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灰笛続き 12月24日 3つ 1376 嘘は基本的につけない馬鹿者

 モアはなにやら神妙な顔つきを作ってみせてきている。

 如何様な告白が為されるのだろうか?

 もしも愛の告白なんてされてしまったら、大変申し訳ないが丁重にお断りしなくてはならない。

 何故なら俺の愛する女はこの世界でただ一人、妹のメイと決めているのだ。

 この決意は揺るがない、たぶん世界が終わっても変わることは無いだろう。


「あたしはこの世界が、人間が滅んでもいいと思っているんだ」


 だからなのだろうか? モアの告白内容について、危惧した内容とまるで合致していないことに俺はまずもって安心感を抱いてしまっていた。


「そうなのか」


「あれれ?」


 俺の反応にモアはむしろ面食らったようにしていた。


「勇者とか王子さまなら、そこは「何故だ!!」って疑問を抱くところじゃない? そうじゃない?」


「そう言われてもな……」


 見当違いも甚だしかったことの方が恥ずかしくて仕方がなかった。

  

 なぁにが「告白されちゃうかも♥」だ。

 俺みたいなクソ野郎がよりにもよってモアのような成熟した精神を持った美少女に愛の告白をされる訳がないだろうがよ。


 自責の念に押し潰されそうになる。


「あああ……」


 恥ずかしさに顔を覆いたくなる。


「ええ、どうしたの?」


 崩れ落ちそうになっている俺の事を、むしろモアのほうが心配している。

 世界が滅ぶことを喜ぶ古城の女王に心配されてしまっていた。


「どうしよう、気でも狂ったのかな?」


「いや……そういうワケじゃないんだが」


 ただ恥ずかしくて仕方がないと言うだけ。

 しかし詳細を語ろうとすればするほどに、自分自身の下劣さに悲鳴をあげたくなる。


「まあまあ、落ちついて、美味しい果実でも食べなさいよ」


 モアは俺をなぐさめるように、バスケットの中から収穫した魔力鉱物を差し出してきていた。


「あ、ありがとう……」


 受け取った。

 俺はあることに気付いた。


「あれ、食いかけ……?」


 手渡された魔力鉱物には歯型がついている。

 おそらく俺の前歯によるものだった。


「貴重な資源だからね、傷は少なめの方がいい」


 具体的な話を聞いていると、なんとはなしに冷静さを取り戻せそうな気がしていた。


「いや、いい……。収穫を無駄にするわけにはいかねえよ」


「そう?」


 モアは差し出した魔力鉱物を元の場所、バスケットの中に戻していた。


「せっかくだからちょっと休憩しよっか」


「ええ……ンな時間無ェと思うんだけど」


 思えばどれだけ時間が経過しただろうか。

 そろそろ俺の本来の目的が何であったのか、色々と忘れそうになる。


「早いところハテナ先生のもとに戻らなくちゃならねえってのに」


「ああ、そういえば君はその……えっと? 彼のペンネームは何だったか」


 モアはまたしても正体不明の場所から易々とスマートフォンを取り出している。


「えーっと? ナナセ・?・アビゲイルヨシコって名前だったかな?」


「あれ?! 知らない、そんな名前!」


 いずこから訪れたかも分からないスマートフォンに訝ることよりも、それよりも俺は知らない情報にくぎ付けになっていた。


「おおお?! すげえ、アマチュア時代の作品だッ!」


 小さな電子画面に映し出されているのは先生がまだティーンエイジャーであった頃の筆跡であった。

 現代のように熟れた筆遣いとは異なる、まだまだ未熟さの残る描き方は若葉に触れたような瑞々しさがあった。


「マジかよ、どこに売っているんだ? ちょー読みたいんだが」


 モアがスマホを指先で下側にスクロールする。


「あ、これ海賊版サイトだ」


「なにッ」


 俺はすぐさま身を緊張させる。

 強張る俺の肉体とは相対をなすように、モアの指先はただ単に現実だけを受け止めていた。


「ほとんど非売品みたいで、残っているのは違法的にアップロードされたデータしか残っていないみたいだね」


「ぐぬうう……マジかよ、悲劇的だな」


 作品を読みたいのは山々だが、しかし作者になんの価値も返せない取引はまっぴらごめんであった。


「うわあ、マジで嫌がっているの? すごいね、ルーフ」


 山道を歩いていたら野生の鹿にでも遭遇したかのような驚きをモアは瞳の中に浮上させてきていた。


「いまどきなんて、一流のプロのイラストレーターも海賊版サイトを嗜んでいるっていうのに。

 だめだよ、そんなんじゃ。もっと大人になろうぜ?」


「お前、今さっき「もうクリエイター側が血の涙を流すような事態はまっぴら御免だっ!!」的なこと宣言してなかったか?」


 あるいはそこまでド派手に宣告した訳では無かったかもしれない。


「まあ、それはそれ、これはこれ、集めるのは五月雨」


「いい加減だなあ……不安になるぜチクショー」


 ともかく収穫作業を負わせなくてはならない。

 俺は口の中に天青石(セレスティン)色の爽やかな味と香りを残しつつ、最後に一個の魔力鉱物に触れていた。


「……?」


 触った瞬間思った。違う、と。


「ルーフ!」


 まさかこのタイミングで来るとは思っていなかった。

 とでも言いたかったのだろうか?


 しかし俺はモアに確認行為をすることは出来なかった、実行は叶わなかった。


 何故なら別の現象、来訪が目の前で実現しようとしていたからだった。

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