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灰笛続き 1月3日 3つ 1391 魔法使い的少女第3章続き 人魚の季節 シャムネコにゃーごの場面

 ……あー……あー……あー……

 うん、問題なく聞こえるようだ、よかったよかった。

 安心なぼくら……とまではいかなくても、なんとかしばらくは俺たちの姿を見てもらえるようだ。

 さて前回までのあらすじ。


 ……を、語りたいが、しかし乙女たちがそれを許してくれそうになかった。


「マジウケル、マジまんじってカンジー!」


 妖精族の若い女性が興奮気味に窓から体をひらめかせていた。

 濃霧(こいきり)と呼称される種族。その中でも「ピクシー」と呼ばれる翅と三角形に尖る形状の聴覚器官を特徴とする魔物の血を受け継いだニンゲンに類するモノ。


「エリーゼさん?!」


 妖精族の彼女の名前を叫ぶ少女の声が一つ。

 少女は車の外に身を乗りだして彼女を呼び止めようとしていた。


「危ないですよ!」

 

 少女の言う通り、エリーゼの行動は危ない事に変わりはなかった。

 なんと言ってもこの場所は空の上であり、彼女らはいま空飛ぶ車に乗車している真っ最中であったからだ。


「だいじょうぶだってー」


 しかし少女の不安を他所に、妖精族の若い女性はすぐに魔力の翅を背中に展開させていた。

 妖精らしく空を飛ぶ、活力に満ちあふれた魔力の気配。


「んるる」


 他人の魔力の気配を感じとった、少女はいったん自分の体を空飛ぶ車の社内、運転席の座席に落ち着かせていた。


 窓ガラスに少女の姿が映る。

 

 ボブショートの黒髪は猫っ毛でホワホワと柔らかく、毛先は灰笛(はいふえ)という名の土地に降る雨の湿気を吸いこんで自由気ままに跳ね回っている。


 左側のもみあげ部分に一筋銀髪が混じっている。メッシュのような効果を想起するが、決してそのように洒落た気遣いは含まれておらず、ただの地毛であるらしい。


 頭部に生えている聴覚器官は丸みを帯びた三角形、まるで生後六か月の子猫のような造形が為されている。


 眠子(ねむこ)と呼ばれる種族、「猫又」を中心としたネコ科動物の特徴になぞらえた魔物族の血を半分ほど受け継いでいる。

 

 猫型な獣人族の少女。

 少女は子ねこのような聴覚器官をピコピコと動かしながら状況を再確認しようとしていた。


「えっと……何が起きたんでしたっけ」


 キンシはきき手で左の頬を軽く掻く。

 適切に切られた爪が少女の左頬に刻まれた呪いの火傷痕に触れている。

 (ツタ)植物の枝先を切り取ったような渦巻きが左目の下側、睫毛に軽く触れあっている。


 左の爪で火傷痕を掻く。

 皮膚を自発的に傷つけようとする少女の指にそっと触れる手があった。


「キンシちゃん、火傷の痕をいじいじ弄くっているばあいじゃないわよ」


 「キンシ」という名前を持つ魔法使い……モドキの少女に指を重ね合せてきている。


 キンシは彼女の方を見る。


「メイお嬢さん……」


 メイと名を呼ばれた彼女。

 彼女はキンシの左隣、助手席に腰を落ちつかせていた。


「だ、だだ……」


 キンシが彼女の様子を確かめようとして、しかし上手く舌を動かせないでいる。

 眼鏡の奥、丸っこけ以上のレンズの内側、魔法少女の右目が雨に濡れる若葉のように潤み始めていた。


「駄々?」


 メイは小首をコクリとかしげて魔法少女の動揺を羽毛に感じ取ろうとしていた。

 

 助手席に座るメイの姿。

 それはまるで純粋無垢な雛が巣箱のなかで巣立ちの時を夢見ているかのような、そんな清らかささえ感じさせる。


「駄々をこねちゃ、だめよ、キンシちゃん」


 春日(かすか)という名の鳥類に属した機能を持つ魔物族。

 とりわけ「八咫烏(やたがらす)」の血を継いだメイは、肉体年齢的はまだ七歳を迎えるかそうでないか、その程度。


 春日(かすか)族特有の個性として、幼い体は綿花のようにふわふわでモコモコな体毛や羽毛に包まれている。


 肉をほとんどまとっていない胸元には、たっぷりのダウンがふくふくと膨らみを見せている。


 メイは口元に笑みをたたえている。

 真っ白な綿毛の群れ群れからひっそりとのぞく唇の柔らかさ、彩りは熟れたサクランボのようにみずみずしい。


 彼女の指先がそっとキンシの左手に重ね合せられている。

 羽毛にくるまれた白色の指は、指先だけが羽根を纏っていない。

 

 ニンゲンらしく、細やかな作業に適した形状を持っているのだろう。


 メイの指先。

 白樺(シラカバ)の若い枝のようにほっそりとした指の先端は、鳥人族の特徴として長く伸びすぎてしまう爪が鋭く生えていた。


 少し強く握りしめれば、メイの指先はキンシの左手に軽く食い込んでいる。


「ですが、メイお嬢さん……!」


 メイの肌の体温、羽毛のふーかふーかとした柔らかさを思い出しつつある。

 キンシは途端、自らが犯した罪に対する恐怖心に全身の肌を粟立てさせていた。


「た、たたた、た……大変です……っ!」


 キンシはあたふたと唇を震わせている。


「ぼ、僕……ヒトを殺してしまいました……っ!」


 涙を流しそうなキンシ。


「そうねえ」


 メイも同じく涙を流す素振りを作ろうとしていた。


「私、感動したわ。キンシちゃんもやっと一人前のこの世界における本物の「魔法使い」になれたのね」


 どうやらメイはキンシが犯した可能性について、ことのほか喜んでいるようだった。


「他人を殺して初めて一人前。……って、殺されたおじいさまもよくいっていたものだわ」


「メイお嬢さん?」


 キンシが驚いているのを他所に、メイは持論を展開させ続けている。

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