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タイトルも作者の名前も今ではすっかり忘れてしまった

ママさんよ

 少なくとも柔らかい素材で製作されていそうにない武器がドロドロと湾曲しただけでも、すでに十分すぎるほど不気味なことであるのに、現実はそれだけで終ろうとしない。


 いよいよ個体としての固形を保たなくなった武器は、怪物の肉の中で飴細工のようにだらりともたれかかり、そして次の瞬間には水蒸気の如くその場から消失していた。


「?」


 武器の居所を探して二つの視線が周囲をぐるりぐるりと探る。

 先に見つけたのはルーフのほうだった。


 彼の視界はキンシの手の内、力強く掲げ広げていた指の間一点に注がれている。

 そこには、今しがた怪物の肉に貫通していたはずの武器が、いつの間にか握られていた。


 仕組みはよくわからない、だがルーフは瞬時に直感した。キンシはたった今、いかにも魔法使いらしい何かしらの技を使って投てきした武器を瞬間移動っぽく移動させたのだと。


「今のは──」

 

 言いかけて、しかしうまく言葉が出てこず言い迷う。

 その代わりに彼の内側で、一体何時に獲得したのかも思い出せないほどにアバウトな知識が駆け巡った。


 彼が聞いたところによれば、それが間違いでないと前提すれば、こんな話があるらしい。

 

 この世界に存在している物質は数多くあれど、そのうちのとある限られた範囲に属している物、それらは動物の意思によって自在に姿を変化できるのだと。


 ああそうだ、そうだった。

 現実の光景と記憶内の知識が混ざり合い、少年は確信の持てる情報を導き出す。


 思い出した、結構昔に祖父の書庫へ忍び込んでいた時、何気なく読んだ本にはこう書いてあった。


 一部の貴金属および鉱物類は、とある特殊な加工を施すことによって、人間の理解から一線を越えた世界の常識に唾を吐きかけんばかりの機能を有することができるのだと。


 だいぶ記憶に欠落があり本来の本の内容と差異があるにしても、大体そんな感じのことが書いてあったような気があるようで、ないような。


 こんなあやふやな知識の中でも一つだけ自信を持って確信強くいえるとすれば、その本に書いてあるような金属なり鉱物なりはとてもとても、べらぼうに値段が高い代物であるということだけ。

 

 こんな非情な非常事態に、よりにもよって思い出せたのが金つらなりの知識などと、ルーフはそんな自分自身にこそ唾を吐きかけたくなった。


「ヘーイ! ヘーオ!」


 どこからともなく出現する羽虫のようにルーフの心を覆い尽くしかけた呆れ、そんなねっとりと暗い感情など毛ほども知ることなく、しかしまるで彼の心を打ち砕くかのようにキンシは明快な声を発した。


「どうした? どうしましたかー!」


 右へ左へまるでガガンボのように、しかしその昆虫がはらむ美しく儚い不気味さなど微塵もない、粗雑で上品の欠片もない力強さで、キンシはぴょんぴょんと体を跳ねさせていた。


 どうやら勇ましくも、怪物に向けて挑発をしているらしい。

 長細い武器を両手でくるくると、バトントワリングよろしく回転させている。


 穂先にある変わった形状の刃、石突付近にわずかながらデコボコしているスケルトンキーだった頃の名残。

 

 同じ武器の両極端に備わっている異なる形が持ち主の作る動力によって回転し、獣の唸り声に似た音を立てて空気を円形に切り裂いていた。

僕は死にたくはない。

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