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ゴシックかロリータなのか、どっちつかずなデザイン

中途半端が一番つまらないね。

 重力のままに、水の中へ眩暈を覚えているなか。


「キンシ」


 濡れそぼつ毛髪の流れを見下ろしながら、オーギは特に感情を込めることもなくやるべき質問文だけを投げつけていく。


「キンシ、それで、その馬鹿みたいな仮面野郎と、春日(かすか)のチビな妹は、今どこにいるんだ?」


「……」


 思考の水底から他人の声によって引きずりあげられる、感覚のずれを取り戻している空間に、オーギは立て続けに気になる事項を並べ立てていく。


「あそこから、採掘現場から移動するにしたって、そいつらはここに来たのは初めてだろうし、そう大したところには……」


 自分なりの意見を述べようとして、しかしすぐに自身の中で否定文を作り出す。


「あー……、今時はスマートホンとかでなんでも検索できそうだし、どうとでもなるか。その辺どう思うよ、なあキンシ」


「……そう、ですね」


 キンシはようやくまともな意識を取り戻して、オーギの言葉に同意とも否定とも取れない意見を呈する。


「たしかに彼はスマフォを携えてはいましたが、しかしそれでも安易に別の宿泊所へ逃げ込む、と言うことはしないと思われます」


「大体よ、何でまたそんな……。そいつらはどうしてお前の家で大人しくせずに、わざわざ俺らの仕事現場にまでノコノコとやって来たんだよ。その……要するに、ヤバいことがあるならへんに動き回る必要もなかったと、思うんだが」


「そうですね、僕も先輩とおなじことを思います。しかし彼らはきっとそうすることはしなかったと思われます」


 若干の違和感を見せながらも、キンシは何とかして理性的な意見を自分の中に積み上げていく。


「彼らは何処かに行って、誰かに会うことを目的として、はるばる遠くからこの町に訪れてきたと。そのような事柄を申していたような気がしています」


「その何処かだとか、誰かは何なのか、を知っているわけではないんだろうなあ……」


 どうにも確証を得られそうになく、オーギは爪で頭部を掻きむしりたくなる。


「何にしても、何と言うかまあ、運のいい奴らだよな。お前の誘いに無理矢理引っ張られておきながら、ギリギリのところで自警団に見つからずに済んだとは」


 もしもあの時、自分たちが無駄に長々と魔術師たちの相手をしていなかったら。とそんな仮説は無意味でしかなく、とにかくオーギは今のところ浮かべることのできる言葉を乱発してみることにする。


「そうですよね」


 キンシも先輩とほぼ同意の、それでいて決して同室ではない疑問文を自分の中で滞らせる。


「どうして彼らは? 確かに目的や動機が存在していたにしても、どうしてあんな所に……?」


 首をかしげて、窺い知ることのできない他人の思惑をあれやこれや考慮してみて。


 結局その答えを得ることは出来るはずもなく、やがて諦めたかのように大量の二酸化炭素を喉の奥から激しく排出する。


「ふーむ、ふむふむ。こんな所であれやこれやと、色々考えても仕方がありませんね」


 思惟に凝り固まりかけていた肉の筋を、伸縮運動によって無理やり引き伸ばし、まずはとりあえずと行動に移る予備動作を取り繕う。


「とりあえず、彼らはミッタさんと、齢五つにも満たしていなさそうな方と一緒に移動をしたと。シマエさんはそう言っていたんですよね?」 


「ああ、大体そんな感じだったな。そんなほとんど赤ん坊に近い人間が、あの場に残されていたとしてあいつが放置するはずもねーし」


 ここにはいない女性の行動について、オーギは無意識の内に自信に満ち溢れて仮定を素早く建てる。


「そうだとすれば、ですよ。彼らは、特に妹のメイさんの方はきっと、とりあえずミッタさんを信頼のおける場所に預けるはずなのですよ」


 そしてキンシもまたここにはいない、別の彼女に対して確信に限りなく近しい想定を脳内で組み立てる。


「彼女ならそうするはずなのですよ、確定することは決してできませんが。よもや彼女がそれ以外の行動をするとは思いません、彼はともかく、彼女の事ならば何となく理解できますしね」


「えー、つまりどう言うことだ?」


「多分彼らは、僕の家の近くまで一旦戻る筈と言うことです」


 キンシは自分の意見を自分なりに要約して、シンプルな形として先輩に伝える。


「そうとなると……」


 オーギは後輩の意見を受け取り、それとなく現実的と思わしき仮説を立ててみる。


「シグレのおっさんのパン屋辺りが、一番手頃な場所だよな」


「そうですね、僕もその辺りが怪しいと思います」


 同意を申すまでもなく、それよりも早々とキンシの意識と体の向く先は会話の中に登場した目的地に定められていた。


「急ぎましょう先輩、自分から首を突っ込んでおいて、そして先輩までも巻き込むような形になって。こんなことになってしまって僕がそんなことを言うのもあれですが。なんだか嫌な予感がします」


 そんなのはあの二人の魔術師から取り調べを受けていた時から感じて然るべきことなのでは。


 オーギはそう疑問に思いつつも、しかしわざわざそれを声に発するようなことはしないでおいた。


 これ以上長々と想像を並べ立てても意味がない、太陽は既にだいぶ傾き夕暮れは通り過ぎて、灰笛の空気はもうすぐ夜へと到達しようとしている。


 雨はやはり止むことをせずに、降り続ける液体は温度を急速に失って人間の肌から容赦なく熱を奪おうとする。


 冷気に逆らって、キンシは足を動かそうとする。


「急ぎましょう、何かどうなるか分かりませんが、最悪の事態になる前に行動は出来るだけ多く起こすべきです」


「最悪、ね」


 後輩の後についていく形をとるオーギは、誰に聞こえるでもなく独り言を呟いて脳内に言葉の音を転がしてみる。


 はたして自分の思っている最悪が、相手にとっても同様の意味と解釈できるものなのか。



 魔法使いが解釈の違いに苛まれている頃に。


「何だお前ら?」


 ルーフは二人の人間に出会っていた。


「こんにちは、それともそろそろこんばんはと言った方がいいかしら?」


 時刻はそのぐらい。時計を確認することが出来ないので詳しいことは分からないが、それでも空の明るさ的にもうすぐ夕刻が終わりに差し掛かろうとしている。


 そんな時間に、空間の中でごくごく少ない人数の人間が互いに意識を交わらせている。


「ねえ、ナナセ、家庭によってはそろそろディナーの準備をしている頃合いかしらね?」


 夕暮れという訳でもなく、元より雨雲によって日の光は乏しい。


 そのような場面においても明度の激しい、黄色身の強い毛髪を持つ少女は、すぐ近くにいる腰の細い長髪の人間に向けて笑いかける。


「そうですねえ、ご主人様」


 ナナセと呼びかけられた、背の高い人間は人差し指を顔に近付けようとして、しかし寸前でそれを思いとどまり。


 代わりにへらへらと、あまり鮮やかさのない唇に軽薄そうな笑みを浮かべはじめる。


「最近の食事は、短い時間でどれだけ効率良く、が主な命題となっていますからね」


 はたしてそれは問いかけの答えになっているのだろうか、ルーフは余所余所しくも疑問に思い、少女の隣にいる人間の様子を窺おうとした。


 しかし見えるは奇妙な形をしている、黒々したゴーグルのレンズばかりで、いまいち視線の向く先が掴めず、不快感が募るばかりだった。


「あー……」


 会話が上手く着地することが出来ず、隣の大人に「ご主人様」と呼称された少女は、どうにも正体のない声を少しだけ漏らす。


「まあ、その、あれよね……。変に長々と前置きする必要も、無いわよね」


 大人の方はこれ以上みたくないと、ルーフは仕方なしに少女の方に視線を向けてみる。


 しかしそれでもなお、彼の中には不可解しか生まれなかった。


 何と言うか、色々と奇妙が過ぎる少女。


 何だ、なんだあの服は?


「変な服ですね」


 あからさまに言うべきではない、実際に口にしてみれば確実にトラブルの原因と化す。


 そう自覚していながらも、ルーフはついついその感想を述べずにはいられなかった。


 それは何と言うか、何なのだろう?


 妙にかっちりとしているのか、それとも不必要なまでにフワッフワとしていて。

 つまり、どう言ったらいいのか。


「えっと、ですね。この人はあなたの服がステキ的なことを言いたくて、ですねっ」


 メイが必死に兄の失言に対してフォローをいれる。

 その丸い瞳には半分以上、自分の本心が含まれていそうだと、ルーフは何となく察していた。


「あー……ウン、ありがとうね」


 金色の毛髪を後頭部で一つにくくっている、少女は青い瞳を細めて咳払いを一つして。


「まあ、私の服装の事はどうでもよくて、ね」


 もののついでと言うように、なんともどうでもよさそうな口ぶりで、少女は少年に用件を伝える。


「ねえお兄さん? 貴方のお爺さまはお元気かしら、今はどこで眠っているの」

「こんなにもシンプルなデザインの癖に、なんでこんなにも値段が高いんだよ。もう少し安くてもいいんじゃないのか?」

「そういうのは自分で作ってみてから言ってください。その上で僕は貴方の作品を全力で否定してみせましょう」

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