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悪夢ならこのまま続いて、もっと苦しめて

 精神的な含みを持たせない、単純な疲労感からなる溜め息をキンシは口から吐き出していた。


「ここまで書いたら、今日の分の消費はまかなえるでしょう」


 ひとりで納得をしている、キンシの手元の道具が入力に合わせて動作をしていた。

 複雑に絡み合った金具たちが決めれた動作の中で、内部に含まれた紙のそれぞれに文字を印刷している。


 自動で動いているように見える、だがそれはキンシの入力した内容に沿って行動をしているにすぎなかった。


 ガシャン、ガシャン、と機織り機のような道具が紙にインクを浸透させ続けている。

 その近くにシイニは寄りながら、子供用自転車の姿で道具の持ち主、キンシに質問を投げかけている。


「狩りで得た獲物を、その血肉を此処でインクとして紙に印刷している、ということか」


「ええ、まあ……大体そんな感じです」


 シイニに改めて説明をされた、キンシはどことなく恥ずかしそうに左耳あたりの毛髪を爪でカリカリと掻いている。


 魔法使いの少女から同意を得られた、シイニは謎に納得をしたかのように鈴をチリン、と鳴らしていた。


「どうりで、君のように若くて未熟な魔法使いが、ああも怪物に拮抗した力を発揮できると疑問には思っていたが」


 合点が行き届いたかのような声を発している。

 シイニに対して、キンシが恥ずかしそうに微笑んでいた。


「これも先代の()()()が一つずつ丁寧に集めてきた、その賜物(たまもの)で……。だから、僕個人の力なんて本当に微々たるものなんですよ」


 謙遜として扱うには、あまりにも声音に暗さが多すぎている。

 陰りのある表情に、シイニがすっと右の指を差し向けていた。


「たしかに、これだけの量を集めるのは個人では到底無理そうだ」


 指で差されている、キンシはシイニからの追及を黙って聞いている。


「それこそ、毎日二十四時間、空気を吸うように怪物を殺し続けたとしても、キンシちゃん、君の人生程度でこれだけの分量を記しきることなんてできないはずだ」


 書架の多さについてを指摘している。

 シイニに問いかけられている、キンシは彼の指先に目線を合わせようとはしなかった。


「さて、魔力の補充も終わった事ですし、引き続き探索をしましょうか!」


 あからさまに話題を逸らそうとしている。

 キンシの稚拙なる話術では、いわゆるナチュラルなる展開の転換は到底望めそうになかった。


 指摘をしようと思えば、いくらでも出来たかもしれない、隙は十二分(じゅうにぶん)に存在していた。

 しかし、シイニはここで魔法少女の油断を指摘しなかった。



 回復をし終えた、時間はそれなりに経過をしているらしかった。


「もうすっかり、よなかよ」


 暗黒に包まれている世界の中で、メイが誰ともなしに不安げな呟きをこぼしていた。


「よい子はこんな時間におそとであそんでちゃ、いけないわよ?」


 メイが注意をしている。

 それにキンシが笑顔で答えていた。


「それなら大丈夫です、なんてったって僕らは魔法使いです。ちょっとぐらいの悪事、なんの問題もございません!」


 幼い魔女の不安に対して、魔法使いの少女はどうにも的外れな解答だけを用意している。

 幼女と少女がそんなやりとりをしている、その間にトゥーイはシイニの体をある程度の場所へと運んでいた。


「目的地まで、あと数メートル」


 トゥーイが首元に巻き付けている音声補助装置にて、電子的な音声によるナビゲーションを行っている。

 その腕の中には子供用自転車一台、つまりはシイニの体が一つ分抱えられていた。


 青年の両腕に抱えられている格好のままで、シイニは彼に細々としたアドバイスを行っている。


「もう少し西側、いや、個人的には右側にいきたいところだが」


 謎のこだわりをみせようとしている。

 シイニからの主張もそこそこに、トゥーイは適当な場所を見つけて彼の体をアスファルトの上に頬り投げるようにして置いていた。


「いった?!」


 鈍い音色を奏でながら地面に降り立った、シイニがトゥーイに対して文句を呈していた。


「ちょい! 手前は一応お客様、依頼者様なんだぞ! もう少し、丁寧な扱いをしてもらいたいとこだね!」


 クレームを言葉に発しながら、しかし言葉のすぐ後ろではすでに他の事象への関心を高めていた。


「まあ……、頼みごとをしてくれる人にこれ以上の贅沢は求めたくないがな……」


 あからさまに不服そうにしていながら、シイニは暗に依頼の成就を期待する素振りを作ってみせている。


 メイが、改めてシイニに問いかけている。


「たのまれたことは、どんなことだったかしら?」


 幼い魔女の疑問に、素早く回答をよこしていたのはキンシの声だった。


「シイニさんがかつてお世話になったご家族、その捜索でしたよね?」


 確認に次ぐ確認作業。

 単純な同意を返すことも、まだ状況には許されてはいた。


 しかし彼は、自らに生じた余分を許すことをしなかった。


「そういうことに、一応はなるんだろうね」


 シイニが含みを持たせるように、言葉の方向性をキンシの方に差し向けている。


「だが、さっきのものを見て、それだけじゃ足りないことがよく、ようく、わかったよ」

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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