その手で掴め
電子音
明確で決定的な、攻撃の意思をたっぷりと含んだ投石だった。
多少のブレはありつつも割と真っ直ぐな軌跡を描いてガラス玉へと向かっていく。
ルーフの願いとしては、まさか自分の繰り出したたった一撃の攻撃などで、怪物の過大なる剥き出しの内臓を破壊できる、そんな希望的観測をしていたわけでもはなかった。
だがせめて、ルーフはそう考えていた。
せめてあの硝子材じみた朱あん色の、地面に落下した血液みたいな色をした、クソ忌々しいタマタマに何か害意を投げつけないと。
ルーフはそれほどに、怪物に対して憎しみを抱いていた。
どうにかなりそうなほどに激烈な、相手の存在が気に入らない感情。
疲労さえもよおすほどに熱い、沸点ギリギリの攻撃性を持った感情。
計画性なんて一ナノメートルだって無い、そんな感じの感情だけがルーフに攻撃の意思を与えていた。
キィン。
投げられた石が怪物の体に接触する、金属質の鋭い音が鳴り響く。
瞬間、その時間をルーフの視界はしっかりと捕えていた。
自身の攻撃意志を存分に込めまくった石、その硬さが忌々しき怪物の体に密着しているのを。
ルーフはまず最初に、どういう訳か彼自身にも解することができないのだが、とりあえず感心の意を一つ内側に生み出していた。
自分から行動しておきながらとは思いつつも、実際に自分の繰り出した攻撃が敵に当たるとなると、およそ戦闘行為なる者を経験してこなかった少年にとっては、未知の驚きに満ち溢れていた。
ほんの短い、人肌に触れた雪の粒が溶けるほどに短い間。
それが過ぎ去った頃、少年の心は完全無欠な恐怖に支配された。
「〈 aaaee,eeoo111 〈 」
怪物の体に食い込んでいる巨大なガラス玉が、じっとルーフのことを見下ろしていた。
目玉はあるはずがないのに、その思い込みがルーフの中で音をたてて崩れ去ってしまいそうなほどに、怪物はじっとルーフのことを見つめている。
力いっぱい投げつけた石は、やがて硬い音をたてて地面に、
落ちなかった。
四本のうちの一本、怪物の足なのか腕なのかよくわからない肉体の一部が、ルーフの投げかけた石をガラス玉に接触するより先に掴み取っていたのだ。
カエルになりかけのオタマジャクシ、それほどの頼りなさしかなかったはずの怪物の腕が、急激に急速に膨大し膨張し、おぞましいまでのスピードで伸長していた。
一つの生命の成長過程。
長い時間をかけて然るべき、そうでないといけないはずの成長が目の前に目まぐるしく上映されている。
吐き気がするほどの猛スピードで怪物は自らの腕を成長させ、その指で野球のキャッチャーよろしく少年の投げかけた石を防御したのであった。




