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君を全力否定

胸が熱くなります

 当たり前のことだが、慣れない対応によって自分が想定していた以上に時間を浪費していたらしいキンシは、いかにも朝の日常らしく大わらわで外出を行おうとした。


「トゥーさん! そろそろ出かけますよ。忘れ物はありませんね?」


 トゥーイは長い部屋の中、大量の書籍が散らばっている床の上をそろりそろりと歩きながら、出入り口近くのキンシに語りかける。


「電話番号の接続のように無意味です一蓮托生にそれはあなたが抱くべきなのでしょう」


 ルーフはまるで自分に構うことなく、そして一切合切の興味関心もなさそうに、背を向けて去ろうとする青年の着ている上着の暗色を目で追った。


「そいでは」


 キンシは部屋の扉に左手をかけて、心もとなさげに出入り口付近まで移動してきていた少年へ、いたって快活そうに別れを告げる。


「いってきます!」


「待たんかい!」


 その言葉が終わり、行動が実行される。その寸前でようやくルーフは手を伸ばす決意をした。


 左腕を目いっぱい伸ばし今まさに扉の外へと、まるでその辺の児童公園にでも出かけるかのような力強さで踏み出そうとしている、魔法使いの地味な色調の上着の端を掴む。


「うえい?」


 自らの自然な意思に反発する力に、キンシは驚いてつい変な声を上げる。

 少年による、それこそ予想外な引力によってその体は横転しかけ、それを防ぐために数歩足踏みをする。


「ちょい? ちょいちょい、何しやがるんですか仮面君、危ないですよ」


「あっと、すまん」


 自身でも想定していた以上に力を込めていたことに気づき、ルーフは一旦魔法使いに謝り、


「と、それはそうとして!」


 すぐに自分の意見を言うためにかぶりを振り回す。


「えっと……? どうしたんですか」


 キンシは少年に奇怪なものでも見るかのような視線を送る。


「そんなに頭を揺らして、ここはライブハウスではありませんよ」


「うるせーよ、そうじゃなくて………!」


 ルーフは焦る心情を踏み潰して、自らが言うべきだと思う意見をようやく述べる。


「お前らよ、このまま出かけるのか?」


「? そうですよ、そうに決まってるじゃありませんか」


 キンシはルーフが言わんとしていることがいまいち理解できず、とりあえず自分の目的に則した反論ともつかない言葉を並べてみる。


「僕は魔法使いですからね、魔法使いとしてこの町に住んでいますから、ここで生きている限り、生きるためには魔法使いとしてのお仕事をしなくては。そうしないとご飯が食べられなくなってしまいますので、それはそれはとてもとても困ることですので、こればかりはどうしようもないことですので。そういう訳ですので、それじゃ!」


 キンシは時間に追われて、実の所はまだまだ時間に余裕があるのにもかかわらず、何となくの流れっぽく忙しさを演出せずにはいられなかった。


「何だよ……」


 ルーフがまるで、ショッピングモールで迷子になった幼子のように腹の前で指を組む。


「そんなに急いでいるのなら、別にいいけどよ」


 キンシがまったくの正真正銘ではないにしても、虚偽の内容を掲示してしまった罪悪感に苛まれている、その隙を狙うがごとくルーフは追い打ちのような、それでいて単純なる事実を相談する。


「でも、どうするんだよ?」


「どうする、とは?」


「だから、ほら………」


 ルーフは既に本の山に気遣うこともせず、ただ単に自分の陰に隠れている幼児を優しく魔法使いの方へと誘導する。


「………んんん (‣-‣)」


 ルーフに背中を押されミッタは素直にその手に従いつつも、出来るだけ魔法使いたちのほう、とりわけトゥーイとは全く目を合わせないようにそっぽを向いていた。


「こいつの相手を誰がするか、決めておいた方がいいんじゃないかって、俺はその辺が気になるんだよ」


 ルーフはそれこそ真面目に、それが自分の心からの言葉ではないにしても、しかしまったくのでまかせと言い切れるほどでもない。そんな感じの心配をこぼした。


「俺は………実の所ある場所に行かないといけなくて、多分そこにはコイツを連れて行くことが出来そうにない。そういう場所には連れて行きたくない。だから、ここでずっとコイツの相手をしてあげられないし……、でもここに一人ぼっちにさせるのも、なんつーか」


「ぐぐむむむむ………そうとなると、どうしましょうか」


 言われるまで気が配れなかったのか、あるいは少年にすっかり任せる気でいたのだろうか、何にしてもいずれにせよ、キンシは自らの思慮の浅さにゴーグルの下で目を回す。


「たしかにこんな家の中にミッタさんを一人にするわけには。今日の所はシグレさんに預かって? ああ駄目だ、あの人子供嫌いなんでした。だとすれば、そう言うことならば………! 、!」


「そう、そういうことなら……」


 そこでメイは兄が自分のほうを見やって、それはもう当たり前のように、軽やかに唇を開いて何かしらの提案を。おそらくは彼女自身が何よりも願っていない、拒否したい提案を魔法使いにしようとしている。

 

 そう直感した、根拠は全くないが瞬時にそう思った。

 そうはさせるか、彼女の中で声が命令する。

赤色の空に風邪をひきそうです。

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