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例外ばかりのあなたに会った

今日食べた食事も思い出せない

「ちょっとちょっとトゥーさん、どうしたんですか」


 キンシと呼ばれていた気がする子供は、青年に向かって名称らしきことを言った。

 体の、主に頭部のあちこちから発生している出血などまるで気にも留めずに、右の指で武器を拾いながらふらりと立ち上がった。


「呑気にお喋りしている場合ですか。仕事ですよ! お仕事ですよ! もっと真剣に取り組んでくれないと困りますよ」


「それは心外です先生」


 「トゥーさん」と呼ばれる青年は表情を変えることなく、いたって普通にキンシに語りかける。


「絶やしたことはありません、私は。真摯に取り組む意気込みを、継続することを忘れた」


 トゥという名前らしき青年は、それまでのルーフとのやり取りなどまるで関係がないとでも声高に宣告するかのように、いけしゃあしゃあと自分の武器を怪物の方向へと向けた。


 そういえば! とルーフはしばし目を逸らしていた現実に再び引きずり込まれる。

 慌てて怪物の方を見やると、


「ggg/// iaiaooiaoiooo, uunknn;」


 だいぶ回復に向かってはいるものの、まだトゥの繰り出した蹴り技のダメージから起き上がれないでいた。

 

 一体どれだけの力で蹴ったのか………? ルーフは改めてトゥに対して人間的ではない不気味さを覚える。


 ルーフが怪物の方に気をとられていると、視界の隅で何か液体らしきものがこぼれるような音が、ゴポゴポッっと聞こえてきた。


 キンシが額と鼻腔からの出血も拭うことなく、たらたらと赤い体液を流出したまま、そのままの真っ赤な顔面でもう一度槍を怪物に向けて構えていた。


「まあでも……、現実逃避したくなるお気持ちも、何となく解りますよ。これはどう考えても様子がおかしいですからね……」


 薄い布に細い金属をくっつけただけの粗悪品っぽいゴーグルに、若者の血液が染み込んで赤黒い模様が描かれ始めている。


「獲物を取り込んだ彼方さんって、普通はしばらく大人しくなるんじゃありませんでしたっけ?」


「その情報はおおよそ間違っていることを否定します、先生」


 彼らのやり取りにルーフがいち早く反応する。


「おい……!」


 焦燥感のままにキンシの方を乱暴に掴んだ。


「お前ら魔法使いなんだろ、早くメイを……妹を助けてくれよ」


 血液によって奇妙なマダラ色になっているゴーグル、その先にあるはずのキンシの目玉をルーフは穴を開けるほどの鋭さで睨んだ。


 少年の気迫に多少の怯みを見せつつ、それでもキンシは努めて冷静さを失わないよう、まずは現状を彼に説明する。


「まあまあ、そんなに焦ってもどうにもならないですよ仮面君。[急いては事をシソーラス]って言うじゃありませんか」


「はあ?」


 何故にここで類義語を意味する単語が?

 

 ルーフは一瞬考え、すぐに違和感に気付く。


「それを言うなら[急いては事を仕損じる]だろ!」


「おおそれです、あなた頭良いですね」


 いかにも真面目ぶった魔法使いの様子に、ルーフはさらなる苛立ちを重ね合せていた。


 本当に大丈夫なのだろうか?

 大きな疑問点がルーフ喉元を圧迫している。


 本当に、こんな奴らに大切な妹の命を、存在を預けても大丈夫なのだろうか。

 不安はあまりにも大きく、しかして状況は刻々と進むごとに深刻さを増している。


 助けを求める、そのための言葉をルーフは喉元に用意しようとした。

あなたの横顔を見ました。

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