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魔法少女と半魚人は仲良くできそうにない

 少年が新しい何かを得ていた。


 その間に、魔法使いの少女はまたしても戦闘の場面に参じてた。


「どおりゃあっ!!」


 時刻は夕刻に差し掛かろうとしている。

 暗闇が灰笛(はいふえ)という名の地方都市を包み込もうとしている。


 暗黒の中で、キンシという名前の魔法使いの少女が武器をふるっていた。

 場所は灰笛市内のビル群の上、魔力鉱物に基軸をおいた浮遊する建造物の群れ、そこでキンシという名の若い魔法使いが怪物との戦闘を行っていた。


 魔法使いの少女が戦っている。

 相手は怪物であり、その怪物はキンシの依頼人を襲おうとしていた存在でもあった。


 空気の流れ、風が吹く。

 うなり声のような音色が、魔法少女の体から重力を喪失させていた。


「よいしょっと」


 小さく掛け声を発しながら、キンシは建物の側面に爪先を触れさせている。

 魔法によって削り取られた重力が、キンシの体を建造物の壁に密着させていた。


 小さな羽虫のように、壁の上で足踏みをしている。

 キンシの姿を見ていた、メイという名前の幼い魔女が少女の名前を叫んでいる。


「キンシちゃん!」


 魔女に名前を呼ばれた。

 しかしてキンシはその言葉に返事をすることができなかった。


 なぜならば、魔法少女のもとに怪物の攻撃が放たれようとしていたからだった。

 それは氷の柱のような硬さを持ち、同時に水の流れと同等の柔らかさと俊敏さを有している。


「まさか、道の途中でこんなものに遭遇するとは、ですね」


 壁の側面、排気用のパイプにぶら下がりながら、キンシが低い声で呟いている。

 

 魔法使いの少女、彼女は今、とある場所に向かって歩を進めていた。

 その道すがら、彼女たちは一つの怪物に遭遇していたのである。


 時刻は夕暮れにさしかかろうとしている。

 茜に染まる空は、この灰笛には存在していない。


 かわりにあるのは灰色の空で、ただその光度が低くなる、雨の気配に太陽の熱が失われる、その変化しかなかった。


 夜が訪れようとしている、灰笛の都市は通常の眠りを始めようとしていた。

 そんな中で、魔法使いたちは土地に現れた異形のものと遭遇している。


 理由は単純で、どうやら彼らは道すがらの邪魔をされているようだった。


 キンシが息を吐きだして、建物の側面からゆっくりとした動作で降りている。

 建物の側面から降りようとした、その途中でキンシはパイプの一本に足を引っかけていた。


「あっ」

 

 本来つかむべきだった足場を急速に失った、キンシの体が哀れにも地面へと落下しようとしている。

 落ちる、その所で少女の体を別の動きが受け止めていた。


 それは青年の姿をしている、作業用ジャケットの下に浴衣のような薄手の着物だけを身に着けている。

 青年は雪のように白い肌と毛髪で、魔法少女を腕の中に認めていた。


「先生」


 青年が、首元に首輪のように巻き付けてある装置から、電子的な気配の強い音声を発していた。

 青年の姿を腕の中で見上げながら、キンシが青年の名前を唇に発している。


「ああ、トゥーイさん」


 自分と同じく魔法使いである青年、トゥーイにキンシが言葉をかけている。


「ありがとう、助かりました」


 簡単な礼を伝えている。

 キンシはトゥーイの腕から地面におりつつ、その瞳は今向かうべき敵のほうを見据えている。


 若い魔法使いたちが見つめている。

 その先、灰笛の都市には一つの怪物が発現していた。


 造形は魚の下半身に、イノシシのような上半分を持っている。

 数は三つほど、オートバイほどの大きさがある。


 アジサイのような紫色をした、下半身のウロコが宵闇に残された光の気配をかすかに反射している。

 怪物はハンコのような鼻を鳴らし、その下に広がる口を大きく開いていた。


 開かれた口の間、温かそうな赤い舌がぬらぬらと輝いている。

 柔らかく瑞々しい粘膜に包まれた、口の中にはしかして牙や歯などは用意されていなかった。


 怪物が上半身を、イノシシのように力強い足で地面を踏みしめている。

 まるで本物の獣のようにして、怪物は地面の上を駆け出していた。


「危ない!」


 突進してくる敵の存在に対して、叫び声をあげていたのは魔法使いたちにとって聞きなれぬ、男性の声であった。


 声の正体について注目をする暇もなく、魔法使いたちは走る怪物の姿に強く意識を働かせている。

 近づいてくるそれを、キンシは再び魔法によって飛び上がるように回避していた。


 飛ぶ、という言い方はしかしてこの場合にはあまり正しいとは言えない。

 魔法使いの少女は、まるで自分に許された重力を上に、天に変換したかのように空間の中を移動していた。


 空に落ちる。

 魔法少女の姿を追いかけていた、怪物が相手の休息の変化に戸惑いのようなものを見せている。


 動きが少し鈍っている。

 怪物の体に生まれた隙を、別の魔法使いは見逃さなかった。


「…………」


 トゥーイの体が空間にひらめく。

 青年魔法使いの手には、一振りの鎖が握りしめられていた。


 それぞれの両端にひし形を立体にしたような器具が備え付けられている。

 魔法のための武器を、トゥーイは近づいてきている怪物の肉体に巻き付けていた。

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