表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

669/1412

変化を知るしかなかったんです

 少年と少女が戦いの場面を、殺しあいの強く望んでいる。片方は琥珀色の瞳に炎を灯らせ、もう片方の彼女は透明な姿から強い意志を感じさせる視線を送りつけていた。


 ルーフが体、皮膚の表面にビリビリとした緊張感を走らせようとしている。

 すると、彼の左隣からハリが横槍のような言葉を投げかけていた。 


「ちょいとお待ちくださいませ、お若い御両人!」


 喫茶店の机の上、ハリは左の腕をピンと前に真っ直ぐ伸ばしている。

 少年と少女の視線が自分の方に向けられている。そのことを肌に実感しながら、ハリは彼らに提案すべき内容を言葉で伝えていた。


「やる気があるのは素晴らしいことですが、ですが、ですよ? ここで戦闘の場面を展開するのはあまり、あまりにもよろしくないと思いませんかね?」


 伸ばした左腕を、脱力させるように机の上へとあずけている。

 植物の茎がしおれるように脱力している。魔法使いの腕の動きを見ながら、ルーフは自分が今どこに存在しているのかを再確認させられていた。


「お客様」


 立ち上がろうとしているルーフと、すでに立ち上がっているかもしれない透明な少女。

 二人の元に喫茶店の店員が、少しばかり恐怖の気配が混ざった声で注意をしていた。


「トラブルを起こす場合は、当店からできるだけ離れた場所でお願い致しますよ?」


 

 という訳で、ルーフはさらに喫茶店からも追い出されることになっていた。


「あーあ、せめてコーヒーの一杯でも飲んでおきたかったんですけどね」


 カランコロン、と扉の鈴を鳴らしながら、ハリは閉じた扉の内側に名残惜しそうな視線を送っている。


「早いところ終わらせて、甘いものでも食べましょうよ」


「……誰のせいでこんな事になってるんだと思ってんだよ」


「ホント、他人事なんかじゃないのよねえ」


 他人事のように済ませようとしているハリに、若者二人が反論を口々に呟いていた。


「そもそも、トーコが俺の首を絞めなければ、こんな事にはならなかったんだっての」


「あら、やっぱりわたしのせいになるのかしら?」


 それ以外に考えられないと、ルーフは目線の鋭さの中に意味をたっぷりと含ませようとした。


「むしろ、それ以外に理由なんてないだろ」


「でも、ここまでついてきたってことは、わたしと戦いたいってことなんでしょ?」


 喫茶店の外側、場所が広く空けている駐車場。アスファルトの硬い地面の上で、トーコは小さく足踏みをしている。


「イライラしてるんでしょ、色々と溜まりに溜まって、今すぐにでも暴れたいって顔をしてるじゃない」


 アスファルトの上を透明な足が、ゆったりとした速度で歩いている音が聞こえてくる。

 少女の足音を聞きながら、ルーフは靴の音からスニーカーのような素材を勝手に想像していた。


「若い人間が我慢なんてするもんじゃないって。ああ、これはわたしのアイボーがよく言っていた訓戒のようなものだけれど」


 トーコはアスファルトの上を歩きながら、自らの周辺に空気の流れを作り出している。

 内側から膨れ上がる熱が、雨に濡れる都市の空気に触れて重なり合う。


 陽炎(かげろう)のような揺らめきの後に、トーコの手元へ二つの金属が発現していた。


「それは……?」


 ルーフがトーコの元に現れた武器に強く注目している。


「ああ、これは借り物の武器よ」


 遠目から見て丸型の蛍光灯のように見えた。

 しかしよく見ると光は刃が周辺の光を反射したもので、円形のそれは造形的にチャクラムととてもよく似た形状をしていた。


 右手と左手にそれぞれ握りしめられている、トーコは二振りの刃を少し重たそうにさげている。


「アイボーの魔法使いさんが、護身用にってわたしに預けてくれたのよ」


 自分の持つ武器についての説明を語る。しかしながら、ルーフの耳にその辺りの事情はあまり重要な意味を持ち得なかった。


「さて、ルーフ君、キミの武器を見せてくれないかしら?」 


 誘われるように、ルーフは自分に用意できる分の武器を用意しようとした。

 持ち寄ったスポーツバッグのチャックを開き、その奥にある武器を取り出している。


「それは」


 少年がバッグから取り出した武器を見た、トーコが外見上の情報を言葉にしていた。


「猟銃のようね? 飛び道具か」


 少女がそう表現した通り、ルーフの手の中にあるそれは銃のような形状をした武器だった。

 野山のけものを狩るのに特化した、木製の銃身をもつ単純な造りの銃である。


 銃を構えながら、ルーフは相手の動向をジッと注目していた。

 少年が見つめている先、そこではトーコがチャクラムを、攻撃のために構えている。


 二振りの刃を平行に重なり合わせるようにしている。

 トーコが立っているであろう場所から、地面を強く踏みしめる音がかすかに聞こえてきた。


 姿が見えないがゆえに、ルーフは相手の動向を視覚的に得ることができないでいた。

 それが大きなハンデであることは、戦いの場面がこの場所に展開されるより前から、ルーフにも簡単に予想できる事態ではあった。


「……!」


 深く息を吸い込む音が聞こえた。

 それと同時に、トーコが近付いてくる足音がルーフの元に接近してくる。


 チャクラムを振りかぶる。

 ルーフの肉を抉るために、透明な少女が刃を振りかざしていた。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ