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あなたはこれを知っているか?

 それにしてもその青年は、見れば見るほど不思議な恰好をした青年であった。

 

 どう形容すべきなのか、ルーフは脳内で言葉に迷う。

 確実に一つ言えるとすれば、その青年には圧倒的に色素と呼べるものが欠落していた。


 肌や髪は当然のこと、ルーフのことを見ている目の、眼球にさえ色素が足りていなかった。


 二秒ほどの時間、ルーフは青年に強く注目をしてしまう。

 理由はよくわからないし、特に大してない。あるとすれば、無理やり作るとするならば、その男の白さが故郷の村に毎年降ってきた雪に、どことなく何となく似ているからだろうか。


 熱を与えてしまえば、容易に溶けてしまう儚さを思い出していた。

 少しでも指先が触れれば無情な寒さで皮膚を切り裂く。気軽に近付くことを良しとしない、剥き出しの刃のような攻撃性を青年はルーフに向けて醸し出していた。


 戦おうとしている、この男は今から俺と戦おうとしている。ルーフはそう直感する、しかし理由が全く分からなかった。


 何故に? どうしてこいつは俺のことをこんなにも強烈に睨んでくるのか。


 さっさと逃げろとでも言いたいのか、しかしそうする訳にもいくまい。妹を怪物の体の中に置いたまま、自分だけそそくさと逃げるなどと。

 ルーフにとっては有り得ないことだった。


 だがどうやら青年は、目の前にいる少年を安全な所へと逃がすなどという、優しさに溢れた行動なんかをする気はさらさらないようだ。


「-…a…。私は私は知っている、そしてあなたは誰ですか。私が言う、知っていますか?」


 痛みに呻き悶えている怪物を背に、青年がルーフに質問をしてきた。まるでこれ以上移動することは許さないとでも主張するかのように、じっとルーフのことを見下ろしている。


 そして右手に持っている、ついさっきまで怪物の歯茎を食い止めるのに使っていた道具を、剣をルーフに向けてかざした。


「知っていますか」


 どうやら青年はルーフに向けて何かを問いかけているらしい。異様にくぐもった、壊れかけのラジオみたいな音声を向けられ、ルーフは戸惑う。


 知っている? この青年が持っている武器のことか?

 ルーフは鼻先にある剣を観察してみる。


 普通の剣、60センチ以上の長さある両刃タイプ。

 周囲の光を反射して白く輝くその刀身には、洒落っ気のある装飾がほとんど施されていない。あるとしても茹でる前の素麺程の深さしかない血溝と、その先にある柄の辺りに開けられた空洞だけ。

 柄の部分ですらほぼ金属がむき出しになっている、そんな感じの酷くシンプルな刀剣だった。


 はっきり言うならばこんな武器のことなど全く知らず、そもそもルーフは武器をまじまじと見るのもこれが初めての経験であった。

 

 だから普通に、どうということもなく、


「知らねーよ」

 

 とだけ言えば良かった。

 

 そのはずなのに、しかしどうしても少年はそう断言することができないでいた。 

向き合いましょう。

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