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灰笛続き 12月23日 3つ 1373 カエルは空の青さを思い出しながらリンゴを丸呑みする

 何故こんなにも容易く秘密を打ち明けてしまうのか。

 がっっっっっっ、  シャアアアアアアアアアアアアア!!!!  んんんんんんんんんんんっ !!

 金属と金属、硬いモノが擦れ合い、ぶつかり合う音が鳴り響く。


 もはや破壊行為に等しい。

 モアの細い腕は瞬間的にレスリング選手の鍛え上げた両腕のように膨れ上がっていた。


 ぼんやりしていたら見逃してしまいそうな刹那、剛腕へと変身したモアの両腕が鎧戸の封印を強引に解いてしまっている。


 一気に持ち上げられ、天井へ向けて上昇する扉。

 なかば悲鳴のような激突音。

 建物の内側に張り巡らされていた光の根っこが衝撃に耐えきれず、ブチブチと千切れていく。


 静謐さに包まれていたはずの空間に女の悲鳴のような騒音が叩き付けられる。

 音量に俺は背骨の辺りがゾワゾワと、水に濡れて冷えきった指先で皮膚の柔らかいところを直接触られているような不快感をおぼえる。


 だが心理的嫌悪感は長くは続かなかった。

 例えば俺がこの瞬間にいきなりこの世界の全ての現象を受け入れられる寛大なこころを手に入れたとか、そのようなことは決して無かった。


 俺のこころは俺のまま、ただひたすらに目の前に広がる光景に視線、注目の全てを奪われてしまっていた。


 鎧戸の向こう側、光の根が伸びる先端。

 そこには大量の枝と、枝先にたわわに実る宝石の塊のような果実が存在していた。


 前に俺は光の筋を落葉樹の枝先のようだと表現した。

 樹枝の先端は意外にも光源をあまり持っていないようだった。


 夕暮れ時の太陽、夜に隠されそうになっている光の気配ほどに弱々しい光を帯びた枝。

 暗いと感じてしまうのは、枝先に結実している宝石の姿による印象の差とも考えられる。


 枝の先には大量の宝石が実っていた。

 秋に熟れるリンゴの木々のように、たくさんの宝石が空間の中にきらめいている。


「透明なリンゴだ……!」


 俺は思わず言葉を唇から漏らしていた。


天青石(セレスティン)色のリンゴがいっぱいなっている!」


 鮮やかな青空の気配。

 水分を多めに含んでいる空気が為す、白みがかった水色。


 美しいライトブルーの塊はリンゴのように丸々としていて、大小は実に様々なものがある。


 基本的に「世界一リンゴ」のように大きい。

 スマートフォン一台ならば簡単に包み込めるであろうサイズ感を基本としている。

  

 基準からさらに大きなものはバイクの運転時に被るヘルメットのような大きさまであり、大きさは当然の事のようにそれぞれ異なっている。


 質量だけの問題では無く、鉱物たちはそれぞれに細やかに異なる特徴をその身に宿していた。


 甘い蜜に誘われる虫のように、俺はリンゴがたっぷり実る空間に足を踏み入れている。


 ピチャリ。

 足元で水が揺れる気配に似た音色が鳴った。


「冷たい?」


 冷たさを感じた皮膚は水に沈む予感を抱いた。

 だが予測は外れて、俺の体はどこの水溜りにも沈むことは無かった。


 川であるとか湖だとか、本物の実体を持った液体の密集はそこには存在していなかった。


「「水」だ……!」


 魔法使いたちのあいだで「水」と呼称される要素、現象、エネルギーのこと。

 分かりやすく言えば魔力の塊。

 透き通った水がスケートリンクのように均等に、リンゴ達の下側に透明な床板のような効果を形成していた。


「大量の魔力に満ち満ちているねえ」


 モアもまたリンゴの森の中に足を踏み入れている。

 黒色のハイヒールがしっとりと「水」の上を歩いている。


「これはなかなかの収穫が期待できそうだ」


 モアはさっそく鉱物のひと粒に指を触れ合せている。


「気を付けろよ」


 気軽な様子に俺はソワソワとしたこころ持ちを抱いている。


「柔らかそうだ、ザツに扱ったら崩れてしまうんじゃないか?」


「大丈夫、そんなに身構えないでいいよ」


 モアは柔らかい指先を鉱物に触れ合せている。

 つい今しがた鎧戸を破壊したばかりの指先。


 しかして少女の指はすでに美少女の名にふさわしい、箸を持つので精いっぱいといったたおやかさしか帯びていない。


 不必要な肉から必要とされる筋肉さえ見受けられない。

 美少女は細腕にて、空の青さを含む結晶をもぎり取ろうとしていた。


「よいしょっと」


 壊さないように慎重に、リンゴのような果実を手の中に、モアは右手で丸みを帯びた表面を包み込む。


 少し手の中で回転させる。

 天青石(セレスティン)のように美しい青色を持つ丸さは、美少女の手から生み出される回転によってもぎり取られている。


 ぷつん、とかすかな断絶の感触の音色。

 青さは繋がりを失う代わりに美少女の手の中でさらに美しい輝きを手に入れようとしていた。


「全体性が失われ、孤立したが故の個別の特性が現れる」


「えーっと……」


 モアの言葉について意味を考えようとしたが、しかし残念なことに俺にはレベルが高すぎるようだ。


「ようするに、ここに実っている鉱物をぜんぶ回収すればいいんだな?」


「そう! そういうこと」


 というワケで回収作業開始と言う旨となった。


 モアはにこにこと笑っている。

 笑顔にはまだまだ含みがあるような気がしたが、今は詳細を聞かないことにした。

 

 手を伸ばす。

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