自虐家の知り合いたち
少年少女は、
少しばかり激しかった会話が終了し、最早兄妹にとってはこれ以上この場に留まる理由など無いも同然であった。
「キンシさん、それにキンシさんのおともだちの人」
メイはキンシとトゥーイの方に早口で語りかける。
「せっかく助けていただいて申しわけないけれど、いまの私達にはなんの持ちあわせもないの」
兄の体液にまみれた腕を、同じく体液がたっぷり付着している手でしっかりと握りしめながら、キンシ達に向けて深々と頭を下げる。
「だから、私たちはあなた達になんのお礼もさしあげられない。ごめんなさいね」
その小さな体にはおよそ見合わぬほどに丁寧な断りの言葉に、キンシは相手以上に恐縮して身をちぢこませてしまう。
「いえ、いえいえそんな。いいんですよ、こんなのは僕が勝手にやったことでして、お礼を言われるほどの事でも………」
「だけど」
言葉を濁すキンシにメイは声を重ねる。
「あなたはただおしごとをしてくれただけで、そのお礼もできないことは恥ずべきことです」
ルーフは無言で妹の主張を噛みしめる。
そうなのだ、このインチキ手品師は、もとい魔法使いの子供はあくまでもこの世界に存在している魔法使いが、「当たり前」にこなしてきている作業の一つをおこなっただけで。
「そういえば、確かにお金の問題は発生するよねえ」
それなりの作業を終えたらしいヒエオラ店長殿が、ごくごく当たり前のように会話に割り込んでくる。
「こんだけ大きな彼方を退治したんだから、本当ならすんごいボーナスがあってもいいくらいのはずなんですけれど………。
そこんとこどうするの? キンシ君」
怪物退治から餓鬼の喧嘩、その先は金銭問題と話の展開にルーフは目が回りそうになる。
と同時にしっとりと存在感のある不安が頭痛とともに訪れてきた。
そうだ、ルーフは自分と同じような顔で眼球に混乱を浮かべているキンシのことを見る。
こいつは魔法使いだ、灰笛と言う町に生きている魔法使い。
この町において魔法使いと呼ばれる種類の人間は首都などの他の都市と比べいささかオカルティックに欠けている。
その代わりにもっと現代文明に則した、いわば職業の一つとして捉えられているのがこの場所、この町、灰笛における一般的な概念である。
つまりは、魔法使いが魔法によって他人を助けたならば、責任のもとにそれなりの相応しい報酬を与えられるべきで。
要するにこのままだと若き魔法使いはタダ働きで、命の危険がある仕事を課せられてしまったということに。
「この町における魔法使いの方々ルールはお爺さま、祖父から聞かされてきました」
妹の言葉が兄の脳内に祖父の声を蘇らせる。
灰笛の魔法使いは決してお伽噺の存在ではなく、そこにいるのは只の魔法を生業にしているだけの人間であると。
「いつか、いつかしかるべきほうしゅうをキチンとお払いいたしますので、今はまだまっていてくれないでしょうか?」
とたん、ルーフは自分のことが酷く惨めで、悲惨なまでに情けない奴だと思えてくる。
こんな、こんな幼い妹にいかにも大人じみた社会への心配をさせてしまうなどと。
自分は、
自分は一体何をやっているんだ?
情けない、
屑が。
命にまるで価値がない。
そのようなことを少年は自虐し、
そしてどうやら同じようなことを魔法使いも考えていたらしい。
交わりませんでした。




