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君のスタイルを確立させない

 ここでモアが口にした「あの人」というのは、ある程度の自然な流れとして、少女にとって重要な意味を持つ人物であった。


 それは例えば家族、たしかにモアにとって一番近しい親戚にあたる関係性を持っている。

 ……と言うよりかは、むしろ書類上の情報だけで考えると、「あの人」とモアはほとんど同じ人間と記すことができてしまう。


 「モア」という名前の少女、その名を与えられた自動人形(オートマタ)、その本体と呼ぶべき存在のことだった。


 古城のエントランスホールに到着した、モアが「あの人」についての予想をゆったりと語っていた。


「今日はいい感じに雨も降っているし、あの人もきっと機嫌よく、最後まであなたたちの話を聞いてくれるはずよ」


 少し遠くに目線を送りながら、モアはここにはいない彼女についての予想を語っている。

 しかし、一番の身内である少女の言葉よりも、ルーフにとってはもっと先に解決すべき事柄が思考を支配していた。


「それよりも、そんなことよりも! もういい加減降ろしてくれよ」


 実際に古城に到着したあとも、「お姫様抱っこ」のままだった。

 そろそろ周辺の人々の視線に耐えきれなくなってきた、ルーフが少女の腕からの脱出を強く望んでいた。


 少年が必死に主張をしている、だがそれに対してモアはあまり真剣な対応を起こそうとはしなかった。


「まあまあ、もう少しあたしのお話を聞いてちょうだいよ」


 引き続き少年の体を抱えたままで、モアは人々が行き交う古城の中をゆっくりと歩いている。


「最近、またあの人の、「モア」の調子がおかしくなってきている。……って、話はすでにしたかしら?」


「いいえ、初耳です」


 モアの話にハリが感心を示したかのように、眼鏡の奥の動向を丸く広げている。


「本体さんのご機嫌が悪くなるなんて、そんなの……いまさら珍しいことでもなんでもないんじゃないですか?」


 ハリは少女の語る内容について、自分の予想を考えながら言葉にしている。


「あの人……、晩ごはんに人参が出てきただけで、まちに大雨を降らしちゃうほどじゃないですか」


「そんな……クソガキみたいなやつなんか?!」


 ルーフがモアの腕の中で、「モア」の本体についてのあまり知りたくなかった新事実に驚いている。

 しかし少年の驚愕を、「モア」の身内であるモアがすぐさま訂正をおこなっていた。


「さすがに、たかがそんなことで気分を害するほどのことはしないわよ」


 彼女にしては珍しく、少しだけ慌てた様子で彼女に関する誤った情報を直そうとしている。


「あの人が嫌いなのは人参じゃなくて、細かく刻まれていない玉ねぎよ」


「大して変わらねえ……」


 こんな所で、こんな状態(お姫様抱っこ)で、まさか古城の主の知りたくもない秘密を知ってしまった。

 少年がこの灰笛(はいふえ)の秘密を知り得てしまった、その間にも人々の好奇の視線は少年と少女に注がれ続けていた。


「ともかく!」


 全く人の目線を気にしない少女と魔法使いを見限るつもりで、ルーフは少女の腕の中で大きく体をうねらせていた。


 激しく体を動かしているルーフに、モアが驚いたように腕の力を強めていた。


「きゃあ? どうしたの、そんなに暴れたら危ないじゃない」


「危ないっていうか、お前らの平常心の方が危ねえよ……!」


 逃れようとするほどに、ルーフに触れるモアの腕の力が増やされていく。


「いででで、挟むな! 挟むな!」


 抱きかかえる状態から絞め技のようなものを食らわされている。

 ルーフはいよいよ精神的にも、肉体的にも少女に抱きかかえられている状態に我慢が効かなくなってきていた。


 暴れに暴れて、結局は這いずり落ちるようにルーフは自らの体を地面へと再会させていた。


「痛ってぇー……」


 腰骨の辺りを盛大に地面へ衝突させた、ルーフの全身に電流のような衝撃と痛みが走り、感覚の多くを満たしていた。


「ああ、ほらあ、急に暴れるからあ」


 モアがルーフを見下ろしながら、少年の動作によって乱れた衣服を手で簡単に整えている。

 まるで幼い子供の失敗を軽くとがめるようにしている、モアにルーフは地面から睨み付けるような視線を送りつけていた。


「ほら、お手をどうぞ」


 地面の上に転がったままで動けなくなっている、ルーフにモアが当然のことのように手を差し伸べていた。



 少々の厄介事が生じたものの、ルーフとハリの二名はとりあえず無事に古城へ、今日の目的地へと辿り着くことに成功していた。


 ハリがごそごそと、鞄の中身から赤色の小包を取り出している。


「とにもかくにも、もしかすると「モア」さんの期限の良し悪しはこれが関係しているかもしれないんですよ」


 古城の最上階にのぞむ廊下、遺跡のような石の塊によって構成された空間を歩きながら、ハリが小包の中身を開けようとしていた。


 魔法使いの指によって解放された包みの中から、銀色の魚のような怪物が空中に飛びだしてきていた。


 怪物はすでにほとんどの生命力を失っているらしく、力ない動きの中で空中に漂っている。


「…………?」


 魚の様子に、魔法使いだけではなくルーフも違和感を覚えていた。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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