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灰笛続き 1月2日 1388 甘い夢をもうひと匙

 首を絞められている。

 最初の瞬間は冗談かなにかかと、そう思おうとしていた。

 だってそうだろう? ……自分自身に言い聞かせようとする、言い訳を書き加えようとする。

 

 どうして俺が今この瞬間に殺されなくてはならないというのだ。

 よりにもよって今殺される理由が分からなかった。

 今は戦いの場面であって、ましてやミッタには……俺の事を絞め殺そうとしている彼女にとっては、殺そうとしている対象は害すべきライバルに関係するはずだった。


「知ったことかよ」


 俺の主張は、実際に言葉にせずともある程度はミッタに届いているらしかった。

 さすがに完全なる他人同士とは呼べない間柄。契約関係にあるモノ、俺にとっては眷属にあたる彼女に内緒話はしにくいということか。


 と、などと考えているとミッタはさらに俺の首を強く締め付けてきていた。


「ぐええ……」


 息がさらに詰まる、詰められているなかでミッタが俺にささやきかけてきていた。


「あるじさま、キサマの事情など知ったことではない。

 おごるなよ? キサマは所詮この世界にも、もちろん数多にあるすべての異世界にも属することのできないまがい物、混ざりモノでしかないのだ」


 ずいぶんと酷い言い様である。

 一体全体どうしてここまでの罵倒をされなくてはいけないのだろうか?


 ……そして何より、どうして俺は彼女にこう言われてあまり心が傷ついていないのだろうか? 

 まさか俺は自分でも知らないくらいのマゾヒストなのだろうか。


 どうなのだろう、別に性的快感は憶えてはいない。下半身に備わった生殖器は、うーん……ちょっとモゾモゾする程度である。


 もっと快感を与えられればワンチャン程度に収まっている。

 もっと罵倒されれば変わるのだろうか?


 ミッタに、灰色の髪と瞳が美しい、美幼女に殺されそうになる瞬間にオーガズムやらニヒリズムに目覚められたら。


「寝とる場合じゃなかろうも!」


 ぼんやりとしている俺にミッタがビンタをかましてきていた。


 ビッチョォォォオオオンッ!


 主義主張に付き従っているとはこのことか、ミッタのビンタはただのフツウのビンタなどでは無かった。

 非常にぬるぬるしている、彼女は触手で俺の右の頬を弾いているのであった。


「さて、意識がある内にまた夢を観てもらわぬといかんようじゃの」


 夢とは?


「ほら、先ほど古城の女王に急かされて観たものがあるじゃろう」


 ああ、あれか。


 俺の頭の中に再びバリトンボイスが再生されている。

 まだ記憶に新しい声色であるはずなのに、すでに俺の脳内では忘却という名のノイズが大量に浮上してきているようだった。


「すでに忘れかけておる。いやはや、人間に限りなく近しいとはいえ、ここまでの循環の速さはむしろ不安になるのお」


 お褒めに預かり嬉しい限りだ。


「褒めておるわけじゃなかろう」


 俺のオプチミズムみミッタが湿り気たっぷりの溜め息を吐いていた。


 もうすでに無意識の透明さに隠れようともせずに、ミッタはハッキリとこの世界に自分自身の肉体が存在していることを証明し続けていた。


「さらなる攻撃性を持つためには、もっと濃密な情報を必要とする」


 ミッタは俺の視界の前側に体をひらめかせる。

 依然として俺の首を触手で締めたままに、ミッタは唇をムグムグとさせながら思案を巡らせているようだった。


「しかしまあ、現状取得できるデータにも限りがあるのもまた事実」


 それもそうだろう、と俺もミッタと大体同じようなことを考えていた。

 夢を観るのは自由だが、それは時間と状況がそれぞれの内容に上手く合致……とまで言いきらずとも、それなりに仲良しこよしな状態ではなくては成立しない。


 そしてなにより、現状はそのような譲り合いにふけこんでいる場合などでは無かった。


「早いところ形を作り上げなくては」


 ミッタは視線を上に向ける。


「あるじさま、おぬしが作り上げた杭の強度にもあまり期待はできなかろうて」


 それに関しては俺も同意せざるを得ない。

 俺なんかが作った魔法では、せいぜいあと五分程度、人喰い怪物の動きを天井に留めておくのが限界だろう。


「いや、そんなに頑丈でもあるまいて、せいぜい三分が限界とみた」


 訂正、どうやらミッタという第三者目線では状況はさらにヤバいと見えるらしい。


「悲しみに暮れておる場合ではないぞ、あるじさま」


 別に悲しんではいないつもりだが、それはあくまでも俺の主観でしかなく、実際はべそべそと泣き顔を曝していたかもしれなかった。


 しかし泣いていようがいなかろうがミッタには、……彼女を含んだ意世界の人間たちには関係が無かった。


「さあ、考えるのじゃ、武器の形について考えるのじゃ」


 ミッタが俺に催促をしてきていた。


 武器の形? 形状はすでに完成されているのではなかったのか?


「もちろんこれで攻撃をすることはかのう。

 しかし、決定的なとどめには遠くおよばぬ」


 可能な限り直接的な殺意を求めている。

 刃物が最適であると、話だけは聞いた。


 だったら、武器にあらかじめ規定された剣の形を再検索すれば良いのでは?


 そう考えたところで、ミッタはさらに俺の首を絞めてきていた。

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