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フェイクの本棚たちに騙されないようにしなくては

 扉の奥には大量の書架が広がっていた。

 それはハードブックのように見える、書籍は空間の終わりまで空間を余すことなく埋め尽くしていた。


 シイニがキンシに確認をしている。


「ここにある書籍、のように見える……保存されたものが全て怪物の残滓であると? そういうことになるんだな」


 子供用自転車の姿をしている、彼に事実を確かめられたキンシが小さくうなずく。


「正確には、彼らの血肉を消費して記録したもの。……と申した方が正しいかもしれませんね」


 すでにトゥーイの腕を借りることを必要とせずに、キンシはひとりだけの力で「水」、のように見えるエネルギーの塊の中を漂っている。


「集めたものを加工して、本の形に収めている。そこから漏れ出た微量の魔力が積もり積もって、このように海さながらの形質を為しているわけでして……」


 詳しい説明もそこそこに、シイニはキンシに対して核心をつくような質問を投げかけていた。


「君が刈り取った獲物たちは、ここに保存されている。どうして、そんなことをする必要があるんだい?」


 魔力を溜め込んでいる、その理由を問いかけられたキンシは、しばらくの間黙っていた。


 考えた後で、キンシはぽつりぽつりと言葉を選んでいる。


「それはもちろん、自分のために、集めているのですよ」


 降り始めの雨のような、ゆったりと不安定なリズムで返事を用意している。


 おそらくは、半分以上は本当のことを語っているのだろう。

 そう察せられた。

 しかしてほぼ同時に少女が言葉のなかに虚偽を含ませていることを、話を聞いた彼らは予感していた。


「キンシちゃん」


 秘密を抱えている、メイが子守唄のように優しげな口調でキンシの方に視線を向けている。


「この場所のひみつは、まだ私にもおしえてくれないのよね?」


 一応、同居人である自分の関係性を主張している。

 決して赤の他人ではない、それだけの関係性を結んでいる。


 事実を前置きしながら、メイは得られたチャンスを逃さぬように要求を続行させていた。


「このさいだから、あなたの魔法のひみつをバラしちゃわない?」


 メイに求められた。

 キンシは困惑したように、口元に薄い笑みをにじませていた。


「困りましたね……」


 まず最初に率直な感想をぽつりと呟いている。

 キンシにしてみれば、その一言こそが最大限の本音であったのかもしれない。


「ですが、ですよ」


 だが迷いやためらいはほんの少し程度で、次の瞬間にはすでに新しい決断を取り入れていた。


「せっかくここまで招き入れてしまったんです。今さら何をためらう必要がございましょう!」


 キンシがそう宣言をしていると、声に反応して周辺の「水」が(あぶく)を発生させていた。


「…………」


 言いきったキンシに、トゥーイが無言のままで視線を向けている。


 眉間にかすかなしわを寄せている。

 トゥーイはどうやら、キンシの行動に不安を抱いているようだった。


 心配そうに見つめている、青年の視線にキンシが小さく笑みを返していた。


「大丈夫ですよ……、本当に大事なところはキチンと隠しておくので」


 魔法使いの少女が、同じ魔法使いである青年を安心させようとしていた。


 しかし少女の気遣いは、残念ながら青年にあまり意味をなしてはいないようだった。


 持ち主に誘われる形として、彼らは魔法使いの書庫のなかを進んでいる。


「……おや?」


 ふと立ち止まっているのは、シイニの姿であった。

 子供用自転車の姿のままで、彼は車輪を書庫の途中にて停止させている。


「どうかしましたか、シイニさん」


 前触れもなく動きを止めた彼に、キンシが早くも緊張感を体の芯へと走らせている。


 どきどきと動悸を抱いている、キンシとは対照的にシイニの声音は落ち着き払ったものだった。


「いや、ちょっとばかし美味しそうな匂いがしたもので」


 少しだけ恥ずかしそうに、シイニは鈴をチリンと鳴らしている。


 彼はどうやら書庫の中にある、とある一冊に関心を抱いているらしかった。


 シイニにしてみれば、出来ることなら実際に手を伸ばし、指で触れて本の一冊をより子細に確かめたかったことだろう。


 だが今の彼では、子供用自転車の姿を借りているその姿では、それもまた限りなく不可能に近い行為であった。


 何も出来ないままで、ただ視線だけをその一冊に差し向けている。


 彼の行動に気づいた、キンシが何気なく一冊を手に取っていた。


「これが、どうかしま──」


 本の持ち主が触れた。

 その瞬間に、シイニの体から大きな影が生まれていた。


 それは人間の腕で、ちょうど成人した男性の右腕一本ぶんの大きさがあった。


「うわ?!」


「きゃああ!」


 突然空間に現れた男性の腕に、キンシとメイがそれぞれに悲鳴を上げている。


 彼女たちの反応もよそに、シイニは平坦とした様子で生やした腕を自分の一部として操作していた。


「なるほど、なるほど、これはなかなかに大容量」


 謎の感嘆符を口にしながら、子供用自転車、および一部分だけを人間のそれに戻している。


 シイニは早くもどこか満足げな様子で、本の一冊をキンシら、魔法使いのいる方へとかざしていた。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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