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ドッカーン!その後誰も死ぬことはなかった

 その爆発はこの世に発現する物理的な爆発と共通して、生きている人間にとって好ましくない爆発であった。


 まず最初に光が揺らめき、次に空気が押し出される形で膨張する。膨張し震動する空気、それに乗って暴悪な騒音が人々の感覚器官を極悪な強烈さで刺激した。


 爆発が起きる前まではまだ、人の理性に付き従った平穏さを辛うじて保っていた[綿々]の室内。そこは今、爆発によって人智から一歩ほど離れた混沌へと叩き落されていた。


 がらがら、がらがら、がらがらがらがら。


 硝子と建材の破片がたっぷり含まれた衝撃波の中で、最早何がどう崩れ落ちているのかも判別できない崩壊音が、手間暇のかかった高額な料理のソースみたいに添えられている。


 キンシ達は、魔法が少々使える程度の無力なる人間たちは、それまで継続され今後も続くはずであった日常が突如として崩壊する現実に、只々身を固くしてダンゴムシのように丸くなることしかできなかった。


「うわあ? 何だあ!」


 店長として家主としての責任感と誇りがそうさせたのか、あるいは単に生物としての反射的な防衛本能が先行しただけなのか。この場にいる誰よりも先んじて現状にコメントを発したのは、ヒエオラ店長殿であった。


 彼は普段でさえ血色の悪い肌をより青ざめさせながら、震えの止まらない腰をどうにか落ち着かせつつ、耳花を研ぎ澄ませて状況を把握しようとしている。


 あまりにも唐突な展開として叩き付けられた危機。その中でメイは己の意識をどうにかして、即刻取り戻す努力を行った。


「んん……」


 生理的な呻き声が漏れる。かなり強い勢いで尻もちをついてしまったので、臀部がびりびりと痺れていた。


 でも骨は折れていない、メイはそう判断するよりも先に立ち上がり、けぶる喉が侵されるのも構わず兄の安否を確認した。


「お兄さま! お兄さま!」


 彼女はまるで悲鳴をあげるかように叫ぶ。今すぐにでも兄の無事な姿を視認しなければ、気が狂ってしまいそうだった。


「メイ!」


 妹の声に、ルーフは霞む思考など意に介すことなく返事をした。爆発によって吹っ飛ばされたため、肩の骨がじんじんと痛んでいたが、それよりも少年は妹に返事をすることに集中していた。


「メイ! 俺は無事だ、どこも怪我していない。お前は平気か!」


 メイは兄の生命力に満ちた声を聞くことが出来て、とりあえずの安堵に体を少し脱力させた。


 他にも自分を含めたそれぞれの、複数の人間らしき吐息が、混迷を極める店内のあちこちで共鳴し合っている。


 とりあえずは、爆発による死者はいなさそうであった。

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