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黒くて丸いもの

葡萄のようにツヤツヤ

「痛いんじゃあっ! ボケがあっ!」


 このままでは妹を助け出す前に頭蓋骨が粉砕される。そう思ったルーフは全力で体をよじらせ、筋が曲がるのもいとわずキンシの腕を鷲掴みにした。


 少年の切迫とした視線によって、キンシは自分の体が必要以上に緊張していることに気付かされた。


「ああ、ごめ……、すみません」


 一旦ルーフから手を離し、姿勢を低くしたままでもう一度、一人思索を巡らせ始める。


 圧迫から急激に解放され、体液の巡りを再開した血管がズクズクと疼いている頭皮を擦りながら、ルーフはすぐ横にいる魔法使いのことを少し憎々しげに眺める。


 子供の魔法使いはルーフを取り押さえた時の姿勢のまま、腹部を地面に密着させた格好のままで、ぶつぶつと何事かを呟き続けている。


 あまり均整の取れていない、少年のように短く散髪されている黒々とした頭髪は埃にまみれて一部が白く──。


 いや違うな? ルーフはあることに気付いた。

 一見して黒一色に見える毛髪の中に一筋、いやに目立つ毛色があることに。


 メッシュとかいうものだろうか、……しかし、その割には──。


 魔法使いの、相手の全貌が見えたことで、図らずしてルーフは少しだけ冷静さを取り戻せていた。


 目の前の相手に注目していた視点を、すぐさま切り替えている。

 今は一刻も早く妹を助け出さなくては!


 しかしどうやって?

 自分とそう大して年齢が変わらなさそうな魔法使いが言う所によれば、下手に怪物を刺激すべきではないとされるが。


 それでも進行形で妹の体が怪物に取り込まれようとしていると考えると、ルーフはどうしようもなく居ても立っても居られない。


 奥歯を固く喰いしばってもう一度、今度はもっと慎重に怪物との距離を詰めてみる。

 もしかしたら隙をついて、何か弱点のような者を見つけられるのでは、と期待していたのだが。


 ドチュッ


 怪物が、その体躯にはおよそ見合わないほど細々としている手足を動かした。

 液体のように柔らかそうで、しかしその内部にしっかりと内臓と骨格の重さを醸し出している、巨大な胴体が屈折する。


「っ?」

 

 どの辺が顔なのかも判らない、ゆえに眼球の居所もいまいち掴めない。


 そのはずなのに、ルーフは体の全ての感覚器官によって、怪物が自分のことを見下ろしていると感じた。


 怪物の真冬の梢のような足が、一つ二つと大きな地団太を踏む。

 そしてその勢いのままに足が、もしくは手なのか、そのうちの一本が粘液のように伸びて、敏捷な動作でルーフの体を捕えようとしてくる。


 二秒と経たぬうちに引き起こされる動作、普通の人間の眼では捉えようのないほど俊敏な魔手に、意識が混乱しているルーフは為す術がなかった。

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