君の呼び名を決めたんだ、頑張って考えたんだよ
目を見開いた、
「貴方は許されざることをしました、そしてそれを僕は許すわけにはいかない。怒りが活魚のように降ってきそうです、今にも。僕はもう瓦を突き破りたい気分ですよ、明日の昼過ぎにでも武器の先端に痺れ毒を塗りこんでやりましょうか?何の関係もない彼にあんな酷いことが出来る貴方には、可能に出来てしまう貴方にはそれが相応しいと僕は考えます!」
聞くに堪えない罵詈を、聞く価値もない雑言を、
一通り言葉を吐き出し終えたキンシは、思ったことを言い終えたことにより一時的に満足げな表情を浮かべ、そしてすぐに再び真ん丸に濃茶なまなこを怒りでみなぎらせる。
激しく長い鼻息が一つ。
その後に、
若き魔法使いの鼻腔からタラン、と温かく赤々とした体液が漏れ出てくる。
「あ」
ヒエオラ店長を含めた外野の人々がキンシから排出される違和感に気付く。
「キンシ君、鼻血が」
店長が指摘しようと、
するより先にルーフが行動を開始してしまった。
「アア? 何だテメエ!」
牙の間から鋭く空気を吐いてキンシににじり寄る。
「何、なに? 何言ってんだよ。何が言いたいんだ!」
どうやら先程のキンシがだらりだらりと漏らした文句について、語気を荒めに質問したいらしい。
そんなことをいちいち聞いてどうするのよ、とメイは兄に対して呆れを抱いた。
しかしいちいち彼女も何も言わない。
助けたかったであろう、彼女にそのような冷ややかな視線を向けられているのにもかかわらず、ルーフは今キンシ一人しか視界に入っていないようだった。
「言いたいことがあんならはっきりと言え! このインチキ手品野郎が!」
パーソナルスペースもなんのその、ルーフは自分の鼻先をキンシの顔面に突きつける。
そうすると鼻腔から雨漏りのようにたれ流れている体液がより子細に見える。
ルーフは今は出来るだけその液体に気をとられないよう努める。
キンシの方も鼻を拭うこともしないまま懸命に狼狽を隠して、読んで字の如く目前にあるルーフの薄茶色な瞳孔を見据える。
「ハッキリと! ああ言いますとも! 言わさせてもらいますとも! 要するに僕はこう言いたいのです! 君は悲惨なまでに恩知らずで、礼儀知らずで、知らざるを知らないとも言えないようなチンケでチンチクリンな男性であると!」
相手に指摘されたことによって、幾らか明瞭さを増したキンシの罵詈雑言がルーフを刺激する。
とはいえそこまで来るともう、もはや彼らにできることも情けないまでに少ない。
「とにもかくにもですね! 僕に罵詈や雑言を吐くのはいくらでも構いませんが、いや! 全然構うことないですけれども!」
「どっちなんだ! それになんだそのややこしい言い回し、イラッとくる!」
「すみませんこれはただの癖です! 僕は気分が高まるとこうなる習性が、ってそんなことはどうでもいいんですよ、すごくどうでもいい! それよりも僕が貴方に望むのは、然るべき感情の操作と態度に表わす感謝が──」
「感謝ァ? 冗談じゃねえ、他人に感謝できる余裕なんか有るわけねェだろ! こっちは危うく死ぬところだったんだぞ!」
「それはもっともな意見として認めますが、だからと言って貴方の行動は認められるものではありません! やはり僕は望みます! 貴方からの相応しい謝罪を! 強要します僕の言うとおりにすることを!」
「うるせェよ! 誰がテメエみてェなクソ怪しいインチキ手品師の命令なんかきくか!」
「強情が過ぎますよ! 僕はもう耐えられそうにありません! この無能仮面野郎め!」
「だまれインチキ!」
「うるさい無能!」
…………………………。
………。
「あーあ………、まったく、あの子たちったら……」
安っぽい喜劇のように低俗で、三文レベルの悲劇的に無意味なやり取り。
それを見て、メイと言う名の幼女は深々と溜め息を吐く。
すっかり乾いて少しだけパリパリになっている体毛が、じっとりとした呼吸によってわずかに震える。
嘆かわしそうにしている彼女に、トゥーイが無言で近付く。
その手にはどこかしらから取り出したハンカチが握られていた。
お願い~♪ そろそろ飽きてきた~♪




