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両手が後ろに回る悪事をはたらこう

 まさに、あからさまにトゥーイは驚愕によって、その体を大きく震動させていた。


 それこそ、青年の無表情の方になれきってしまっていたメイが、彼の動作で彼以上に驚いてしまうほどだった。


「どっ……!」


 質問をしようとして、メイは思わず舌をもつれさせてしまっている。


「ど……、どうしたの? トゥ」


 幼い体をもつ魔女が、自身よりもはるかにサイズのある青年に心配を向けている。


 魔女に心配をされている。

 青年の方も、決して彼女の意向を無視したいわけではなかった。


 しかしてトゥーイの方は依然として他者に冷静な解答を用意できるような状態ではなさそうであった。


 黙りこくってしまっている。

 そんな青年のかわりに、キンシという名の魔法使いが魔女に事情の説明を……。


 と、その前に魔法使いの少女は今一度、対象に確認事項を用意する必要性にかられていた。


 キンシがトゥーイの腕の中にある、子供用の自転車、それに向けて話しかけている。


「シイニさん、質問よろしいでしょうか?」


 魔法少女が、子供用の自転車にしか見えない、「彼」に要求をしている。


 言葉のなかで、キンシは暗に自分の言葉が独り言で終わってはくれないものか、そんな期待を抱いていた。


 無駄に終わってほしい、そう願う。


 しかしながら、少女の願いは現実には叶えられることはなかった。


「大丈夫です」


 少女からの問いかけに対し、自転車が、さも当たり前のように受け答えをしていた。


「何でも、このオジさんに聞いてごらんなさい」


 シイニと呼ばれている。

 自転車は自らをそう呼称するように、成人をとうの昔に終えたであろう、成熟した男性の声音を使用していた。


 自転車の姿、とても声帯らしき器官は望めそうにない。

 そんな体であるのにも関わらず、シイニはまるで本物の人間、大人の男性のそれと変わらぬ音声を使用している。


 キンシが、どことなくおずおずとした様子で、自転車の彼への質問を続行していた。


「あなたは、……貴方は本当に、何者かの他人の意識を介して、この世界に召喚された。なのですね?」


 質問をするというよりかは、キンシはただシイニが発した言葉を、繰り返し口にしている。

 ただそれだけのことにすぎなかった。


 にもかかわらず、キンシはまるでその言葉を、内容を口にするのも恐ろしいと思っているようだった。


 それほどの動揺を抱きながら、それでも追求の手を止めようとしていない。


 魔法少女の、眼鏡の奥にある瞳には、すでにひとつのかたい決意にみなぎっているようだった。


 確認をする、少女の問いにシイニが、人間ではない姿の彼が答えている。


「その通り、手前はかつて、この土地に暮らしていた魔法使いの手によって、この世界に召喚されたものだ」


 かなり昔の話。

 少なくともキンシやメイが、この世界に個別の意識を獲得した時間よりも、だいぶ昔の話。


 この土地……つまりは灰笛(はいふえ)ということになるのだろうか。

 ここで、一人の魔法使いが禁忌を犯した。


「きんき……?」


 はやくも物々しい単語が登場してきた。

 メイが首をかしげつつ、声色におびえのような震えを含ませている。


 幼い魔女が抱いた不安。

 それに相乗効果を付属させるようにして、先輩であるオーギという名の魔法使いが補足をしていた。


「現代の法律ではもちろん、時代が時代なら打ち首、引き回しも目じゃねえよ」


「ひえっ……?」


 先輩魔法使いの言葉に、メイが怯えたような声をもらしている。

 述べられた内容に怯えるというよりも、魔女は先輩の低く唸るような声音に体を震わせていた。


 この先輩に限って、下手な冗談を言うとも思えない。

 そう思うからこそ、メイは彼の表現に強いリアルを想像せずにはいられないでいた。


 幼い体の魔女が怯えている。

 彼女の属している種族特有の、羽毛のようにフワフワとした体毛も、いまは水を被ったようにシュンとしてしまっている。


 魔女の様子を右側の視界に認めていた、キンシが先輩に対して顰蹙(ひんしゅく)の視線を向けていた。


「オーギさん、あんまりお嬢さんをイジメないでくださいよ」


 キンシが体を左に動かし、オーギの言葉から直接メイを守るように立ちはだかっている。

 後輩の魔法使いに注意をされた、オーギは声の調子をすぐに戻していた。


「ああ、スマン」


 オーギが、少しばかり調子に乗ったことについて、簡単な謝罪をしている。

 それでもメイが、依然として心臓をドキドキとした動悸を抑えきれないでいた。


 魔女の羽毛がしぼんだままになっている。

 それを確認した、キンシが彼女に補足説明のようなものを伝えていた。


「安心してください、お嬢さん。現代の技術力では、そう易々と異世界召喚をすることはできないので」


 言っている途中で、キンシは視線をとある場所に向けている。


「それこそ……古城に眠るとされる伝説の、すーぱーこんぴゅーたーでもない限りは、人為的な召喚は難しいとされていますよ」


 キンシはまるで自分に説明をするかのように、この世界の常識についてをメイに語っていた。


「だから、個人の力と技量だけで異世界召喚なんてものが、本当にできうるのでしょうか……?」


 最終的に問いかけのような、そんな気配で言葉を締め括っている。


 そんな突拍子(とっぴょうし)もないことを聞かれても、答えようがない。

 ……という反応が、本来魔法少女が求めていた言葉になるのだろう。


 だが、少女のそんな願いもまた、自転車の彼によっていとも容易く否定されることになった。


「それが、出来てしまえることも、無きにしも非ずなんでございますよ」


 シイニはそう主張している。

 ここまで来て、結局のところ彼は一度も自分の意見を否定しようとはしなかった。


 否定するまでもない。

 自分の語ることは最初から最後まで、余すことなく真実である。


 そう、言葉の外側で主張している。

 困惑を浮かべたのは、オーギの眉根と唇であった。


「もし、もしも、だ。あんたが言っていることが本当だとして……」


 オーギは一旦言葉を区切り、最後のチャンスとしてシイニからの否定を待ち受けようとした。

 だが、やはりというべきか、シイニに期待できそうなことはなにも無いようだった。


 オーギは、溜め息を吐きだすついでとして、考えられる予想を自転車の彼に提示している。


「マジだったら、少なくとも個人ででき得る方法じゃないってことは、確実に予想できるんだが」


 オーギがそのように語っている。


 内容を、メイが上手く理解できないでいる。

 すると、魔女の左側でキンシが先輩の発言を追いかけるように意見を発していた。


「複数の魔導関係者、魔的な能力を有した関係者の方々の力が必要になりますね」


 そこまで魔法使いたちが語った。

 すると、シイニの体から「チリン!」と涼やかな音色が響いてきていた。


 同じ硬さのあるものがぶつかり合う、それは鈴の音と思わしき響きを有している。

 魔法使いたちが疑問の手を一時停止させて、音のした方に、つまりはシイニのいる場所へと視線を向けている。


「失礼」トゥーイの右腕の中で、シイニは簡素な説明だけを呟いている。


「鈴が鳴ってしまいました、手前、興奮するとこの辺りに反応が出てしまうもので」


 このあたり……と言葉だけで説明されたとして、情報としてはあまりにも不明瞭すぎている。


 しかしこの場にいる魔法使いならば、シイニが自身の体の一部、自転車における(ベル)を指していることを把握していた。


「興奮すると、鈴が鳴るんですね」


 キンシが、今までの展開をしばし忘れて驚きを口にしていた。

 少女の様子に、シイニが妙に穏やかな様子で何かを思い出そうとしていた。


「いやはや。若い人の驚く顔なんて、何年ぶりでしょうねえ。オジさん、年甲斐もなくワクワクしちゃいそうだよ」

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