脳漿にまみれた満たされない弾丸
銃の存在を思い出した、ルーフはすかさず、とまではいかなくともそれなりに早くそれを手元にたずさえていた。
魔力の銃を構えている、少年にハリが提案をしている。
「ちょうど良いではありませんか、ルーフ君、その銃で魔力の注入を行うのです」
「はあ?」
さも妙案のように発している。
しかしながらルーフは、魔法使いの提案にうまいこと理解をくっつけられないでいた。
「何を、言ってんだよ」
反論としての意味合いよりかは、それこそまさに単純なる疑問点でしかなかった。
銃を使う、怪獣や怪物を殺せるかもしれない。
そんな道具と帰りみちの検索、二つの要素がルーフにはどうにも関連付けることが出来そうになかった。
少年が戸惑っている。
しかし魔法使いはそれ以上の言葉を彼に用意しようとしない。
困惑している彼らの元に、一応は部外者であるはずのミナモが助言を渡していた。
「たぶん、銃の機構を……仕組みを使って、ルーフ君の魔力を弾丸で樹の根っこに撃ちこむ。ってことだと思うで」
「ああ、あー……? なるほど…………?」
だいぶマイルドに、かなり柔らかくなった解説。
ルーフはそこでようやく、自分がすべき行動を頭の中にイメージすることに成功していた。
考えた、その上でルーフは次の段階、次なる悩みに小さく唸り声をあげている。
「でも、こんな所でそんな……、銃なんてぶっ放したら危ないだろ?」
ルーフとしてはこの場合において最も、もっともらしい意見を言ったつもりだった。
だが少年が期待する反応は、とりあえずこの場面には望めそうになかった。
「だいじょうぶやって、ルーフ君」
ミナモがそれこそなにごとも心配はなさそうに、ルーフへのアドバイスを続けている。
「ちょっと工夫をすれば、どうってことないんよ。それに、多分ルーフ君みたいな子だったら、ちょっと練習するだけですぐに上手くできるようになるはずやし」
「そんな……」
一体どこから、そのような自信が作れるのだろうか?
ルーフはミナモの思考形態に疑問を抱いている。
猜疑心たっぷりの視線を向けている。
少年の琥珀色をした左側の目に、ミナモはなんてことも無さそうな返事だけをよこしていた。
「だって、ルーフ君ってなんだか……まだ子どもだったころのエミル君と似ているんだもの」
「…………え?」
「ええ?!」
ほぼ同時に驚いていたのはルーフと、そしてハリの姿であった。
それぞれにきちんとした個性はあれども、ほぼ同タイミングにて感嘆符を唇に吐きだしている。
そして次に、ミナモへの反対意見を呈していたのはハリの声であった。
「いくらなんでも、エミルさんはルーフ君のような、ここまでの根暗むーぶめんとはかましませんでしたよ?!」
忘れてはならない事実を、あらためて言葉にしているかのような声色だった。
内容に関して、かなり直接的に自分の性格の暗さを指摘されたことは、あえてことでは何も言うまい。
そんな事よりもルーフの方でも、珍しくハリからの意見におおよそ全幅の同意を示せたことの方が、彼にとってかなり驚くべきことだった。
少年が静かなる驚愕を抱いている。
その間に、ミナモは魔法使いに対してのさらなる反論を速やかに用意していた。
「なにを言いますか、むしろエミル君の方がよっぽど粘っこくて、性格の暗い男だってば」
紛れもなく配偶者であるはずの人物を、聞き様によってはかなりけなしている言い回しを使っている。
だがミナモの表情はあっけらかんとして、それこそ本当の意味で心の底から、相手の根暗具合を信じきっているようでもあった。
「それに、根っこが暗いぐらいで、文句なんて言ってられないわよ。腹黒ならともかく」
「どういう基準何すか……」
人形師である彼女の、謎の価値基準にルーフが戸惑っている。
そんな少年の困惑に構うことなく、ミナモは次なる行動を彼に推進していた。
「ほら、そうとなれば善は急げ、よ」
「ええ……」
急かされている。
だがルーフは不思議と、焦燥感に基づく不快感は抱かなかった。
言葉を発している人間にもよる。
これがもしもミナモでなくハリであったならば、もしかすると睨みの一つも起こせたかもしれない。
だが現実は、そうはならなかった。
だから、ルーフは諦めて銃を使うことにしていた。
「よいしょ……っと」
パイプ椅子一脚分か、それよりかはいくらか軽いくらいのそれを持ち上げる。
植物園、この古城の主人の庭で使った……、もとい使わされた。
そのときと、ルーフの指と銃はあまり変化は無いように思われる。
銃を構成する材質。
木材の柔らかさはじっとりと重く、金属部分はひんやりとよそよそしい。
まだまだ他人行儀な気配がぬぐえていない。
ルーフは違和感を抱きながら、それを埋め合わせようとせずに、行動だけを頭のなかに思い浮かべている。
「えっと…………」
再び記憶を再検索する。
エミルがどのように武器を使っていたのか、それをもう一度思い出そうとした。
記憶はまだ新鮮さを失ってはいなかった。
だが、ルーフは思い描いたそれに少しの違和感を覚えている。
「弾は……」
「ここにありますよ」
探る手に、ハリが銃と同じ位置に引っかけられていた袋から、弾を五発取り出している。
用意されているものを、ルーフは一つだけ受け取っていた。
二回目だというのに、どうしてこんなにも緊張するのだろう?
考えようとした、理由を思い付く前に、ルーフは理解を先に至らせていた。
最初ほどの驚きが足りない。
やむにやまれぬ状況が不足していた。
二度目の状況というものが、ルーフに油断と安心を演出させようとしていた。
そしてそれは、あまり喜ばしくないものでもある。
「………」
自覚をしながら、ルーフは指で引き金の感触を求めた。
左手で銃身を支え、右の指で引き金に触れる。
呼吸を整える。
武器と体を密着させる。
使用するものを体の一部に、己の意識が届く領域にまで引きずり落とす。
静かな動作をしながら、ルーフは新しい動作をしなくてはならない必要性を求めていた。
これは攻撃のための動作ではない、あくまでも魔力を目の前の根に注入しなければならないのである。
「……、で、次ぎはどうすればいいんだ?」
ルーフが、武器を構えながら疑問を口にしている。
少年の再三なる問いに、やはりハリが同じような返答だけを口にしていた。
「だから、ですよ。ぎゅーってやって、ファー!! っと」
「さっきと効果音、変わってんじゃねえか」
追求もそこそこに、取りあえずは引き金をひくことにしていた。
何はともあれ、頭が働かないぶん体で、行動で現実のなかを進むしかなかった。
引き金をひく、金属の小さな仕組みが動く。
破裂音とともに、ルーフから見て直線上の前方に望める石の壁。
そこに生えている、樹木の根と思わしき器官が衝撃を受けていた。
魔力、と呼ばれる概念を強くイメージし、弾のなかに凝縮した。
想像のなかで、ルーフはカラーボールのような造形にたどり着いている。
いつだったか、テレビの防犯啓発の番組特集で放送されていたもの。
逃亡する犯人を捕らえるために、色を搭載した弾を、投げつける。
それが、ルーフがこの行動で導きだしたイメージの一つであった。
想像したものが、道具に意味を与えている。
破裂音がした、樹木の根がルーフの放った弾丸によって破壊されていた。
弾を一発撃ち終えた、ルーフが排莢をするためにボルトを操作しようとした。
その所で、穴をあけた樹木から変化が訪れていた。
最初は、確か空気が流れるような気配があったような気がする。
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