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やめて、火種をこっちに投げないで。迷惑だから

今世に花咲き、

 こんなところでまた、二度目を経験するとは。

  

 顔面右側の頬肉と頬骨に、まるで秋口の昼下がりのような爽やかさのある衝撃を文字通り叩きつけられながら、キンシに殴られたルーフはどこか遠く離れた意識で場違いに能天気なことを考えていた。


 キンシと名乗る魔法使いによってルーフは再び重力の感覚をその身にねじ込まれる。

  

 やっぱりどうして、改めて思ってみても一体どこにそんな力があるのか皆目見当もつかぬ細腕が、獲物を喰らうカメレオンの舌のように伸びる。


 硬く固く、責任転嫁が過ぎる殺人鬼を閉じ込めている牢屋のごとく堅牢に握りしめられた拳が、程よく脂が含まれている少年の肉をからめ抉った。


 煮えたぎる熱湯よりも熱く燃え上がる血液が暴力をふるった片腕を中心に、キンシの全身を猛烈な勢いで駆け巡る。


 その熱はバランスを崩した姿勢で赤く腫れ始めた顔面を抑えている少年の姿を見ても、収まりようがないほどの暴虐さがたっぷりと湛えられていた。


 彼にしてはそれなりの理由は自覚できるにしても、それでもあまりにも突飛に与えられた暴力に彼は人間らしく、ほんの一瞬の間だけでも恐怖を抱くことなく勇気を持って反抗を示す。


「いってェな! なにす──」


 示そうとしたが、しかし。



「何をしとんのじゃテメエ様はああああああっ?───」


 彼の声をはるかに上回る、耳の穴を犯し鼓膜を凌辱せんが声量の怒号がキンシのあまり大きくない口元から発射された。


 あまりにも大きく、遠慮や礼儀や上品さの欠片もないその大声は、その場所に居合わせたすべての人間に反射的な驚きと共に聴覚へ言い知れない嫌悪感を芽生えさせた。


 マシンガン的怒りをぶつけられた少年はもちろんのこと、少し離れた場所から喧騒を見守っている幼女と店長殿はすっかりこの事態に困窮しきっており、ほぼ蚊帳の外にいるはずの青年に至っては尻尾をくるんと内側に巻きながら両の耳をぺったんこにしてしまっている。


 明確すぎるほどにわかり易く周囲がドン引きしているにもかかわらず、それでもキンシは感情を抑制しようとしなかった。


 ほんの数分まで自身がされていたのと同じように、しかしそれ以上に呼吸を激しく刺々しく荒げてキンシはルーフの襟首を鷲掴みにした。


「………───、」


 厚みのない、血色も少なくなっている唇からまたしても不明瞭な音が漏れてくる。


「………────………」


 言葉ははっきりとしない。

 だが魔法使いの視線は紛うことなく少年へと向けられている。


「なんだよ」


 衣服を伸ばされてより苛立ちを募らせているルーフが、無謀なことだと理解していながらキンシに質問する。


「言いたいことがあんなら、もっとはっきり言え」


 無意味な質問、何の価値もない会話。


 しかし魔法使いは少年の質問に真摯に、真剣に答えた。


「謝れ」


「あ?」


 謝る? 誰に、キンシにか?


 違う。


「謝れ、」



「謝れ! ヒエオラさんに謝れ!」


「ええええ?」


 ヒエオラ店長殿は大いに驚く。

 

 え、え?

 

 なぜにこの流れで自分?


 正直なところ


「あー、コイツら早く落ち着いてくれないかなあ。店も早く片付けたいし」


 と辟易していた店長殿は、話題が自分に向けられたことによって心臓がビックリ跳ね上がり、思わず耳の花から花粉を飛ばしそうなった。   

苦悩にまみれました。

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