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顛末をもたらして

 またしても訪れてしまった沈黙、言い争いの激しさはカウンターの外で相変わらず継続している。


「……」


 実を言えばキンシは、もともと他人との会話を得意としない性質を持っている。 

 故に、沈黙に関してすでにある程度の慣れを来たしてしまっている。


「…………」


 そしてトゥーイの方も、そもそもがこの世界、この時代におけるただしいコミュニケーション能力を有していない。

 だから、沈黙も甘んじて受け入れてしまう。行為、手順、段階に慣れきってしまっていた。


 だが、ここで静かに黙り続けていても、この場面に蔓延る問題点への解決にはいたれないこと。

 そのことを、誰に教えてもらうでもなく全員が、暗黙のうちに理解し尽くしている。


「えっと……」


 やがてメイがゆっくりと、慎重そうに事の一部始終を語り始めた。


「私とお兄さまは、とあるもくてきのために遠くはなれた田舎町からここに、灰笛にふたりだけで訪れました。午前中に電車をおりてしばらく町を歩きまわり、お昼ごはんの時間になったためこのお店にお邪魔したのです」


 妙と思えるほどに詳細な事情説明を、キンシは考え事をしながら聞き取る。


「お店に入ることを提案したのはお兄さまがさきでした。私自身もこのお店はステキだと思ったので、お兄さまの意見に賛同したのです」


 唐突にストレートな賞賛に、ヒエオラ店長殿は肌の血色を激しくさせて照れた。


「今思えばどうして私たちはあの場所に、あそこの席にすわってしまったのでしょうか」


 メイが後悔を明かすように呟く。


「せめてはなれている場所にすわっていたら、あの男性が私の、体のことを、とやかく気にすることも無かったはずなのに」


 キンシはそこで一つの推察を作る。


「えっと要するにこう言うことでしょうかね?」


 争う男性たちからは見えない位置で、彼らに向けて親指を杜撰に指す。


「酔っぱらっている、そしておまけになんか嫌なことがあって気分が悪かろう男性が、酒の力に悪乗りして赤の他人であるメイさんに、いかにも悪い悪い酒乱を思う存分発揮して、真昼間から絡み酒を披露した、と」


「ええ、そうですね、そんな感じです」


 メイはアルコールが放つ魔力をぶちまけられた被害者らしからぬ、どこか冷めきった平坦さでキンシの意見を概ね肯定した。


「そしてその酩酊の過ちを貴女のお兄さんはマジに真面目に受け止めて、真っ向から食って掛かる」


「なるほど」店長が納得に瞳を輝かせた。「それで、そんなことであんな騒ぎまで育ったのか」


 気分の高まりが、ついつい隠していた本音を漏らす。


 そして店長は再び思い悩む。


「それで、どうしよう?」


 この店、[綿々]の最高責任者として、或いは善良で無害なる灰笛市民として、いい加減お客様野郎共の忌まわしい雄たけびを放置して置くわけにはいかなかった。


「やっぱりキンシ君が何とかするより、他に光明は無いと思うんだけれどお」


 縋るように向けられる視線を、キンシはもう一度突っぱねる。


「だから、どうしてそこで僕なんですか」


 若き魔法使いは押し付けられようとしている責任を、一心に回避しようとする。


「僕らはただ、お昼ご飯を食べに来ただけなのに。嫌ですよあんなの相手にするなんて」


 聞けるだけの事情を聴きだした、搾りつくした魔法使いは、空腹の力を借りてこの場の関係性を一方的に切り離そうとした。


 こちらもそろそろ、いい加減に体の栄養源が底を尽きかけているのだ。わざわざ他人のことなんて……。

 

 若者がそう決断するのを迷っている、その内に幼女は行動に出た。

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