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君と素敵な週末(終末)を過ごしたい

 キンシの体から発火した原因は、シイニの後方車輪に隠されていたメモ用紙が関係しているらしかった。


 とりあえず燃えカスになる前に沈下した、左腕を抱えながらキンシが状況を理解しようとしている。


「その……メモ用紙に、強力な防護魔術式が組み込まれていたようですね……」


 まだブスブスと熱の気配のようなものが残っている、左腕を抑えるようにしながら、キンシが冷静ぶった解析を行おうとしている。


 だがその様子はとても平常とは呼べそうになかった。

 キンシは自分の頭部全体、こめかみから額の生え際にかけて粘度の高い汗が、あとから止めどなく溢れてきていた。


 メイが、ようやく少しの行動を起こせる程度に回復した意識の中で、キンシの身を案じていた。


「キンシちゃん……体は、うでは大丈夫なの……?」


 確認をする口ぶりを作ってはいるものの、メイはすでに炎の存在を直に視認していた。

 人間の人体がどれほどのダメージで使い物にならなくなるのか、それはメイにとってあずかり知らぬ情報だった。


 よく分からない、炎の正体も依然として不明瞭なまま、意味不明だけがただひたすらにメイの心へ不安を掻き立てていた。


 幼い魔女が、その椿の花弁のよな紅色をした瞳を不安定に揺らしている。


 彼女の不安を解消するかのようにして、キンシはなんて事もなさそうに左腕をブンブンと回していた。


「大丈夫ですよ、お嬢さん。なにも心配することはございません」


 口でこそ調子よく、調子の良し悪しを客観的に評している。

 しかし言葉とは裏腹に、キンシの左腕はとても無事とは言えそうにない状態へと陥っていた。


 トゥーイの唇によって、ある程度の魔力は吸い出されていた。

 だが燃焼のような激しさを持つ魔力の暴走は、もうすでにキンシの肉体に確実なダメージをもたらしていた。


「うでが……?」


 傷ついた、メイは少女の一部に触れようとした。

 しかし伸ばした指先は虚空だけを撫でている。


 距離感を把握することができなかった。

 なぜなら、メイはキンシの腕をうまく視認できていないからだった。


「透明になっているわ……」


 今度は強く意識を働かせながら、メイはそこでようやく少女の一部に指先を触れさせている。


 そこまでして、ようやく存在を認識できている。

 それほどまでに、魔法少女の左腕に存在感が失われていた。


 透明感はいちじるしく酷く、空から落ちてくる雨水となんら変わりの無いほどだった。


 魔力による青白い炎は、結果から見るに有機物を燃焼した訳では無いようだった。


 それ以外の要素、さながらキンシと言う存在を確立する何かしらを消費して、炎は揺らめいていたようだった。


 限りなく透明になってしまった。

 メイは触れているはずのその部分が、次の瞬間、ほんの少しでも目をそらした途端に、跡形もなく消え去っているのではないか。


 そんな不安にかられている。

 魔女の感覚、驚愕に対して、以外にもキンシ本人は気丈なるふるまいをみせていた。


「ちょっと痛かっただけですよ」


 とにかくメイを安心させようと、キンシは己の体力が許す限りの平凡さを演出している。


「ほら、このように……」


 本来ならばここで逆立ちひとつ、バク転ひとつでも決め込みたかった。


 しかしながら、残念なことにキンシの限界はすぐそばまで近づいてきていたようだった。


 足を一歩ほど動かそうとした、たったそれだけの動作が、ちょうどエネルギー切れの合図となった。


「あっ……?!」


 動くはずだった肉体が、ただ素直に重力に導かれるまま、アスファルトのうえに落ちようとしている。


 自制から外れた動きに、キンシは慌てることさえ上手くできないでいた。


 余裕の無い、少女の体が倒れかけた。


「……っ?」


 来るべき、訪れて然りの衝撃に備えて、キンシは口を固く結んでいた。


 閉じられた唇、奥歯が強く噛み合わさっている。

 だがキンシが予期した衝撃は、待てども待てども彼女のもとに訪れなかった。


 反射的に閉じていた目蓋を開ける。

 すると視界のなかに、トゥーイの無表情が見えていた。


「…………」


トゥーイは言葉で何かを伝えようとはしなかった。

音声を使うことができない、なのでそこに広がるのは沈黙ばかりだった。


しかしながら青年はそれ以外の要素をふんだんに使用して、キンシに対する憤りを表現していた。


無言で睨み付けている。

アメジストのように鮮やかな紫色をしている、トゥーイの瞳はキンシの姿を捉え続けていた。


「先生」


トゥーイが首元の装置で、キンシのことを指す呼び名を使った。

だが彼が全てを、許されるだけの言語能力で彼女に伝えることはしなかった。


それよりも先に、メイが明確なる提案を彼女、そして彼らに言葉として発していたからだった。


「このままじゃ、もくてきの場所にたどりつくまえに、病院のおせわになっちゃうわ」


メイはそういいながら、掴んだままになっていたキンシの腕、その感触を再確認している。


「いったん帰りましょう、いろんはあるかしら?」


問いかけられた、メイにキンシが返事をする。


「異論なし、です……」


トゥーイに抱えられた格好のままで、キンシは左の腕を弱々しく上にあげていた。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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