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花びら咲かせてみせましょう

 メイはシイニの言っていること、主張していることをうまく理解できないでいた。


「それは、どういうことなのかしら?」


 把握もできないままで、メイは暗闇の中で手探りをするかのように、シイニに質問をしていた。


 メイに問いかけれられた、シイニは鈴をチリン、と鳴らして受け答えをしている。


「何も、特別なことなんてない。君も怪物と戦える、そうなんだろう?」


 シイニは子供用自転車のような形をした体を、その前輪の方向をメイの方に動かしている。


 当たり前のことを教えるようにしている。

 メイがシイニの意見に戸惑っている。


 その間にも、魔法使いらの状況は更なる困窮(こんきゅう)の渦へと沈み込まされていた。


「があっ!」


 キンシが叫び声を上げて、怪物の一匹に蹴りを食らわせようとしている。


 振り上げた右足が怪物の一匹、金属のように鋭いウロコをもつ魚のようなそれに炸裂する。


 ガシャリ! 硬質な崩壊の音色と共に、怪物のひとつが破壊されていた。


「二匹目……ですね……」


 振り上げた右足を元の位置に戻しながら、キンシは乱れた呼吸を静かに整えている。


 少女は肩を上下させながら、依然として自分等を取り囲む怪物の群れに睨み付けるような視線を向けている。


 それは憎悪をよく似た激しさを持ちながら、しかして恨み辛みに起因するものとは大きく異なっている。


 未知なる状況、己の存在が脅かされている。

 キンシはそれに対して、新鮮な驚きと同時に歓喜のようなものを覚えているらしかった。


 魔法使いの少女の感情に呼応するように、怪物の群れも活動の激しさを増幅させ続けていた。


 増え続ける活力の質量。

 やがて群れの一部分が、然るべき結果を迎えるように、キンシの左腕めがけて決定的な攻撃を行っていた。


「llllcllあーllllcllあー」


 怪物の群れの一つ、一匹がキンシの左腕めがけた突進をする。

 それは雨風が通り抜けるほどには、些細な動作でしかなかった。


 それほどに簡単に、安易に、キンシの左腕は怪物のウロコによって切り裂かれていた。


 皮膚に硬さが触れた。

 血管が破られ、血液が溢れ出すよりも先に、怪物のウロコは少女の肉をえぐりとっていた。


「キンシちゃんっ!!」


 メイが叫ぶ。


「……ッ」


 そして少女の近くに立っていた、トゥーイが動向の変化に身体を緊張させていた。


 血の飛沫が少女の、キンシの体から飛び散った。

 赤い雫、大小それぞれの粒がトゥーイの上着、はおっている作業服をくらくそめている


「ぐうっ」


 キンシが潰れたカエルのようなうめき声を喉からこぼしている。


 ぼたぼたと血液が左腕の損傷から排出されている。

 体液の質量に、害を受けた本人以上にメイが強く動揺を来していた。


「どうしよう……!」


 メイが白色の羽毛をブワワ、と膨らませながら興奮をしている。

 幼い魔女が感情を激しく動かしている。


 それを視界の内に認めていた、シイニが一拍の余韻も許さぬ合間に彼女へ指示を発していた。


「急いで! これを使うんだ」


 シイニはそう言いながら、子供用自転車の体から右腕を一本発生させている。


 自転車から生えてきている、爪の無い指の間には一振りの武器……、と思わしき道具が握りしめられていた。


 硬い材質を細長く切り分け、湾曲させたもの。

 それは弓のような道具で、シイニはそれをメイに手渡そうとしていた。


「え、え?」


 いきなり弓を目の前に提げられた、メイは当然のこととして戸惑いを隠そうともしなかった。


「これを、私に……?」


 疑問を抱く途中にて、しかしてメイの指はすでに武器を手に取ることを選択している。


 幼い魔女の白く細い指に弓が携えられた。

 行動を確認した、シイニはすかさず弓の使い方をメイに教えようとしていた。


 といっても今、この状況において丁寧なレクチャーをしている暇は、どう見ても許されてはいなかった。


「とりあえず弦を引いて、離すだけも、それだけで十分だろう!」


 簡単な予想をしている。

 それは期待に近しい強引さがあった。


 しかし戸惑っている暇はもう許されていないだろうと、メイは彼女自身が作り上げた予想に追いたてられるように行動を起こしていた。


 左の指で弓の本体を強く握りしめ、右の指で弓の弦をわしづかみにする。


 細い筋は指の力に合わせて動く。

 反発力がメイの指、手のひらの内側を圧迫した。


 弦が魔女の白く柔らかい肉に食い込む。

 圧迫は細長く、面積の狭さがそのまま力の強さに加算されていくようであった。


 現時点において許されている限界、そこまでメイは力一杯弦を引いた。


 そして、あまり時間をかけること無く限界、その向こうが彼女の両腕に訪れていた。


 メイが弦を放す。

 同時に、バチュンッ!! と激しい炸裂の音色が空間に響き渡っていた。


「きゃあ?!」


 音の存在に、発生源の一つであるメイ自身が先んじて驚いていた。


 音がした、それはただ「普通」に空気を振動させるものとは、あからさまに異なっていた。


 弓と弦、もれなく魔法の武器であるそれらは、使用者からの動作によって魔法の力を周辺に炸裂させていたのであった。

こんばんは! 見つけてくださり、ありがとうございます!

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