今はそれどころではないようだ
余計な事ばかり考える。
何の議論も交わさない内に提案を否定されたキンシは、子供っぽく眉をひそめる。
「駄目って言われてもですね、これ以上お店側に迷惑を」
反論を紡ぎだしながら発言者を探し、
「んるる?!」
そして軽やかに絶句した。
そこには小さな小さな、実にこぢんまりとした小鳥、もといいわゆる所の鳥人の幼女がいた。
霊長類とそれ以外の生物との性質を持った種類の人間、昔も今も人の往来が妙に激しい灰笛では、こうして異なる人種のめいめいが同じ飲食店で頭を並べている状況も、そう大して珍しいことではない。
広々とした定義で纏めてしまえば、ヒエオラ店長殿を含めトゥーイとキンシもあまり人間の範囲に収
まっているとは言い切れず、彼ら自身にもあまり自信が無い。
その辺の自己紹介的な身の上話は追々にしておいて、それよりもキンシは今、目の前の幼女に完璧とまでは行かなくとも数秒ほど心を奪われていた。
幼女は、普通の人間には類していない幼女は、春日と呼称される人種。先ほども述べたようにつまりに例える所の鳥人間と呼ぶべき女性であった。
鳥人間と一口に形容しても、これは他の人種及びあまねく生物に共通しているような事柄なのだが、そのうちに含まれる形は様々、数えるのも面倒になるほどの数が存在し認識されている。
それでもキンシは自身が持っている知識と、現在で視覚から得られる幼女に関する情報。
例えば全身を隈なく覆う人間離れした可愛らしさのある和毛であったりとか、逆に人間らしい、ふっくらとした薄紅色の唇であったりとか、そんな感じの情報をまとめて統合して、脳内で「このプリチーちゃんは春日か、それの仲間の人だな」と独自に。
………。
いや、いまいち判断できず、正直なところもう少し幼女とコミュニケーションをとって情報を集めたかったのだが、しかし諦めて答えを勝手に自分の中で譲歩していた。
なんだろう?瞬間的な違和感と、そこから生まれたかぐわしい疑問が一瞬思考を支配しかける。
だが現実的な冷静さが、甘い香りのする疑問点をすぐさまに掻き消す。
それこそ今はそこで色々と考えている場合ではない。そのような余裕があるわけがない。
「お嬢さん?」
キンシはやや緊張気味に挨拶をしながら、音をたてぬよう身軽にさらりとカウンターを乗り越えた。ヒエオラ店長がだいぶ嫌そうな顔をしていたが、とりあえず後で掃除することにして、まず幼女の元に近寄った。
「んるるる……!」
興奮気味に喉の奥を鳴らす。
「初めまして、僕の名前はキンシと申します」
接近するといよいよキンシは幼女の醸し出す可愛さに目がくらみそうになる。出来るだけ呼吸を落ち着かせ、まずは丁寧な挨拶をした。
「は、初めまして…」
突然馴れ馴れしくしてきた正体不明の魔法使いに対して、幼女は「ごきげんよう…」とか細い声で挨拶を返してくれる。
意識しないと決めていても、どうしても感覚というものは目敏く情報を集める習性があるらしい。キンシは鼻腔の粘膜で甘い香りを、違和感を感じ取っていた。
やはり、何かがおかしい。脳の奥で好奇心がそう主張してくるのを、若き魔法使いは一般的な常識の名のもとに、賢明なる努力で抑え込んだ。
幼女という概念には以下省略。




