君の体に触れたんだ
オレンジ色の情報、
「うひあ?」
動くことを全く連想できない物体が、いかにも生物っぽく動作を表したことでキンシはつい変な悲鳴をあげてしまう。
繭は、その形容詞を体現するかの如く、おそらくは内蔵されているであろう中身の動作に合わせ、羽化寸前のアゲハチョウのさなぎのように、ピクリ、ピクリ、と繊維の連なりを隆起させている。
遠くから眺めた時にはそれこそ毛糸玉のように、単純な赤色の塊にしか見えなかった。
しかしこうして近くで見てみると、どうにもそんな単純な見解で済むような物体でないことが明確になってくる。
大きさの印象としては米袋よりも少し長さがあり、幅はそこまでなくキンシが片手で持ち歩けそうなほど。
それぐらいの大きさしかない繭。
痙攣が一時停止すると、ぐるぐると重なり合う赤染め糸が内容の形に合わせて、緩やかにおうとつしていることがよく確認できる。
赤くなった糸は厳重に中身を取り巻いており、おおよそ楕円に近い形を作ってはいるものの、
………。
………しかし、これは………。
キンシはほぼ反射神経のように思考した、ある仮定を否定するために奥の歯を食い縛る。
だが灰色と金属で構成されているゴーグルの奥の右目は、持ち主本人の意思とは関係なく繭の情報をより子細に収集しようとしてしまう。
これは、まるで。
キンシが自身の仮定に納得を得るより先に、繭の方から自発的に決定的な証拠を現実に与えてくる。
「ン、……───ン、───」
糸の下から生き物の喉から発せられるべき音、らしき雑音がこぼれてきた。
キンシは驚きのあまり悲鳴をあげることもできず、刃物を研ぐような音をたてて息を飲むことしかできなかった。
「い、いい、いっ? いまっ今、中から声が?」
キンシの驚が周囲に感染していく。
ルーフとメイはほんの一瞬互いに顔を見合わせた後、行動するべきか迷い、結局青草の匂いのような好奇心に屈し、意を決して二人連れ合ってトゥーイの方に近づいてみることにした。
ヒエオラ店長も心の内に強い好奇を芽生えさせていたものの、賢明なる彼は遠目から様子をうかがうことに徹した。
一人の幼女と、二人の十代の子供は、青年の腕の中にある繭を四セットの眼球で見つめる。
「これは………」
ルーフは仮面の下でゆっくりと瞬きをして、
「………人の形に、見えるな」
キンシが認めようとしなかった事実を、何と言うこともなさそうに認めてしまう。
その通り、彼の言うとおりだ。
その赤い繭は小さな、人間の子供を丸々一人包み込んだら、きっとこうなるであろうと。
「普通」ではありえない事象をそのまま丸ごと体現している、そんな形をしていたのだ。
「………、…………」
トゥーイは首の辺りから微かにノイズの走る無音だけを空中に排出し、
そして指を繭の、おそらくはそのあたりに顔が潜まれているであろう部分を一撫でした。
おそらくは憶えていないのでしょう。




