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夜に流すアスファルトの破片を飲み干そう

 トゥーイは鎖を構える。

 金属の連続体、その連なりの途中を拳のなかに強く握りしめる。


 硬さを手の平、その内側に確認する。

 腕に意識を巡らせる、トゥーイは右の腕を大きく振り上げた。


 野球の投球フォームのような、それとよく似た軌跡を描く。

 青年の動きに合わせて、鎖の先端が怪物の胴体に巻き付いていた。


 イノシシの上半身と魚のような下半身を持つ、怪物の境目のあたりにトゥーイの鎖が激しく巻き付いている。


 金属の連続体が、まるで捕縛をするように怪物の胴体に密着をしていた。

 繋げられた感触を腕の中に、トゥーイは右腕を力いっぱい横に薙いだ。


 青年の体が動く、それに合わせて鎖が捕らえた対象を空間から移動させている。

 引力が怪物の胴体、体の多くに発生している。


 魔法の鎖に引っ張られている、怪物は最初の瞬間こそ懸命に反抗を見せようとしていた。

 獣の上半身、蹄が生えている部分で懸命に地面にへばりついている。


 だが力比べに関しては、魔法を使ったトゥーイのほうが上回っていた。

 青年の腕力、そことつながっている鎖が怪物の体を引きずりあげていた。


 怪物が悲鳴をあげる。


「gigigigi?!」


 引っ張られる肉体に、怪物は驚いたような悲鳴を口元から発していた。

 開かれる口の間から唾液が飛び散る、温かな雫はすぐに雨の冷たさに溶かされ、跡形もなく消滅していた。


 トゥーイは引き続き鎖を引っ張り続けている。

 鎖は引力に断絶されることはなく、その固く冷たい連続体を継続せていた。


 ついに堪えきれなくなった、怪物の体がアスファルトの上に引きずられている。

 怪物が倒れた、だがトゥーイは腕の動きを停止させようとはしなかった。


 鎖を引っ張り続ける。

 それに合わせて怪物の体もアスファルトの上を転げまわる、アスファルトの上を怪物のウロコが摩擦した。


 アスファルトに怪物のウロコ、肉体の一部がすり減らされていく。


 だがトゥーイは腕の力を一切抜くことをしない。

 緊張感に満たされたままで、トゥーイは鎖を引っ張る。


 怪物の体が鎖に誘導されるようにして、やがて建造物の側面に叩きつけられていた。

 柔らかいものと硬いものがぶつかる。


 柔らかい、怪物の体が壁へ密着するようにしている。

 鈍い音がした。それは怪物の骨や肉、皮膚が衝突によっていくらか破壊された音色だった。


 鎖を通じて、トゥーイは腕の中、手の平に怪物の損傷を感じ取っていた。

 感触を自覚したままで、青年はさらに腕を振る。


 関節の可動域を超えた。

 トゥーイは腕に込めた力をそのままに、動作をさらに継続させる。


 鎖に繋がれた、怪物の肉体が壁の表面を垂直に転げ回る。

 ゴリゴリと削られる音が鳴り響く、それは怪物のウロコが壁に衝突、磨耗させられている証だった。


 トゥーイが体を回転させる。

 指には鎖が握りしめられたまま、怪物の重さを振り回し続ける。


 引力に導かれるままにして、怪物の肉体が建物の壁からはがされていた。


 ウロコはすでにズタズタになり、固さに守られていた柔らかい中身が空間へあらわにされている。


 はがれたウロコが、破片となって地面の上に散らばる。

 皿を落としたかのような、そんな音が怪物の身の回りで幾つも発生している。


 はがされた、内側からは新鮮な血液が溢れている。

 ウロコに合わせて表皮も破かれている、真皮は薄い桃色をしている。


 断絶された毛細血管、そこから怪物の赤い血液が新しい雫を多量に形成していた。


 溢れて、こぼれ落ちる。

 落下したそれら、怪物の命の気配はしかして雨に溶かされようとしていた。


 怪物がうなる


「llllcll lllclc 」


 そこまでの損傷を受けていながら、怪物は尚も反抗の意を損なってなどいなかった。


 肉体のあちこちから血液を吹き出す。

 そうしていながらも怪物の眼球は敵の姿を捕らえ続けていた


 うなり声は止まらない。

 動きを止めないままで、怪物は魔法使い……トゥーイに向けて攻撃を実行しようとしている。


 空気が移動する音。

 それは怪物の口内、呼吸行為によって生み出される音だった。


「…………!」


 怪物の姿を、互いに繋がりあっている鎖の先端で感じ取っていた。


 いまこの世界で誰よりも、怪物と密接に繋がりあっているであろう。


 トゥーイはゆえに、怪物の身に起きつつある変化に誰よりも先に気づいていた。


 魔法使いの青年が見守る先、そこでは怪物が大きく口を開いている。


 開かれた空洞、そこへ唐突に白色の硬質さが生まれていた。

 鋭くとがっている、それは怪物の牙だった。


 短い、まるで本物のイノシシが持つ牙のように、生まれた器官は魔法使いに対する攻撃意識に満ち満ちていた。


その様子を見た、キンシが驚きの声をあげている。


「攻撃のための器官を発生させた……?!」


魔法使いの少女が、青年の近くの辺りに浮遊しながら、静かに驚愕をしている。


魔法使いらが興味深そうに見つめている。

その先で、怪物が突進のために肉体を激しく動かしていた。


叫び、上半身の蹄で地面を踏みしめる。

アスファルトを破壊するか、そうでないかの瀬戸際、怪物の肉体が魔法使いめがけて走り出していた。

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