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灰笛続き 1月10日 2つ 1398 魚は大漁になったものから順番に食べましょう

 ふんわり……。いや、違う。ふうわり、……違う、もっと相応しい表現があるはず。

 キンシは魔法を使ってゆっくりと落ちながら、光景にぴったりと当てはまる言葉を探していた。


 違和感があった。あまりにも「遅すぎる」のである。

 スカートがヒラヒラとひらめいている。

 布自体はしっかりと世界の要素に影響されている。


 屋根の下から雨空にさらされている。

 布は渇いた軽さから雨の雫を吸いこんで重さを得ている。


 濡れながら落ちている。キンシはその様子をじっくりと見ることが出来ていた。

 ロングスカートはいくらか長すぎるほどに豊かな布地を有している。


 個性的な下半身をさらに強調するように、上半身に身に着けている黒色の革製なジャケットがスマートなシルエットを描いていた。


 インナーは黒色の丸首シャツ。

 長袖であると判別できたのはジャケットの裾から微かに柔らかい布地がチラリと見え隠れしているからだった。


 シンプルな首元をカバーするようにネックレスを身に着けている。

 留め具が無い少し変わったタイプ。(チェーン)の両端にカウボーイが使いそうな投げ縄のような輪っかがあり、それらを噛みあわせて一本のアクセサリーとなるモノ。

 見ようによっては斬新なデザインの一品に見える。


 ……と、こんなにもじっくり観察できてしまえる。

 状況にいよいよキンシは違和感を、そしてさらに恐怖心のようなものを抱きそうになっている。


 しかしながら感情に怯えている場合でも無い、ということもまた事実であり現実でもあった。


「やっぱり遅い……?!」


 対象はあまりにもゆったりと落下をしているのであった。

 もしかすると、魔法か魔術か何かしら、あるいは超常的レベルにまで達した科学技術を使って落下スピードを急激かつ急速に減速させているのかもしれない。


 キンシの想像力では精々可能性を考えるので精いっぱいであった。

 考え事をするよりも先に、と魔法使いモドキの少女は思考を切り替えようとする。


 己の想像力の矮小さから逃れるように、目的だけに注視しようとした。


「んるるる……!」


 キンシは体を前に、位置関係的には下側へと滑らせる。

 雨水が魔法少女の身体、肉の形を固定する空気、そこへ書き加えられた変化の在り様を受けてくにゃりと柔らかく屈折している。


 海豹(アザラシ)が冷たい水の底へとエサの魚を求めてヒレを動かすように、キンシも全身を駆使して空間の中を泳ぐように移動する。


 スルリスルリと滑り落ちる体、指先はやがて対象の布の一片に触れ合っている。


 布をたぐり寄せる。

 白色の魔女が感激していたスカート。

 彼女の簡単に相応しく、布地は実に豊かな質感を有していた。


 キンシは自らの爪で布を傷つけないように注意を払う必要があった。


 ……だからなのだろうか? 少女は気づくべき違和感にまだ意識を届けられないでいた。

 仕方のないことと言い訳をしてみる。

 まずもって魔法少女は人体がこれ以上下に落ちないように抱きかかえる、ということだけに注力しようとしていた。


 その時点でまず一つ、ずっと抱いていた不安が結実を果たしてしまっていた。


「軽い……?」


 想像していたよりもはるかに軽い。

 対象の骨格から考えるに七十は越えていなければならないはずの重さが圧倒的に少なかった。


 細かい計算を可能としている訳では無い。

 トゥーイであればもしかしたら子細な数値を導き出すことが出来たかもしれないが、しかし残念ながらキンシにそう言った能力は備わっていない。


 だとしても、キンシにも直感的に「これは異常である」と思わせるほどの軽さがその対象にはあった。


 「有る」という言い方さえも間違っているような気がしてならない。

 欠落していた、重さはせいぜい米袋ひとつ分程度。魔法や魔術、あるいはSF的科学技術に頼るまでもなく、十二歳程度の少女の両腕に抱えきれる程度の重さ。

 たったそれだけしかなかった。


 なるほど体積に対して重さが少なすぎるから、落ちるのに若干時間がかかってしまったのだろうか?

 

 ……いや、そうじゃない、もっと別の理由があるはずだ。キンシはそう考える。


「……んッ」


 と、思考をめぐらせているところで、キンシの腕の中にいる人物が小さく声を発していた。


「……あれ? 何が起きたんだ……?」


 声は低い。

 耳にした音程を聞いた、キンシは新たな認識を得ていた。


「あれ? あなたは男性ですか?」


 落ちかけていた人間……と思わしき耳を持つ男性に問いかける。


「はあ、そうだが」


 魔法少女に抱きかかえられている男性はすぐに答えていた。


「ところで? あんた誰よ?」


 問いかけられた。

 しかして彼は問いを投げた次の瞬間には一つ、なにやら思い当たる節を予感させている。


「……んん? その耳、どこかで……」


 どうやら少女と同種族の知り合いが彼にはいるらしかった。


 だが確固たる情景を彼が頭のなかで再生するかしないか、ギリギリのラインでキンシが深く息を吸いこんでいる。


「大丈夫ですかーっっ?!!」


 キンシはぐわしと彼の首元、横一線に突き刺さっている白色の矢を掴んでいた。


 彼が悲鳴をあげる。

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