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冷や汗が止まらない

人の事をジロジロ見るでない

 若き魔法使いの手は、未熟な果実のように硬い幼女の頭部に触れることを止めようとしない。

 その指先の勢いは強くしつこく粘っこく、幼女の頭部に掛けられ聴覚器官を丸々覆っている機器を外さんばかりの無礼さが発揮されていた。

「キンシ君、いい加減にしなさいよ」

 店長がそろそろ苛立ち気味になりかけた所で、

「質問します」

 唐突にトゥーイが、忍ぶ気などさらさらない程の音量で幼女に質問を下し始めた。

「教えてくださいませんか?差支えなければ、あなたの名前を」

 幼女がまだカウンターの外部にいる青年を見上げる。

 青年は魔法使いが「特別な仕事」をする際に身に着けるとされている、暗い色をした重厚なマスクを装着しており、おまけに片方の眼窩を明るい色のガーゼで包んでいる。

 そのため青年は幼女を含めた他からは、その顔の半分以上を秘めていることになっている。

 だから、だからこそ彼の表情はわかりにくいものになる、そのはずなのに。幼女から見て右側にある、唯一といってよい程に露出している目玉は、彼女の背筋に居心地の悪さを這わせる力が込められていた。

 ただ名を聞かれただけなのに、どうしてこうも?幼女は疑問に思う。彼女の感情に則した共感覚が、現在に向けられている意志を読み取ろうと触覚を蠢かせる。

 そうしかけたが、彼女はそれを堪える。何かにつけて人の事を勝手にあれこれ勘ぐるのはあまり良くなく、好ましくないことだと自身に言い聞かせる。

 そうなのだ、彼は、彼らはただ私たちのことを心配してくれているだけ。名前くらい普通に教えなくては逆に怪しまれてしまう。

 そうなれば兄に迷惑をかけてしまう、それだけは絶対に避けなくてはならない。

「私の名前は」

 幼女はゆっくりと口を開け、

「メイです。私はメイっていいます」

 質問主である青年と、そしてその周辺にいる人物たちに向けて自分の名を告げた。

 メイという名の幼女はその瞬間、ほんの一瞬だけ、何故か自分が人を深く傷つけたかのような深々とした罪悪感を錯覚した。

 何故かも解らない不思議な感覚。メイにはそれが、トゥーイと呼ばれる青年が片方だけしか開いていない眼球に浮かべた、動揺に近い揺らめきに由来していることを察知していた。

 知覚したが故に、いよいよ不可解さは深まるばかりだった。

 今私を見下ろしているこの男性は、見ず知らずのはずの男の人は、どうして私にそんな目を?

 当然のことながらメイには全く身に覚えが無かった。

 それでもトゥーイは、他の誰にも触れさせる気もない冷たい感情を瞳に浮かべ、そして自身の瞼に閉じ込めていた。

貧血気味です。

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