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制服のほつれた糸を泣きながら引き千切ろう

 しかしながら信じる信じないの話以上に、この場合に重要視されるのは実際の症状なのである。

 そう言った旨のことを言葉の裏で、魔法使いらは複合施設の関係者に主張していた。


 魔法使いの意見を耳に受け入れた。

 関係者である中年が始まったばかりの男性は、しぶしぶと言った様子でこの場所、施設が発症している怪物の気配について話していた。


「ハッキリとした時間やタイミングは、残念ながら当方でしっかりと確認してこなかったものだから……」


 関係者が言うところによれば、いつもは古城からやってくる公的な魔術師にすべてを任せているらしい。


「そもそも、ここに設定されている結界はかなり信頼のおける頑丈さがあるから、だから、滅多なことなんてそうそう起きないんだ──」


 言いかけた所で、関係者の目線がまた魔法使いらの方に向けられている。


「……と、君たちは結界じゃなくて、魔法陣と呼ぶんだったかな」


 関係者なりに相手に寄り添おうとした意向のつもりだったのだろうか。


 しかし効能は上手く発揮されたとは言い難かった。

 少なくともメイと言う名前の魔女はその言葉、言い回しにある種の皮肉めいたものを感じそうになっていた。


 魔女の個人的な感想もそこそこに、関係者は引き続き自陣の事情を説明し続けている。


「だから、魔法陣に不具合が起きたと同時に、ほぼ自動的に古城の魔術師に事態が報告できるようにしてあるんだよ」


 そこまで語った所で、キンシという名前の魔法使いが興味深そうに質問文を投げかけている。


「と、いいますと? 魔法陣に連絡網を直接組み込んでいるのでしょうか?」


 キンシは興味津々といった様子で、思いついたアイディアに希望的観測を込めている。

 だが、魔法使いの少女の希望は現実に実現されられることはなかった。


「あー……うん」


 いきなりの言葉に関係者は分かりやすく戸惑っている。

 とりあえずは勘違いを訂正しようと、関係者は子供を諭すような口ぶりを作っている。


「悪いけど、そう言った機能は用意していないんだ」


 不必要名前でに濁した言葉を聞いて、キンシの子猫のような聴覚器官が分かりやすくしなだれていた。


 勝手に興奮して、勝手に落胆してる魔法使い。

 少女に、彼女の先輩にあたるオーギという名の若い魔法使いがジロリと目線を落としている。


 とりあえずお前は黙っていろ。

 言葉で直截表現することの無い要求を、はたしてキンシがどれほど察せられたのだろうか。


 判別を具体的に表明するよりも先に、関係者は段々と時間を惜しむように説明へ一区切りをつけようとしていた。


「その魔方陣がだね、今朝から妙な反応をみせ始めたんだよ」


 アバウトな言い方をする。

 それによって魔法使い側からの質問を誘導させるような言い方を使っていた。


 会話文として、オーギが用意された余白に落ちものパズルゲームのように言葉を詰め込んでいる。


「妙な反応とは? 具体的にはどんなものなんですかね」


 予測できた質問文に、関係者は己の視界に確認した違和感についての話を展開させている。


「普段はやわらかく発光しているのが、まるでスマホの熱暴走のように熱くなっていてね……」


 関係者は魔法陣について、怪物除けの機構に起きようとしている異変について簡単に説明をした。


「ともあれ、今までに見たことの無い状態で、ここの支配人も不安と恐れでのカフェ・オーレになりそうになってんだよ」


「はあ」


 最後の言い回しは、もしかすると関係者が年下である魔法使いの緊張を、年長者らしく解きほぐそうとしてくれたのかもしれない。


 だが効能はあまり期待できそうになく、オーギは曖昧な返事だけを舌先に用意していた。


 彼らのやりとりを耳にしていた。

 キンシの子猫のそれと同じような形と柔らかさを持った聴覚器官が、いつのまにやら元の位置に戻っている。


 耳の向きを右側に傾けながら、キンシは姿勢を低くしてメイにささやきかけている。


「どうにも、こうにも……、あの方はどうやら魔法使いにあまり良いイメージを持っていないようですね」


 なにをもってしてそう判断したのだろうか。

 メイが確認をしようとする、それよりも先に関係者が目的の場所にたどり着いていた。


「まあ、何はともあれ……まずは、ウチの関係者と打ち合わせをしてもらわないと……」


 まるで怪物そのものよりも、対象をしている行為の方こそが最も厄介であると。

 関係者は、そう主張するかのように少しの沈黙だけを唇に湛えている。


 関係者たちと話をつけるのは、やはりというべきかオーギが担当をすることになっていた。


 関係者以外立ち入り禁止の部屋、おそらくは事務所にあたる空間に誘われている。

 扉を開けるころには、流石に関係者の男性もこの一行の中でオーギが一番まともな対応をすることが出来る、そのことを把握いるらしかった。


 話、相談事、取引を行う。


 その間に、先輩魔法使い以外の面々はなにをすればよいのかというと。


「あー……、お前らは先に検索の準備をしておいてくれないか?」


 その提案をしたのは、まだ事務所に足を踏み入れていないオーギの姿であった。


 重たい金属性の扉の奥に誘われようとしている。

 彼の姿をキンシが、いずこへと旅立つ車窓の奥の級友のように見送ろうとしていた。


 その矢先で、部屋の内側に足を踏み入れようとしていた彼が、後輩である魔法使いたちに指示を一つ伝えていたのである。


 先輩魔法使いからの指令に、同じく事務所の後輩筋にあたるメイと言う名前の魔女が疑問を抱いていた。


「検索をするって……怪物さんの居場所をさきにしらべておく、ってことかしら?」


 幼い体の魔女がたてた予想に、オーギが簡単な肯定の意だけを示している。


「おれはしばらく動けないから……。お前ら、頼んだぞ」


 何の猫も被っていない、かなりリラックスをしていそうな口調で要求をしている。


 もしかすると、これから彼自身が対面する緊張の場面から、とりあえず最後のリラックスのつもりだったのかもしれない。


 というわけで細々とした話、子供(がきんちょ)にはいささか難しすぎる話は、責任ある先輩魔法使いにおおよそすべて任せることとなった。


 そうして、関係者以外立ち入り禁止の部屋の外側、扉の近くにはオーギを抜いた魔法使いら一行。


 そして彼らをここまで案内した、もうすでに声と顔を知った関係者の男性だけが残されていた。


 関係者の男性が、閉じられた扉からキンシらが立っている方に視線を動かしている。

 視線、瞳に浮かぶ感情は最初に出会った時、認識された瞬間からさほど更新は為されていないようだった。


 ほんの少しの沈黙。

 その後に、関係者がおもむろに口を開いていた。


「それで、君たちは敵性生物の検索? を、するんだったかな」


 ゆったりとした口調。

 そこには相手に対する必要最低限の礼儀か、あるいは、依然として正体を掴みきれていない対象への牽制と恐怖心も同等に含まれている。


 関係者からの提案、のような語りかけに、キンシが急ぎ返事のようなものを用意していた。


「ええ、そうですね。オーギさん……じゃなくて、手前の魔法使いが、えっと……話をつけるまでには、怪物の居どころをある程度把握しておきたい。ですね」


 せいぜい同意程度しか伝えられていない。

 あまり達者とは言えそうにない返事を耳にした、関係者は事実だけを確認できた分でその場から去ろうとしていた。


「じゃあ、できれば人に迷惑のかからない程度に、安全に、静かに、作業に取り掛かってね」


 粗雑な言い方をしたわけでも無い、ましてや粗悪な態度を投げつけられたという訳でもない。

 なのにどうしてこうも、胸の内に鈍色をした粘度の高い物がうずうずと湧き上がってくるのだろうか。


 メイが疑問に思っている。

 その間に、関係者は自分の仕事場所にさっさと戻っていった。


 取り残されたのは魔法使い二人と、魔女が一人であった。


 沈黙を許すことなく、メイがわざと大きなため息をひとかたまり吐きだしていた。


「はーあ、なんだかどっと疲れたようなきがするわ……」


 空気で膨らんだ胸、酸素と二酸化炭素の循環の先にメイは言葉を探るように発している。


「うんん、まだなにもお仕事していないのに、お話をしただけでつかれてちゃうのはちょっと、なさけないわね」


 自己否定をしている。

 しかし魔女の言葉を、彼女の左隣に立っているキンシがさらに否定していた。


「いいえお嬢さん、貴女がお疲れになる理由はそれないりに根拠を用意することが出来ます」


 若干文法を怪しくしている。

 それは疲労感を覚えているのが、なにもメイ一人に限定されていないことを早くも暗に表明していることに等しかった。


 キンシはゆったりと歩きながら、扉から離れるように歩を進めている。


「どうやら、あの人は魔法使いにあまりに良い印象を抱いていないようでしたから」


 簡単に予想をしている、キンシの足は来た道を戻るような方向を選ぼうとしていている。

 魔法使いの少女の予想に、メイが思うがままの疑問を抱いていた。


「イイもワルいも、お仕事のあいてなんだから、そんな感情なんてひつようないんじゃないかしら?」


 幼い魔女がそれらしい意見を用意している。

 彼女の言葉に、キンシは曖昧な受け答えだけを返していた。


「そう、ですね。そうなりますね」


 それだけの事を言う。


 やがて気分を変えるように、キンシは柏手(かしわで)のような要領で両の手のひらをパン! と打ち鳴らしていた。


「ともあれ、ですよ。僕たちは僕たちのほうで、出来ることを一つずつ解決していきましょう」


 まずは全体的な、ざっくばらんとした目標を明記している。


 目下の目的を発した。

 キンシはその目線をトゥーイの方に差し向けている。


「なので、まずはこの場所の魔法陣を見にいきましょう」


 魔法陣とは、関係者が言うところに寄ればこの建物、土地、人が集まる場所を他の害から守るための機構のことを指している。


 それを見に行くことで、なにか仕事内容に変化が訪れるというのだろうか?


 メイは少し期待した。

 だが、彼女の期待はあまり現実に実行されたとは言えそうになかった。

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