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描いたすべてはあのころの夢の再上映

 大量の魔方陣を燃やしながら、消費の激しさの分だけ、青色をした炎は強く光り輝いていた。


 光の強さはまさに恒星、太陽の光すらもかすむほどの強烈さを有していた。


 日光を凝縮したような輝きは、しかして一瞬の出来事でしかなかった。

 時間に計測しても一秒を満たすかそうでないか、たったそれだけの事象でしかなかった。


 短い事象。

 だがその間に生み出された光の密度は、まぶたを閉じていなかった怪物の眼球へ、およそじゅぶんが過ぎる程度には影響を与えることに成功していたようだった。


 意図的に用意された炎の暴発、それを目の当たりにしてしまった怪物は、光の暴力的な激しさにその意識をしばらくの間手放さざるを得なかった。


「??? ??? ???? ????」


 物事の全てを理解できないままで、怪物は哀れにもその巨体を空間に固定できなくなっていた。

 シーラカンスの様なひれをいくつも持つ、横長の楕円形のような巨体、巨大な肉の塊が浮遊力を喪失する。


 落下は最初ゆるやかなものだったのは、まだ肉体そのものに含まれていた魔力が作動していたからだった。


 しかしそんなものは何のなぐさめにもならず、あっという間に消費しきった、肉の塊が地面へと落ちようとした。


 この星のをあまねく支配している重力に誘われながら、怪物のひれが下からの風圧に押されてヒラリ、ヒラヒラと空虚に舞っている。


 揺れと震えを観察し続けてた。

 怪物が落ちようとしている下側、そこでは鎖が一本伸びていた。


 怪物の肉を摂り前いている鎖。

 その一本は上と下でそれぞれまっすぐ、ほぼ真っ直ぐに近しい線を描いていた。


 金属製の直線の、上側ではメイと言う名前の翼を生やした、幼い魔女が下側に呼びかけている。


「トゥ! ……っ」


 青年の名前を、今自分の手元にある鎖と同じものを持っているはずの、片方を持っているはずの青年の名前を呼んだ。


 そしてメイは、続けて少女の名前を……。

 言いかけた所で、彼女の体を突発的な虚脱感が襲っていた。


「う……?」


 それは魔力を急激に消費したことによる、身体的なダメージによるものだった。

 使った量は一瞬であったとしても、この幼い体ではそれなりのダメージは許すしかなかった。


 メイが少しだけ忌々しさを奥歯で噛みしめている。

 勘定を味わっていながらも、その左腕には依然として鎖の端がキチンと握りしめられている。


 幼い体の魔女が握りしめている。

 鎖のもう片方、魔女や怪物から見た下方にて、名前を呼ばれかけた二人の魔法使いが怪物を待ち構えていた。


 一人は青年の姿をしている、そしてもう一人は少女の姿をしていた。


 少女が青年に話しかける。


「来ました、おいでになりましたよトゥーイさん」


 少女は観覧車の上あたりにその体を魔力で浮遊させながら、自分の身に寄り添っている青年にささやきかかけるようにしている。


 左手には怪物を殺すために用意した、槍のような形をした武器が握りしめられている。


 観覧車の緩やかな回転を足元に、キンシと身を寄せ合い、その浮遊力を借りているトゥーイが首を一つだけコクリとうなずかせている。


 魔法使いの少女のささやき声に同意と思わしき感情を表現した。

 少女と同じ魔法使いである青年、トゥーイは右手に握る鎖の端に自らの意識、心の圧力を強く作動させていた。


 青年が強く意識する。

 そうすると、青年の右手の中にある魔法の道具、鎖の直線にかすかな光が生み出されていた。


 電流のような明滅をしながら、光は鎖へ瞬時に満たされていた。

 光は怪物の体を取り巻き、その肉を鎖の直線状、上と下でそれぞれ結ばれている点と線に密着させていた。


 鎖に導かれる、誘導される形で怪物の肉は真っ直ぐ青年と少女の元に落ちようとしていた。


 真っ直ぐ落下してきている。

 その姿を見つめ、認めた。


 生まれた認識の瑞々しさを失わぬように、キンシは急ぎその体を上に動かしていた。


 キンシの身体、ぬくみがトゥーイの腕から離れる。

 魔法少女が上に飛ぼうとしている、トゥーイは少しでもその助けになるために鎖へさらに意識を込めた。


 鎖に電流の輝きが走る。

 光を追いかけるように、あるいは光と並走をするかのようにして、キンシはその身を上に、上に飛ばしている。


 重力に逆らないながら、落ちる点を頭に、キンシは怪物とは逆方向に落ちようとしていた。


 落ちていく、最中(さなか)にてキンシは左手に強く意識を稼働させる。


 心に強いイメージを抱く。

 それが鎌の形をしている。ちょうどオーギが……先輩である魔法使いが携えていた、そのひと振りをキンシは心の中に強く思い描いていた。


 持ち主である魔法使いのイメージが、左手の中にある魔法の武器の性質に変化を与えていた。


 穂先に輝く銀色の金属、鋭利な角を赤色の液体が取り巻いた。

 鮮やかな赤は刃にまとわり付き、鋭利さをさらに大きく延長させている。


 刃物の部分をさらに巨大化させた、銀色の上に目が覚めるような赤色を付け足された刃が怪物の肉めがけて伸ばされる。


 まるでサメの歯をくりぬいて、無理やり巨大化させたもののように、槍は薙刀、というよりはむしろ太刀(たち)のごとき鋭さを持っている。


 増幅させた刃は真っ直ぐ怪物の方に向けられていた。

 ……いや、推進力の激しさで考えれば、怪物の方こそが魔法少女の刃に向かってきている、と言った方が相応しいのだろうか。


 いずれにしても、刃と怪物の肉がであうのにそう大して時間は必要としなかった。


 キンシが、腕の先に怪物の肉を感じていた。


「……!」


 瞬間に、キンシはさらに左腕に強く意識を作動させている。

 思考、心の動作、少女の左腕に刻まれた「呪い」が目に見ることの出来ない動作に反応して熱を帯びる。


 温かさを秒よりも早くに通り過ぎる。

 一瞬にて業火に燃やされるほどの熱が魔法少女の左腕、そして全身をあますことなく包んでいた。


 ついには炎と等しく、あるいはそれ以上に増幅しかけた熱の質量。

 それを空気が、雨の雫が冷たさの中で溶かしていく。


 異なる温度が触れ合う、そこに空気の流れが生まれる。


 それが刃に更なる力を与え、やがては怪物の肉体を大きく切り裂いていた。


「……ぐっ」


 途端に重さがキンシの左、そして右の腕に負担をかける。

 空から落ちてくる怪物を受け止めるようにして、キンシはその肉を食む刃を手放さないように強く握りしめていた。


 重力はただ一方的に怪物を下に運び、そして別の重力が魔法少女のを上に、空の中に落とそうとしている。


 同じ存在でありながら、互いに反発しあい殺しあう。

 力の作用が刃、いや、怪物の肉を刃物に触れ合せている。


 走る痛覚に、気を失っていた怪物が短い悲鳴をあげていた。


「?! ?! tyutussseeee sdeエエ絵iii騎亜 ああああ」


 驚愕する、悲鳴が周辺の空気を激しく振動させる。

 耳障りな悲鳴、しかして同時に切なる訴えでもある。


 苦しみをできる限り継続させたくない。

 それぞれに思考形態も、性質も異ならせていながら、魔法少女と怪物はこの瞬間においてのみ同等、そして同様の思考、願いをその身に抱いていた。


 重力は動き続ける、体は落ち続けている。

 赤色と銀色のきらめきはすでに怪物の身体、横腹に深く、深く侵入をしていた。


 槍の穂先、鋭い刃は怪物の肉を深々と切り裂いている。


 赤い、新鮮な体液が切り裂かれた部分から、断絶された血管より次々と噴出をしている。

 吹き出す体液が曇天より降り注ぐ雨水と混ざり合い、鉄と塩気、水の匂いが瞬間の内に溶け合う。


 刃が通り過ぎた後には断絶の、人工的に生み出された赤い渓谷(けいこく)が広がりを見せている。


 伸縮が途絶えた、まるく柔らかくしな垂れる皮膚の舌。

 表皮、桃色の真皮を通り過ぎる。

 そこには赤々とした皮下組織が覗いている。


 肉は朱色に輝き、ヌラヌラとした赤い血液を大量に含んでいる。

 血液は、しばらくの間は止めどなく傷口から流れ落ち続けていた。


 溢れる血液。

 通常の生き物と同様に、自動で硬化するまでしばらく時間を有しそうであった。


 ドクドクと、赤色が止めどなく流れ落ち続ける。

 噴出力は、しかしながら液体の量の割にはそこまで力強さは無かった。


 最初の瞬間こそ飛沫をあげんばかりの勢いを有していたが、しかして切っ掛けを通り過ぎた後にはただの漏出だけが継続されている。


 しまりの悪い蛇口から零れる水道水の雫のような速度で、傷口からは血液が幾つもの太い筋を描いている。


 赤い線が幾つも落ちる、それと同時にキンシと怪物の身体も落ち続けていた。 

 

 怪物は地面に、魔法少女は空に落ちている。

 刃が赤色の渓谷を作り続けている。


 硬いものと、柔らかに肉がぶつかり合う。

 衝撃が、少女の衣服にたくさんの赤い飛沫を付着させ、模様を描き出していた。


 まだなのだろうか?

 瞬間において、キンシは自身の腕に感触が訪れないことに焦燥感を抱いていた。


 まだなのだろうか、早く心臓を破壊しなければならないというのに。


 急ぐ心。

 しかして、不思議と不安はあまり含まれていなかった。


 なぜなら確信があったから、左の義眼が刃の方向性を決めている。

 ここさえ進めば、その先に決定的な部分が待ち構えている。


 魔法少女の左眼窩に埋めこまれている、血液のように鮮やかな赤色をした義眼、それが「心臓」という命の在りかを見出していた。


 やがて、重力と時間に従う形で槍の先端が心臓にたどり着いていた。


 それは怪物の体表の横腹辺りに隠されていた。

 真ん中のあたり、掘り起こすのには少し時間がかかりそうなあたり。


 肉の真ん中に刃が届いた。

 その時点で、キンシは一度自らの推進力を停止させている。


 刃が動きを止める。

 そのままの姿勢にて、キンシは他の人物への要求を叫んでいた。


「心臓発見! 固定を頼みます!」


 魔法少女が叫んだ。

 その内容に従った、トゥーイが鎖を展開させていた。


 怪物の体に付着させていた。

 鎖が連続する金属をひとつ、一粒ずつを拡大している。


 膨れ上がった金属片が、さながら檻のように怪物の体を空中に固定している。


 動きを止めた、それは怪物だけではなくキンシの身体にも共通した事項であった。

 檻の中、槍の穂先を肉に指したままで、キンシはそれを外側に強く引き抜こうとした。



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