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灰笛続き 1月3日 1つ 1389 刻みたいときにとても便利だよ

「つまらないと、そう主張しておいたばかり、そのはずじゃか?」


「…………」


 もはやそのような与太話に付き合っている倍ではないと思うのだが?

 だって今は戦闘中で、もっとハッキリ言えば殺し合いの真っ最中。命の奪い合いを繰り広げているというのに。


 だというのに、この異世界より来訪せし幼女は。

 何千何万超えて何億と存在する世界観。

 数多くある世界観のなかでわざわざ、こんな世界を選んで転生および転移、ないし召喚された存在である彼女。


 ……ミッタの場合は召喚と表現したほうが正しいのだろうか。


「どうでもよかろうそんなこと」


 異世界より召喚されしもの……もといミッタという名前の幼女が呆れの溜め息を吐き出している。


「今はもっと、もっと! 考えるべきことがあろうとも」


 分かってるって。

 武器について考えなくてはいけない。


 ミッタは依然として俺の首を触手で締め続けていた。

 まだ少し余裕を持たせている、呼吸行為を安心安全に実行できる程度の余暇がある。

 これぐらいの程度ならばゼラチン質の前衛的なマフラーを身に着けている程度の問題でしかなかった。


「さあ、さあさあ!」


 俺にアヴァンギャルドな首巻を提供してきてくれている。

 ミッタは俺に強く期待を寄せてきているようだった。


「考え給え、考え給え! 飛びきり攻撃性のある刃物を」


 そう急かさずとも。

 俺はとりあえず自分の武器に視線を向ける。


 あまり長い時間をかけて観察する余裕はないし、その必要性もないと思われた。

 この武器に相応しい銃剣の形などすでに決まりきっている。


 呼吸が少しできるようになった。


「よし、魔術式に組み込まれた武器の情報を再検索……──」


 余裕を以て術式を使用しようとしたところ。


「例に及ばず!!」


「ぐえ」


 ミッタは再び俺の首を絞めてきている。

 そして要求をしてきていた。


「ただの武器には興味が無い、もっと面白い形を想像しろ」


 要求でも無ければ要望でも無い、それはただの命令文だった。


 再び首を絞められる。


「「普通」の思考を捨てろ、もっと面白いことを考えろ」

 

 懇願とも呼べる。

 呼吸を阻害されて(かす)みにじむ視界に、涙にぼやけたミッタの姿が映る。


 ぼんやりとしていて詳細は分からない。

 分からないが、しかし、ミッタは俺に失望していることだけは把握できた。できてしまえていた。


 どうやら既定に則った武器の姿では彼女を満足させることは出来ないらしい。


 身内(ミッタ)さえもろくに満足させれないとなれば、ましてや赤の他人である……あの人喰い怪物を満足させることなど不可能に等しい。


 見苦しい真似をするわけにはいかない。


「失望させないでよ」


 ミッタも俺と同じようなことを考えているようだった。


「期待はしないけれど、でも必要最低限の夢は見たいじゃない?」


 全く同じことを考えていなくても、目指す方角は大体一緒。

 それで充分だった。

 

「……もっと大きいもの、…………。……もっと、面白い形…………ッ」


 こうなったら思いっきりふざけた形にしてしまおう。

 人喰い怪物を全て殺し尽くせられるもの、人間の意識をグチャグチャにできる自由奔放さを作り上げる。


 ……とまではいかなくても、ちょっとぐらいふざけることなら出来るはずだ。


 考える。

 想像する。

 イメージに意識を投影して、魔力を注ぎ入れる。


 藍色の光が武器に集合する。

 小さな羽虫の一匹一匹の軌道を丁寧に描き、残したような揺らめき。


 光りの集約が一振りの刃を形成していた。


 先台が終わるギリギリのラインになかごがある。それは雑草の根のように短く堅牢なつながりを先台の木製部分に根付かせている。

 根っこによって深く繋がりあっている根元からすらりと伸びる刀身。

 明るく透き通る、青空のように冴えた色は天青石(セレスティン)とよく似た輝きを有している。

  

 あまり曲線は意識されていない、直線のような軌道は短刀のような形状を持っている。

 銃身から七十センチほどの範囲まで伸びている刀身は、ニホン刀のような三ツ頭を描き出している。


 敵兵を討つライフルの下に、敵を切り倒すのに適した日本刀が付属している。

 武器と刀はそれぞれに恋人のように密着しているが、しかし完全なる合体という訳でも無い。


 包丁のような刃物を銃火器に付属させた、現実ではおよそありえない形状の武器。

 まさしく魔法でしかありえない形状であった。


 天青石の透明度は継続する攻撃性としてはいささかたよりない。

 繊細な青色の輝きはその場しのぎの継ぎはぎでしかなかった。


 俺なりに考えた、魔法に頼ったガンブレードのつもり、……である。


 さて? お気に召しただろうか。


「ふむ……」


 ミッタがジッと、俺の考えた姿を品評してきていた。


「平造りの刃か、付きと薙ぎにも対応している……」


 切ったり突いたり、薙ぎ払ったりも出来る……。

 ……なるほど、我ながらなかなかに汎用性が高そうだった。


「なんじゃ、ちゃんと実用する姿を考えておらんかったのか」


 ミッタが呆れながら、自分の姿を俺の後方に移している。


 後ろ髪に柔らかく震える幼女の声を聞きながら、俺は彼女に起こすべき行動を伝えていた。

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