気に外側に引く。
格好としてはワラ入り納豆を開封する要領で、しかしそれとは明らかに異なっている。
四方八方に入り組んでいる赤系の糸を躊躇いなくブチ、ブチ、ブチン、と強引に引き千切り、キンシは左手で触れた中身を、光と人間たちの眼球の内に晒そうとした。
「あっ」
やがて、ついに暴かれた中身を見て、ルーフがギリギリ聞き取れるほどに小さな声を上げる。
兄の感情を察したメイは彼の手を、皮膚を破ってしまいそうなほどに強く握りしめてしまう。
トゥーイはやはり相変わらず無表情で、しかし瞳の紫にわずかな感情らしきものを浮かべる。
キンシは見えたものをより決定的にするため糸をさらに破壊する。
体液の赤色もついに侵入することが出来なかった内側が、光にさらされて繭の本来の色であった白色を主張している。
その白色の中に「それ」はあった。
繭の中身はちゃんと存在していた。
「ふ、むンン」
外の冷たい、雨と誇りの匂いが立ち込める空気を吸い込んで「それ」が微かに、くすぐったそうに声を出した。
「それ」は、
怪物の体内に入っていた繭の中身は、
「子供だ」
ルーフが呟いた通り、まだまだ幼子の域も越えていないぐらいの、
ごくごく普通の何の特徴もない、
むしろ灰笛では珍しいと言えてしまうほどに、
当たり前の人間の形をしている生き物。
それが赤い繭の中身だった。
どういうことなんでしょうか。




