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灰笛続き 12月27日 3つ 1379 すてきなことって作るのがめんどくさい

 人喰い怪物の攻撃であることだけ、それだけが確かな情報だった。


「危ない」


 モアが俺に注意喚起をしてくれていた


「  カラカラカラカラカラ 」


 しかし彼女の声は怪物の鳴き声に阻害されていた。


「カラカラカラカラカラ カラカラカラ カラカラ カラカラカラ カラカラカラカラカラ カラカラ カラカラ カラカラ」


 魔力鉱物の塊を持つ、怪物は四本の足を持っていた。

 瑠璃(ラピスラズリ)のしっとりと穏やかな質感とは相対をなすかのように、足は機械的な造形をしていた。


 寄居虫(ヤドカリ)の肢に似た器官。

 重くズッシリトした体を支えてくれているのは、岩石とは異なる金属質な四本足。


 動くのに支障はないのだろうか?

 とくに重たそうな魔力鉱物そのものと言える胴体と、昆虫を思わせる繊細でほっそりとした歩行器官はいささかアンバランスと思える。


「体が重たそうだね」


 モアの声は、やはりと言うべきかどこまでもどことなく落ち着きはらっているものでしかなかった。


「これはもしかすると」


 美少女の予想はしかしながら全てを正確に、分かりやすく他者に、つまりは俺に伝えることは出来なかった。


 叶わなかった。


 光りが怪物から放たれていた。


「  カラカラカラ  カラカラカラ カララララララララアラララララララア !!!」


 ラピスラズリの体から金色の要素が増幅し、黄金のエネルギー体が俺たちに向けて発射される。


 光の輪は曲がりくねった軌道を描く。

 精度が高いとは言えない、しかし攻撃力は存分にあった。


 廃墟の壁をボロボロに削ろうとした。

 いや、その攻撃力はもはや削岩と呼べるものですらなかった。


 金色(こんじき)の輪っかはショッピングモールだった空間を、まるで古ぼけた布を切り裂く断ち鋏のように切り裂いている。


 まるでブーメランのような軌道、某マンガ作品になぞらえれば「キエンザン!」だろうか。

 ……いや、あれはもっとフリスビーみたいな形だから、あれとは違うか。

 

 金色の指輪、そうだ、指輪に似ているんだ。

 全長二十メートルほどの巨人が親指に身に着けるのに相応しい、そんなサイズの輪っかが俺たちに向かって飛来してきていた。


 空気を切り裂く。

 廃墟を切り刻む。


 金色(こんじき)の輪っかは俺めがけて飛んできていた。

 ……かもしれなかった。

 確信が持てないのは俺が輪っかの輝ける刃に上半身と下半身を真っ二つに切断されたから。


 と、いう訳では決してなかった。


 俺は、あくまでも俺自身は無事だった。


 ならば怪物の攻撃は俺たちになんの損害をもたらしたか。


 ゴトリ。

 硬い音をたてて右腕が落ちる、それはモアの持ちものだった。


 彼女の肢体を構成していたはずの一部分が、怪物の放った金色の刃に切断されてしまっていた。


 どばどばと体液が溢れてきている。

 それは赤色、では無かった。

 青色の体液、やたらとサラサラしている。


 生理用品のやたらとポジティブシンキングを薬物のようにキめこんでいるコマーシャルに出てくる謎の液体に似ている。


「あらら、右腕(うわん)が落ちちゃった」


 モアは丸でいたがる風でも無く、切り落とされた右腕を速やかに拾い上げている。

 千切れた右の腕の付け根、肩からは引き続き謎の……おそらくは彼女の身体を稼働させるのに必要な魔的な要素がこぼれ落ち続けている。


「だ、だだ……だいじょう、ぶ……?」


 俺はモアの事を気遣おうとしていた。

 助けようとしていた、ものすごく頑張っていた、それだけは信じて欲しい。

 もしも緊急性があればなにか助けをしなくてはならないと思っていた。


 何故なら、彼女は俺を怪物の攻撃から守ってくれたのだ。

 かばってくれたのだ。

 そのせいで彼女は右腕を失ってしまっていた。


 何とかしなくては。俺なんかのせいで……!


「そんなに深刻に考える必要はないよ」


 モアは俺のことをはげまそうとしているようだった。


「あたしは大丈夫、ほら、こんなに元気」


 モアは一歩二歩とステップを踏む。

 コツコツ、ヒールが地面を噛む、軽やかで穏やかな音色。


「このボディは偽物で、君のような本物とは違う。だから痛くないよ、大丈夫」


 モアは片腕を失ったままの格好で首を斜め後ろに傾ける。

 首、視線だけを俺の方に向けてきている。


「人形のお手てが外れたくらいで、そんな悲痛そうな顔をするもんじゃないよ」


 くるりと体を踊るように回転。

 コツリ、ヒールが俺の目の前で鳴っていた。

 気が付けばモアはまた俺の目の前に立っている。


 背後に怪物の姿を湛える、美少女の顔は当然の事のように美しくて仕方がなかった。


「そんなことより、はい、プレゼント」


「プレゼント……?」


 こんな緊急事態に何を贈答しようというのだろう?

 真っ赤なリボンがちょうちょ結びされた紙箱なんか登場したら、もはや俺なんかはあっという間に精神崩壊してしまいそうだった。


 しかしどうやら俺の想像は実現することは無かった、とりあえずのところ。


「よいしょ」


 モアがかけ声を一つ発していた。 

 ポリエステルのシンプルなソファーから腰を上げるような気軽さ。

 モアの断絶された右腕に水色の……「水」のようなもの塊が発生していた。

 

 ぬるぬると柔らかい、俺はすぐに液体が彼女の魔力、そのものであることを実感させられた。

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