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絞めても無意味だよね

彼女にその攻撃は効かない

 空中に浮かぶ傷、のように見える何かの集合体をキンシは指差す。


「魔法鉱物はあのように、空中に出現する断裂の中に多く含まれていることが多いのです。この灰笛は元々石の含有量が多い土地でして、だからこそ魔法使いがたくさん集まってきたのでしょうか。その辺の由来はともかく、傷を作って中から石を抉り出す、それもこの町における魔法使いのお仕事の一つとなっていまして」


 つらつらと語り、それにいまいち付いていけないミッタがぽかんとしているのを見て。


「えー、あー? つまりだな」


 後輩の解説口調を中断し、オーギがこの場において出来る総合を過ごし強引に結ぶ。


「あのでっかい紫色のブツブツの、ウン倍もちっせーのをちまちまと作って、その中から石ころを頂戴する。て感じだ」


 それ以上の言葉は今は必要なし。とでも言うかのように、オーギはさらりと抱えていた幼児を地面に降ろす。


 地に足をつけて体を開放されたミッタは、口をきゅっとつぐんでそそくさとトゥーイの足元に縋りついて行った。


 その様子を横目で眺めながら、オーギは隣に来ているキンシのほうを改めてじっと見下ろす。


「そういう訳で、今回の魔法鉱物採掘現場は都心部付近、ビルの屋上にて現場が展開されている」


「なんと! 今回はまた随分とどえらい所に反応が出現しましたね」


 ミッタの視線を感じ、ごくごく小規模の取引が行われているさなかでも、オーギは律儀に幼児へ追加の解説を加える。


「魔法鉱物ってのはな、灰笛では特にたくさんとれるもんで、それこそ町中にいきなり鉱脈がドカンと飛び出てくることもあるんだよ」


「そうなのです、だから」


 言葉を堪えきれなかったキンシが先輩の説明に乗ってくる。


「それこそアパートの物干しざおの横だったり、コンビニエンスストアの軒先であったり、本来滅多に出現しないはずの傷口は、この灰笛に限定してはそこかしこに、シリーズものゲームの派生作品並みに大量に出現するんですよ」


「何故か、な」


 オーギは遠く、おそらくは窓の外の大きな大きな傷の方なのであろうが、それすらも通り過ぎるかのような目線で一人呟く。


「日常の中でも絶え間なく出現する傷の数々、その中でもひときわ、それは中に色々と入っているってことなんですけれど」


 オーギの視線を他所にキンシはミッタへの説明を続ける。

 ミッタは魔法使いの「色々」の発音に若干の違和感を覚えながら、しかし好奇心のままに大人しく次の言葉を待つ。


「空の上の紫色のあれしかり、ああまでとはいかなくても、魔法使い関係者方々が総動員したくなるような、そんな大がかりな物が開かれることは地上ではそうそうありません、地上では、ね」


 途中から、予測はしてたものの取引の本髄がここにきてそのにおいを強くし、キンシは口を閉じきるよりも先に嫌な汗が肌に滲むのを感じとる。


「そういうこった」


 オーギが目を半開きにして、背の低い後輩と目線があるように腰を曲げながらもう一度、にっこりと笑みを浮かべる。


「地上ではなかなか拝さない傷、それは大体人の体が及ばない場所にばかり、どうもこうも訳も解らず都合よく、めんどくさい場所にばかり出てきやがる。そして今日の、今回出てきた現場は地上遥か高く」


 そして大げさに、その上に人知の及ばぬ宝でも存在しているかのように、実際はそんなものなどないと十分に自覚してオーギは後輩に仕事の報告をする。


「集合ビル群の一角、その屋上にて多量の魔法鉱物反応を確認。急ぎ傷を作成して採掘をする旨あんた方には、つまり俺達自由形魔法使い野郎共には、緊急時に備えた補助を求めますコンチクショー」


 「緊急時」の部分を嫌に嫌味ったらしく誇張して、あるいは自嘲気味の雰囲気も醸し出しつつ、オーギはそこで会話を中断する勢いで行動を開始する。


「そういうこった、地上何メートルなのかクソ文系な俺にはいまいち測りかねるが。とにもかくにも人が生きるべきでもないような高さの現場に、そんなスイカよりも強度が低そうなガキを連れて行って、それこそ緊急時にもテメエが対処できるってんなら、俺もこれ以上何も言えやしねーよ」


 先輩魔法使いはそこで取引を遮断し、あとは後輩の勝手にすればどうでもいいと言わんばかりに、何も見ることなく真っ直ぐ部屋の外へ、自分の仕事へと歩いて行った。


 寄る辺もなく取り残された後輩二人と部外者一人。


「ふむ」


 キンシは沈黙の中で考える。


 トゥーイは何かを初をんすることもせず、ガサゴソと部屋の一角。いつの間にか示し合せることもなく溜まっていった不用品の、避難場所の山に手を突っ込んでいる。


 ミッタがじっと自分の事を見上げているのを、その瞳の中には自分がここにいるべきではないと十分に自覚している。

 その感情を確認するでもなく、キンシは考えに考えまくる。


「さて、どうしますかね」


 だがしかし、どこか楽しげに誰に向けるでもない独り言を。


「先生」


 キンシが左の指を動かす、それよりも先に。いつの間にか移動してきていたトゥーイが話しかけてくる。


「ん? どうしましたかトゥーさん」


「先生」


 キンシの言葉に答えることもなくトゥーイはぐいぐいと手の中にある物、それは不用品の山の中から発掘した物で。


 長さの有り余る布製のひも数本、何かしらの道具の残骸なのだろうか?


 若い魔法使いが本意を理解すると同時に、もしくはそれよりも先んじで、トゥーイは紐を携えたままの恰好でじりじりと、幼児ににじり寄る。

自分の首を絞めているような気分です。

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