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灰笛続き 1月14日 1つ 1404 魚の話はまた後で

 それよりも。滅びかけの「普通の人間」などという、魔法少女にとってはドラゴンやスライムよりもずっと空想の存在に近しいものであること。

 だということ。と、決めつけようとしたところで少女の先入観に介入がもたらされていた。


 少年のことを思い出してしまう。

 クセがたっぷりの短めに整えらえれた赤毛。


 秋に熟れる稲穂のように豊かな髪の毛のした、琥珀色の瞳は強い意思に漲っている。


 おかしい。とキンシは考えていた。

 記憶の中にあるはずの少年はもっと弱々しく、情けない存在であるはずだった。

 例えば道すがらに出会ったあやしい魔法使いモドキに助けを求める。その位にはどうしようもない、無力な存在であったはず。


 なのに、どうしてだろう? キンシは自分自身のイメージがひどく古ぼけたものであると、そういう風に思えて仕方がなかった。


 何かが変わりつつある……?

 変化、あるいは変身が、魔法使いモドキの少女にとってどうしようもなく恐ろしいものに思えて仕方が無いようだった。


 嗚呼、駄目だ。どうしようもない……。

 どうしようもないほどに、考えたくないこと、恐ろしいこと、悍ましいことばかりを考えてしまう。

 そうしてしまうのは、もしかするとキンシ本人が思っている以上に自分自身に疲労が蓄積してしまっている可能性があるのかもしれなかった。


 思えばすでに宵はかなり奥まで耽っている。

 時計を用意できそうにないため、正確な時間は分からない。

 ただ夜であることだけは確実で、「普通」に健康で安全、安心な子供であるのならばベッドなり布団なりで枕に頭を沈めているべき時間帯のはずである。


 眠気が訪れそうになるのを、キンシは逆らう術を知らないままにただただ受け入れるだけに留めている。

 そんな魔法少女の様子を見ていた、ラクが気がかりを抱くように少女の様子をうかがってきている。


「どうした? キンシ。なんだか顔色が悪いけども」


「そう……でしょうか?」


 ラクに指摘された。

 キンシはようやく意識を元の位置関係に戻しつつある。


「はっ!」と思い出した。


「ラクさん! お身体は……主に首の辺りは大丈夫ですか!」


 キンシがラクの方に身を寄せようとしている。

 飛びかからん勢いにラクは思わず身を引いてしまっていた。


「落ちつけよ、俺は別に何ともないって」


 ラクは人魚っぽい下半身を蠢かせて、濡れたアスファルトを爬虫類のように静かに移動している。


「むしろ邪魔な矢を摘出してもらって、かなりスッキリくっきりドッキリしているっての」


「そうですか……?」


 ラクの意見について、しかしながらキンシはどうにも不安感を拭いきれないでいる。


「もう少し、少しでもいいので僕の力で治癒魔法を……」


「いや、それは勘弁してくれ」


 ラクは魔法使いモドキの少女の提案をやんわりと断っている。


「あんな大量の魔力を叩き付けられたら焼き魚になるどころの話じゃないだろうよ」

 

 冗談めかした言い方をしてはいるが、しかしてラクはそれなりの本気の度合いにおいて魔法少女の提案を拒絶したがっているようだった。


「その笑顔だけで十二分。それに……──」


 ラクは体を後方に向けている。


 彼が見ている方向にキンシも視点を移してみる。

 そこでは。


「…………」


 トゥーイがラクのことを睨んでいた。

 まるで本物の敵を目の前にしてしまったかのような、そのぐらいの熱量を帯びている。


 紫水晶(アメジスト)のような紫色の瞳、左目はラクの背中を射続けているのであった。


「さっきからずっと視線を感じていた」


 ラクは少しだけ過去を振り返るようにしている。

 まだトゥーイ本人には話題を持ちかけられないでいるらしかった。


「さて、どうしようか?」


 ラクがキンシに質問をしている。


「どうする、とは?」


 キンシが戸惑い気味に聞き返している。


「どうするって、ほら」ラクはキンシに助けを求めているらしかった。


「このままだと俺は君の相棒に視線だけ刺し殺されそうな勢いなんだって」


「いやいや、そんなまさか……」


 否定しようとして、しかしてキンシはトゥーイの姿を見やり自らの認識、……と言う名の楽観的視点を拒絶せずにはいられないでいた。


「…………」


 トゥーイはしばらく見たことも無いようなほどに怒っているらしかった。


 怒りの対象はラクただ一人に配送され続けている。


 迷える魔法使いたち。

 環境に向けて、魔女が誘惑のひとことを発していた。


「だまっていても仕方がないわよ? ねえ、トゥ」


 魔女は、メイという名前の彼女はトゥーイのことを誘導している。


「気に入らないなら殺してしまえばいいのよ。

 だってそうでしょう? 好きなヒトの肌に許可なく触れる輩なんて、刃物で切り殺されても致し方なし、じゃないかしら?」


 それもそうだ。と、トゥーイは魔女の誘惑にすぐさま納得を得ている。


「うわ?!」


 足の動きにラクが怯えを抱いている。


「ヤバい、近付いてきている」


 発音は冷静さを保ったままに、ラクは自らの命が魔法使いに害される可能性を予感していた。


「俺はおそらく、殺されるだろう」


 ラクの瞳に刃物の姿が映る。

 それは人を殺せる力を持っていた。

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