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鬼とお姫様はまだゲラゲラと笑わない

 メイにそう指摘をされた、キンシがそこでようやく周辺に意識を向けていた。

 

「そういえば、そうですね……確かに、風景がずっと変わっていないような気も、しなくもないですかね?」


 今の今まで自分の関心が向かうものしか注目していなかった、その弊害が遅ればせながらキンシの意識を圧迫し始めていた。


 キョロキョロと視線を泳がせているキンシに、メイが不安げな声を重ね合せている。


「ほんとうに、こっちの方角であっているのかしら? もしかして、同じところをずっとぐるぐる、ぐるぐる回っているんじゃないかしら」


「あはは、そんなまさか」


 メイの不安をキンシがはぐらかしている。

 だが魔法少女の瞳は、もうすでに誤魔化しきれないほどの不安要素に満ち満ちていた。


 彼女らが憂いに震えている。

 その様子に追い打ちをかけるようにしているのは、トゥーイからの電子的な音声であった。


「容認。ちなみにその壁が三分前の障壁と同様の性質を持っている」


 青年の首元に、まるでペットの首輪のように巻き付けてある音声補助装置。

 金属質な輪っかから述べられた内容は、少なくとも魔法少女にとっては安易に容認しがたいものであった。


「怖いこと言わないでくださいよ! トゥーイさん……!」


 怯えているキンシに、シイニが疑問の声をあげていた。


「あの……彼は何のことについて言っているんだろうか……?」


 子供用自転車の姿をしている。

 彼にとっては道がループしていることよりも、青年の言葉遣いの方が違和感を覚えるものだったらしい。


 しかしシイニがトゥーイの怪文法に疑問を抱いているのに構うことなく、キンシは光景の継続に引き続き疑問点を訴えかけていた。


「方向は合っているんですよね、もしかしておふざけで僕たちに嘘の道順を……?」


 一気に疑心暗鬼に陥ろうとしている。

 だが、互いに疑い合っても無意味であることは、他でもない彼ら自身が他の誰よりも強く自覚していた。


「これはいけません」


 キンシがさながら聞き感たっぷりでいるかのような、そんな声色を使っていた。


「このままでは目的の場所に辿り着くよりも先に、雨が止むか、日が暮れるかのほうが先に来てしまいます」


 時間の経過に怯えを覚えている。

 現状を解決するための手段を、魔法使いたちは模索しようとしていた。


 トゥーイがシイニにむけて、右の腕をスッと伸ばしている。


「要求する、道順に関する重要かつ明確なる情報」


 装置で発音をしている。

 内容はシイニに対して、目的地の分かりやすい所在についての情報を求めるものであるらしかった。


 トゥーイに頼まれた、シイニは自分の身体を小脇に抱えている青年の方に、鈴をチリンと鳴らしていた。


「えっと、そうだね……手前の後方車輪の方にメモ用紙が挟み込まれているはずだから、それを参考にしてくれないかな?」


 指の無い彼は、言葉だけで自らの体表に収められている情報源を検索することを推奨していた。

 指定された内容に、早速反応をしていたのはキンシの左腕であった。


「えーっと? このあたりですかね?」


 袖をまくったままの左腕、布に覆われていない部分がシイニの表面を探っている。

 呪いによって焼かれた火傷の痕、水晶のような、あるいは少し濁った海の水のような透明度を持つ。


 左腕がシイニの後方車輪、タイヤとカバーの隙間に挟まれている部分に触れた。


「んんー……?」


 暗い隙間に指を滑り込ませた。

 ある程度奥へと進んだところで、キンシは指先にメモ用紙の一枚を掴もうとした。


「あ」


 だが、触れた瞬間からシイニの後方車輪で光が炸裂した。

 光、それは爆発のような激しさと熱をもっていた。


「…………ッ!!」


 キンシ本人が驚くよりも先に、トゥーイが腕の中にあるものを少女から離していた。


「わああ?!」


 放り投げられたシイニが、悲鳴をあげる暇も無く地面に叩き付けられた衝撃に言葉を押し潰されている。

 しかしながら、魔法使いらは今彼に意識を割いていられる余裕をもっていなかった。


「う、ぐうう……」


 キンシが苦しんでいる。

 魔法少女の腕は、指先から肘に至るまで青色の炎に包まれていた。


 ボウボウと音を立てて、炎はまるで舐めとるかのように少女の表面を焦がしている。

 皮膚が焼ける、産毛が炭になる、なんの加工もされていないたんぱく質が焦げる。


 不快な臭いが周辺に充満する、臭気は雨の気配にも誤魔化しきれぬほどの存在感を有していた。


 キンシは唇を強く噛みしめていた。

 四方八方から大人の手で強く叩き続けられているような、そんな感覚が左腕の半分を支配し尽くしていた。


 悲鳴をあげられなかったのは、許容範囲外の痛覚に驚いていた、というのも理由の一つになる。

 だがそれ以上に、キンシは自分の肉を焼いている炎の存在、その不可解さに対する疑問点に思考のほとんどを支配されようとしていた。


 メモ用紙を掴もうとした瞬間に、キンシの左腕は謎の炎によって焼かれていた。

 それは魔法の炎で、あろうことか呪いの炎に違いないものだった。


 キンシが、ある程度時間が経過した所でようやく悲鳴をあげる。

こんばんは、ご覧になってくださりありがとうございます。

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