白かったものを汚す気持ちよさ
夢見る財布、
どうしましたか、鼻をそんなにヒクヒクとさせて。何か変なものでも、
そうキンシが問いかけるより先に、トゥーイは行動を開始していた。
[綿々]と言う飲食店の内部にいる、意識がある人間すべての注目をその身に浴びながら、その会話の輪を躊躇いなく中断して、トゥーイはある場所へと真っ直ぐ進む。
そこは死体の上、怪物だった肉の塊の中。
青年は一切迷うことなくその塊にかがみこみ、腕を突っ込んで内部をまさぐり始めた。
ぐちゃぐちゃと、ぐちゃぐちゃと。
言葉に表し難い効果音を聞いて、ルーフは耳をふさぎたくなる。
と同時に彼もまた、青年が抱いている違和感と同じような感覚に気付き始めた。
なんか、変な匂いがする………?
綿菓子を作る時に漂う、糖分を加熱したかのような粘り気のある甘み。
死体から零れる体液による鮮烈なまでに新鮮な生臭さ、確かにその臭気の中に甘い匂いが混ざっている。
ありえないと否定するために、嗅覚の錯覚だとルーフは思いこもうとする。
しかしどうにもできそうになかった。
むしろトゥーイが探索を続けるほどに甘みは強さをまし、ルーフに現実的な存在感を訴えかけてくる。
どんどんと決定的になる匂いに、ルーフは何故か理由も分からぬままに否定をもよおしたくなった。
背骨を貫き、首の筋を瞬時に的確に引き千切らんとする強迫観念。
呼吸が苦しくなる前にルーフはトゥーイを制止しようとして、しかしそれよりも先んじてトゥーイは肉の中からあるものを見つけ出してしまった。
「ん、んんん?」
「それ」を視認したキンシがまず最初に抱いた印象は毛糸の玉。
手芸用品店に陳列されている、マフラーを編んだら暖かそうな赤い毛糸玉、それによく似ているということだった。
ただしトゥーイが抱えている「それ」は、普通の毛糸玉よりもはるかに何倍も大きく、そしてずっしりと重量がありそうで、観察を重ねるほどに違う印象を含ませていく。
キンシは魔法を使うまでもなく、そろりそろりと慎重に音をたてずトゥーイの元へと近づいてみる。
「それは……繭、ですかね?」
最終的に導き出した形容ですらいまいち確信を得ることが出来ず、キンシは無意味に語尾を上げるしかなかった。
最初は真っ赤だと思っていたその繊維の塊は、近くによって子細に観察してみるとどうやら元々は異なる色だったらしい。
怪物の体液によって黒々と乾燥した血液の色に染められていたことが、所々の色の濃淡によって判別できる。
大きさは毛糸玉よりは大きいにしてもせいぜい米袋ほどの、子供の身長しかないキンシでも片手で抱えられそうなほどの大きさしかない。
明白なまでにその繭は違和感たっぷりで異物感がそのまま実体化したかのような、そんな不気味さがある。
にもかかわらず、キンシは何故かその赤染めの繭にどこか、何か正体の掴めない懐かしさを覚えていた。
魔法使いが見詰めていると、
もぞり、
繭が、繭の中身がわずかに動いた。
灰色のリズムを刻みましょう。




