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深夜3時半の瀕死

 魔法の武器、この場合は弓に張られた弦の震動が、メイの内に秘められている魔力を発散させていたらしい。


 目に分かりやすく確認することはできずとも、確かに存在をしている力の流れ。

 それが弦の震動、メイの動作によって空間に影響を与えていた。


 びりびりと空気を揺らす、幼い魔女からの攻撃に怪物の群れ、金属質のウロコをもつ魚のような群れが

その群体を動揺させていた。


「あ huhuhuaaあぁぁぁあぁあぁ」


 予想していなかった方向からの攻撃に、怪物がそれまで継続させていたはずの集中力が断絶されていた。

 魔法少女の、キンシの左腕を喰らわんとしていた怪物が、ほんの一時のあいだだけ意識の先端をメイの方にずらしていた。


 怪物の集中が違う方向に向いた。

 それまで群体の中心点にいた魔法使いらは、生まれたスキを見逃してはいなかった。


「…………!」


 トゥーイが深く強く息を吸い込む。

 もともと継続させていた集中力を、さらに意識的に研ぎ澄ませる。


 呼吸をしながら、右の指に携えていた鎖を空中に素早く投げ出している。

 ジャラジャラ、と硬質な音色を奏でながら鎖が回転をする。


 落下を与えられた、しかして鎖は与えられた自重とは反対側に作用を働かせている。

 下に落ちるのではなく、上に落ちていく。


 鎖は瞬く間に魔法使いらの周辺へ、ドーム型の檻のようなものを作成していた。

 簡素に作られた檻の中で、自発的に閉じこめられた魔法使いらが個人的なやり取りを交わしている。


「情けないですね……」


 キンシが悔しそうに呟いている。

 その体は怪物のウロコによってずたずたに切り裂かれている。


 左腕に至っては、骨と少しの肉と皮で何とか連続性を保てている程に損傷が激しかった。


「少し、少しのあいだ……眠ってもイイでしょうか……?」


 キンシが近くに立っている青年、鎖の持ち主であるトゥーイに微笑みかけていた。


 さて、魔法使いたちが互いに限界を伝え合っている。

 その間にメイは弓を携えたままで、こちら側に向かっている怪物の群れの相手をする羽目になっていた。


「ひゃああ……、こっちに来ちゃったわっ……!」


 怪物たちの集中が自分の方に向けられている。

 そのことに素直な怯えを見せていながら、しかしてメイは状況に拒絶感を抱いてはいないようだった。


 しっかりと、戦う意識はすでに用意できている。

 幼い魔女の様子を視界の片隅に認めながら、シイニは怪物の群れに視線を向けたままで、彼女に指示を言い渡していた。


「あとはほとんど雑魚、見たまんま雑魚(ザコ)しか残ってないから。君の鳴き声一つで払えるだろうよ」


 シイニが予測についてを話している。

 しかして子供用自転車の彼の目測が、メイの行動に役立つかどうかは、また別の問題でしかなかった。


 どうすればいいのか。

 理由を求めるよりも先に、メイは次の行動を起こす必要性に急かされていた。


 もう一度弦を鳴らすために、メイは腕に力を込める。

 だが、まだまだ慣れきっていない体では、そうそうすぐさま思い通りの動作を武器に命じることはできそうになかった。


 幼い魔女がもたついている。

 その間にも、怪物の群れは容赦なく幼女の体をキンシと同じように、ズタズタに切り裂かんとしていた。


「……!」


 自分にも斬撃が来ることを予期した、メイが弦を握りしめたままの格好でまぶたを硬く閉じている。


 怪物の気配が羽毛の毛先に感じ取れるほどに接近してくる。

 触れそうになった、だが痛みは訪れなかった。


「……?」


 メイがそろりとまぶたを開ける。

 すると目の前に怪物の一匹が、まさにメイの肉を切り裂かんとしていた鋭いウロコの重なり合いが、眼と鼻の先までに近付いてきていた。

 

「きゃ……!」


 あまりの素早さにメイが身をすくませている。

 だが怪物のウロコは幼い魔女の肉を捕らえてはいなかった。


 なぜなら、怪物の体はトゥーイの鎖によってその前進を阻害されていたからであった。


「ああぁぁぁぁp^^\\\ウウウuuuuあああぁぁぁぁあああぁあ」


 怪物の動きを空中に留めているのは、トゥーイの鎖によって編み上げられていた網だった。

 銀色の網は雨の雫と怪物の群れを虚空に捕らえている、トゥーイは鎖の端を握りしめて両の足を踏ん張っていた。 


「……ッ」


 重さを握りしめている腕、長袖の上着から覗いている拳に血管が膨らみ、皮膚にかすかなおうとつを浮かび上がらせている。


 鎖の端を投げ込み、ほんの数秒の内に網を作成したトゥーイ。

 青年の技巧に驚くヒマもないままで、メイはそれよりも優先すべき事柄に意識を集中させていた。


 弓を握りしめる、指先に意識を集中させる。


 小難しい技巧は求めなかった。

 とにかく己の持てる魔力を弦の音色にこめる、ただそれだけのことに集中をしていた。


 弓を引く、弦が魔女の指先から発せられる引力に反応して、その形状を再び変化させている。

 弦を引き絞る、限界までたどり着いたところで、メイは握りしめていた弦を一気に解き放った。


 魔力の波が怪物の群れにぶつかる。

 攻撃の対象となった怪物のウロコが、戦闘の意識を削ぐと同時にバラバラと破壊されていった。

こんばんは! 見つけてくださり、ありがとうございます!

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