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ビニール袋を破ろう

 ルーフが己の認識力、視界の狭さに静かなる驚愕を抱いている。

 驚く分はそれで、すでに充分の質量を有していた。


 にもかかわらず、現実の方はどうやらルーフに更なる質量の驚愕を叩き付けようとしていた。


「作戦が、あります」


少年に提案をしているのは、ハリという名前の魔法使いの姿であった。


ハリはまるで、最良の案を思い付いたかのようにしている。

すでに若干の興奮を鼻息にふんふんと含ませながら、考え付いたそれをルーフに耳打ちしている。


作戦内容を教えられた。

ルーフは魔法使いが考えた作戦を、まずは頭のなかで整理する必要性に駆られている。


「なるほど…………」


眺めの沈黙を口のなかで、じっくりと味わっている。

やがて静けさが通り抜ける。その瞬間、去り行く静謐(せいひつ)を名残惜しむようにする。


その後にて、ルーフはハリに思うがままの感想を伝えていた。


「頭、おかしいんじゃないか?」


可能な限り冷静さを演出したところで、この感想の罵倒的響きを誤魔化すのは苦労が必要になりそうであった。


それほどに直接的な感想を叩きつけられた。

しかしながら、ハリの方はいたって真面目そうな雰囲気を崩そうともしなかった。


「ええ、ボクはいつだって、どんな時だって真面目に不真面目、ですよ?」


どこかで聞き覚えのある、子供じみた言い回しを使用している。

そんな魔法使いの、ルーフから見て右側から女の賛同が聞こえてきた。


「大丈夫やって、ルーフ君。この人、こう見えても意外と丈夫やから」


まるでわがままな子供を言いくるめるかのような、そんな口ぶりになっている


言葉を使っているのは、ミナモという名の妙齢の女であった。


ミナモは両手に携えていたビニール袋を、いったん地面の上に置いている。


クシャリ。

白色に着色されたビニール素材の、屈折された音色がわずかに鼓膜を揺らした。


ミナモは両手を自由にさせつつ、すぐさま指先でバックの中身を検索している。


肩掛け鞄の小さな袋部分から、ミナモは一体の人形を取り出していた。


「じゃじゃーん。素体(そたい)君三十一号! これを囮にしましょう!」


ミナモがその様な提案をしている。

彼女の手のなか、そこには一体の人形と思わしき一品が握りしめられていた。


大きさはミナモの手に少し長さが余っている。

おもちゃ売り場で見かけた、着せ替え人形をルーフは思い出していた。


ルーフが意味不明に更なる深みを持たせている。

そのすぐ近くにて、少年と相対を結ぶかのようにして、ハリが了承を高らかに発していた。


「よろしいですね! とてもよろしいです!」


意味を強く主張している。

るーふはそこでようやく、疑問を具体的な言葉に変換することに成功していた。


「それで! お前は……あの怪物を殺すつもりなんだよな?」


再度の事実確認のなかで、ルーフはすでに別の疑問点に目を向けていた。


「俺は、…………俺は、何をすればいいんだ?」


疑問を言葉にしている。

その時点でルーフはすでに、怪物を殺したがっている自信の姿を、どこか俯瞰(ふかん)的に眺めていた。



作戦の伝達をし終えた。

彼らは早速、思考を行動のなかに実行していた。


「できれば、早くに片したいところですね」


刀を再び構え直しながら、ハリがその様な希望を口にしていた。


「今日だけでも、ですよ? こんなにもたくさんの案件があって、このままだと古城の方々が対応に次ぐ対応に、パンクをしてしまいます」


要するに早く片したい。

魔法使いらしからぬ提案に、ミナモが意外そうな台詞を発している。


「あら、君にしてはずいぶんとマトモっぽいことをおっしゃる」


冗談めかした返答に、ハリはシンプルな回答だけを用意していた。


「社会を考慮、しているのですよ」


それだけのことを伝える。

その次の瞬間には、すでにハリは集中に意識を捧げ始めていた。


沈黙に身を委ねている。

魔法使いの近くにて、ミナモも作業を開始していた。


「さて、この素体(そたい)君にもう一工夫」


怪物が緩慢なる動きをしている。

そんな状況にて、ミナモは自らの道具の準備をしていた。


「展開、展開……。大きくなあれ!」


呪文のような、掛け声を唇に発している。

制作者である彼女の声に反応して、手のひらに握りしめられる程度のそれが、もとの大きさを失い始めていた。


縮められているのではなく、人形はその存在を増幅させられていた。


あっという間に、ちょっとした人間の子供一人ぶんの大きさにまで膨れ上がった。


ミナモは人形の上半身を支えるようにして、それを抱えながら怪物の方に接近をしている。


「はい! 囮さんね」


すとん、と用意された。

マネキンのようになったそれを、ミナモはルーフの視界の中に設置していた。


「あとはよろしく」


自信の仕事はこれで終わりであると、そう主張するかのように、ミナモは後方にさがっている。


囮を用意された。

それをルーフが、そして怪物が見ていた。


視界の中にそれを認めた、怪物がいの一番に反応らしきものを認めていた。


怪物が、鳴き声のようなものをあげている。


「!!アアア( ; 書くクククロ)゜謂いちい ゜!Σ(×ササササ_×;)!」


やはりそれは言葉、コミュニケーションの体を形成していない。

悲鳴のような、それはしかして所々に鈴が転がるような響きを有していた。


コロコロ、コロコロ。

擦れ合い、ぶつかり合う音色。


どうやらそれが、怪物にとって喜びの表現方法の一つであること。


そのことを理解した。

その間に、怪物は現れた囮を口のなかに含もうとしていた。


ぱっくりと、歯の無い口が暗闇を展開させている。

補食器官を目の前にした、ルーフは恐怖に毛穴が伸縮するのを感じていた。


食べられようとしている。

対象が自身ではないにしても、ルーフはその口、喉の奥に広がる暗闇に恐怖を覚えずにはいられないでいた。


囮、用意された人形が食べられようとしている。

開かれた口のなか、そこにルーフは決められた行動を注入しようとした。


銃を構える。

引き金に指をかける。


小さな金具が連続性のなかで、少年の指によって変化をもたらされていた。


緩やかな破裂音がルーフの鼓膜を振動させる。

衝撃が体の全てを振動させる。


耳が震える。

感覚に違和感を覚える。


だが、抱いたそれを具体的な問題とするよりも先に、魔法使いが更なる行動を起こしていた。


「とうっ!」


元気はつらつといった掛け声を使っている。

ハリは大きく跳躍をして、ルーフの前に体をひらめかせていた。


魔法を使い、その体から重力を削減している。

ほとんど無重力に近しい、状態から魔法使いは重さの向きを変えている。


そこは暗闇のなかだった。

開かれた口のなか、ハリは自らの意思で怪物の体内に侵入をしていた。


「ハリ……さん……!」


光景に対し、ルーフはたまらず叫び声のようなものをこぼしている。


それもそのはずだった。

もしもなにも知らぬ人物がこの光景を、魔法使いの行動に遭遇したら、おそらく絶句の一つでも起こすべき内容だった。


食べられてしまった。

いや、おのずから口のなかに侵入をしていった、魔法使いの肉体が怪物のなかに取り込まれようとしている。


喉が膨らみ、腹部と思わしき部分に重さが追加される。


「…………!」


その様子。

怪物の状態を、ルーフはジッと強く注目している。


しばらく、少なくとも十秒以上は時間が経過していたか。

呼吸を止めたままで、状態を保つことに苦痛を覚え始める。


その頃合いになって、ようやく怪物の腹部に鋭い変化が生じはじめていた。


ブシュリ。

柔らかいもの、あるいは薄っぺらいものが破かれる音色が響き渡る。


それは、魔法使いの刃が怪物の肉を裂いた音だった。

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