匿名性に対する油断を抱いたな
たあぷぽぽ、たあぷぽぽ
決して彼らにその種類の武器に関する知識を有している事実などは無く、それ故にその砲弾がどのような種類の物であるのかどうか、確信的に想像することは出来るはずがなかった。
そうであっても、キンシなどはどこかぼんやりとした意識の中で、最後の最後に過剰なまでの執着さを持って撃ち込まれた砲弾が最初の物とは異なることに気付いていた。
何と言うか、何となく音に激しさが足りないというか。
その感覚に疑問を持つ、それよりも早く魔法の弾は操縦者の指示に従って最後の仕上げを開始した。
「うわあ、何あれ気持ち悪っ」
反射的に率直かつ素直な感想をこぼすキンシ。
そのゴーグルの中に潜む視線の先に手、魔法の弾は与えられた指示に従って反応を起こしていた。
最後の弾はそれまでの爆発式とは異なり、魔力による衝撃波を炸裂させる代わりに、ウネウネと細い筋を大量に四方八方と吐き出している。
それは植物のツタのと言うにはあまりにも細かすぎる、冬の木立や人間の表面部分に内蔵されている毛細血管の方が形質的には似ている。
それがまるでそれぞれが手前勝手に自立する個体の生き物のように、しかし抗いようのない連続性に囚われながら蠢きを催している。
およそ生き物としての範囲に達していない、細やかすぎる触手は獲物を捕えんとするタコのような無遠慮さによって怪物の肉に取り巻いていく。
最初は人の腕程の長さしかなかったそれら、まばたきを二回ほど繰り返している合間であっという間に巨大な怪物のゲルを丸々一つ、軽々と一括りできるほどに範囲を広げていった。
「///,///,///,77333--q3333---111」
自らの体を広範囲において圧迫、圧縮しようとしてくる異物。
怪物はごく当たり前な拒絶感を持って、その大部分が欠損させられた肉体を懸命に脈動させながら触手から逃れようと試みる。
もがいてもがいて、他者からの影響に抗おうとする。
その心意気も虚しく、魔法の触手はその勢いをいっこうに止むことなく。
むしろ怪物の方が足掻きに足掻き、その柔らかな肉体を動かそうとするたびに、魔法の触手は動作に乗じて先端を張り巡らせ、先端を絡めて瞬く間に目の細い網状と変化していった。
ジットリと、蜘蛛の体内から発せられるそれをそのまま人間、及び怪物のサイズ間にまで拡大してしまったかのような。
そのような形質の網目に哀れにもその体を絡め取られてしまった怪物。
「4444,4444---」
当初こそ気丈にもその身に嫌らしく纏わりつく粘性の筋を振り払おうと、呼吸を荒くして懸命さを誇示してはいたものの。
しかし網目は相手の健闘など一切構うことなく、問答無用で一切の感情もなしに機能的な秩序を崩そうとせず。
「////.,,,,,」
やがて一つの物事に対して諦めをつけたかのように、怪物は自らの肉を動かすことを止めて物言わぬ長物へと変化していった。
だらりと弛緩した目標について何か思考をしているとも思えず、あくまでも機械然と網目は残されている部分を一かけらもとり逃さんと、きめ細やかさを増加し続ける。
「あ、落ちちゃう!」
目の前で繰り広げられた一連の魔力的作用の解明をする暇も与えず、人間と同様に重力による作用が怪物の体に働こうとして、キンシが喉の奥に悲鳴を爆発させると同時に行動を開始しようとした。
と、その所で。
ポンッ、とコルク栓を抜いたような感じの異様に間抜けな音が怪物のいる所から響いてきて。
怪物の体を見事に捕え尽くした網目、その根本たる個体。
ブリキじみた船に内蔵されている砲台、その狭い口からぶち込まれた魔法の砲弾。
大きさからしてヤシの実よりも少し小ぶりなサイズ間の弾が、内部から大量の触手を吐き出したそれは未だに網目に付着していて、その頂点から先ほどの音がなっていたらしい。
目を凝らして見る必要もないほどに分かりやすく、砲弾からはなんとも古典的ともとれる、どこかの漫画のキャラクターがポケットから引きずり出してきそうなほどに基本的な、なんとも機動性に優れている感じがするプロペラが生えて来ていた。
プロペラの羽は内蔵されていた場所から外部へと排出さるや否や、その羽根を一個の円形に錯覚するほどの速さで回転をし始める。
羽の回転はやがて浮力を得て、そうだとしてもどう考えてもその程度の翼ではとてもじゃないが怪物の巨体を支えきることなど不可能だと思えるのだが。
しかし以外にも魔法の翼はそのいまいちな見た目に反して頑強さを有していたらしく、怪物を内包した薄ピンク色の同じく魔法の網は空中にブラブラとぶら下がる格好となった。
「おおー、すごいですね」
持っていた槍を肩に引っ掛けて、キンシは雨に濡れた両手で物言わぬ道具たちに向けて拍手を贈る。
「あんなに激しく暴れていた彼方さんを、こんなにも早く落ち着かせてしまうなんて。先輩見てくださいよあれ、まるで引き網漁のようですよ、面白いですね」
「まったくな」
オーギは後輩の感想に対してまともに取り合うこともせず、どこか呆け気味の思考の中で思ったままの事を唇に滑らせる。
「なんとも、間抜けだよな。こんなに簡単に早々と事が済むなら、いつでもどんな時でも助けてくれりゃあいいのによ」
そしてすぐに不必要な失言を心内で軽く公開した後、すぐに目の前で繰り広げられた茶番じみた一連の一幕について考えてみる。
「まあ、化け物の動きを封じてくれたことに関しては感謝感激として。それにしても……、何だあれ? 何なんだあの気持ち悪い桃色は」
オーギは目の前で稼働し続けている魔法道具に対し、いかにも魔法使い的に上から目線の品評をこぼした。
「気持ち悪りー……、なんつーか、キモ……キモいな!」
「ちょっとちょっと先輩、どうしたんですか落ち着いてくださいよ。そんなに他人の魔法を否定するものではありませんって」
あからさまに一方的な嫌悪を見せる先輩魔法使いに対し、キンシは最初こそ諌める言い方をしてみたものの。
「まあ、確かに? 方法に対する着眼点はそれなりに素晴らしさがあるとは思えなくもないですが、しかしあの形状、そして配色に関してはどうにも。僕としてはあのプロペラ部分がなかなかにいい線をクリアしている分、むしろその点が嫌らしく気持ち悪さを倍増させてしまっている部分が否めなくも?」
抑圧の言葉に逆効果として本心をあおられてしまったのか、割とすぐに手の平を返して勝手に持論をだらだらと繰り広げはじめる。
「先生に同意します」
魔法使いたちが批評を始めた所に影響されてか、基本的に自身の内心を明け透けにすることを好まぬトゥーイまでもが、周囲に影響されて言葉を並べようと。
「嫌悪を変化的に流動体として受け取ります安定感ありませんそれはまるで冬虫夏草の如く試行錯誤の途中」
その大体が他の二人と同様と思わしき、いくら内容を解することは出来ないにしても、おおよそにおいて否定的捉える言葉の羅列を発音する。
三人が身勝手に手前勝手に、何ものにも縛られない自由気ままな感想文を並べていると。
「オイッ! そこの浮浪トンチキ手品ヤロウ共!」
自警団の船から、外壁に取り付けられたサイレンの穴から人の怒号が放たれてきた。
「勝手な事ばかりぬかしやがって、助けてもらっておいてその態度はねーよなあ!」
脅迫じみた声音で怒鳴ってくる、それは成人済みの男性的な低さによって三人の戦闘型魔法使いの耳を苛んだ。
「うひーっ、ごっごめんなさい、言葉の勝手が過ぎましたっ」
キンシは生物としての基本的な驚きの中、体をびっくりと震わせて簡素なる謝罪をした後。
「えっと、誰ですか?」
とても船の方に聞こえるとは思えない程の声量のみで、ぽつりと疑問を抱いた。
ちりからちりからつったっぽ




