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灰笛続き 12月23日 2つ 1372 常に五感にエロスを駆け巡らせていたい

「彼は罪人として裁かれることになった」


 はたしてどの罪についてなのだろうか。そう考えている時点で俺は尊敬すべき作家が罪を背負う罪人であることを認めつつある、という事を自覚しなくてはならなかった。


「遺体は誰にも回収されることなく、荼毘に付されたまま放置されそうになった」


 モアは声のトーンを少し高くする。

 もしかすると笑っているのかもしれない、ここからでは表情は確認できそうにない。


「だからいそいで取引をして、あたしは彼の遺灰を手に入れた。

 そしてそれを古城に撒いた」


 何故そうする必要があったのか?


「彼の魔力は優秀であったからね。それこそ戦争の「宣伝活動」に利用されるくらいには、素晴らしい技量を持っていた」


 俺の脳内にキンポウゲの花畑が情景として再生される。

 美しいと思っていたものたち。


「そうだったのか」


 変わらず美しいままと思えるのは、おそらく俺が「普通の人間」としての思考能力を有していないから。

 ただそれだけの事にすぎないのだろう。


「だから」モアは理由についてを締め括る。


「だからあたしは戦うんだ。

 もう二度と作品が、愛しき「にんげん」の手によって作られた輝かしい、美しい作品が醜い感情と理由と意味に利用されないように守り続けることにした」


 モアは足を前に、廃墟の二階に歩み出していた。


「これがあたしの理由。

 どう? 大したことないでしょ?」


 答えを返せられないでいる。

 俺はただ、彼女が「にんげん」と言う言葉の発音に強くこころを込めていること。

 そのことの理由について空想するだけ、それだけが限界であった。


 二階に進む。

 そこは、とてつもなく異様な光景となっていた。


 ……いや、雨雲の上、天空に廃墟が現れて、そこにクソガキ約三名が侵入している状況から今さら何をどう奇妙と捉えられるというのか。

 範囲は広すぎて、サッカーのゲームが一席設けられそうである。


 それはさておき。


「なんだ? ここだけクリスマスパーティーでも開催しているのか?」


 光景をしっかりと目に焼き付けておく。


 光の筋がいくつも建物の壁、床、天井に張り巡らされていた。

 珊瑚の成長具合、宝飾用に利用される種類によく似ている。


 あるいは冬の落葉樹の枝先にも似ている。

 ニンゲンの毛細血管の充実に類似した筋の幾つかは、ある種集合体恐怖症を発症しそうな綿密さがあった。


「どうだいこの気持ち悪さと神秘さの境界線ギリギリをせめぎ合う造形、ゾクゾクするよね」


「ゾクゾク、って言うか、ザワザワって感じかな」


 どっちでもいいが、しかし二階に上がってきた途端に魔法陣の反応具合が半端ない反応を示していた。


「   ドック、ドック、ドック   ドック、ドック、ドック ドック、ドック  」


 長距離を走った後の心臓の鼓動のように激しい。

 円の中心点から少し上側に逸れたところ、藍色の波長が何度も何度も脈打っている。


「鉱脈が近いね」モアが魔法陣の具合から予測できる状況を言葉にしている。


「さてさて、魔法陣が導く先にはなにがあるかな?」


 夕方に漂うカレーの匂いに誘われて帰路につく(わらし)のように、モアの足取りは翅でも生えていそうなぐらい軽かった。


 後を追いかけるので精いっぱいだった。


「おい、待ってくれよ……!」


 魔法陣の具合とにらめっこをしつつ、視線はもう一つ、美少女の尻を追いかける。

 言い方に幾らか語弊がありそうだが、しかし実際に尻を追いかけているのだから仕方がない。


 一体全体いつまで水着のような格好をし続けるつもりなのだろう? まさか着替え忘れているだけではなかろうか。

 ともあれ、ハイレグの隙間からのぞく美少女の臀部(でんぶ)がやがてとある一室に留まった。


「ここかな?」


 立ち止まったのはショッピングモールの一区画だった。


 シャッターにしっかりと閉じられている、場所そのものには大した意味合いなど無さそうに見える。

 どこにでもある閉店済みのショップ、人の往来は当然の事ながらほとんど感じさせない。


 生きている人間の意識が存在していない。

 しかしそのかわり、空白を埋めあわせんとするほどの勢いにて、魔力を帯びた光の筋たちがシャッターの向こう側へと伸びていた。


「根が続く場所、根っこの終わりに実を結ぶ」


 モアが歌うように、この世界の仕組みの一部分を唱えていた。


「さあ、御開帳願おうか」


 性欲に囚われた中年のかなしき雄のように舌なめずりをする。

 欲望にまみれた目で、モアはシャッターを無理やりこじ開けようとしていた。


「ふんっ、んぐぐぐっ」


 少女の細い腕では固く閉じられた鎧戸に対応できるはずがない。

 そう、「普通」であればあるほど諦めを作ることが出来る。


 しかしながらまことに残念なことに、彼女は「普通」の少女ではなかった。


 ミシミシと悲鳴をあげている、のは、少女の腕では無く鎧戸の方だった。


「よいしょー!」


 熟れたサツマイモでも掘り起こすかのような快活さ。

 シャッターはまるで客人を受け入れる、とても繁盛している居酒屋にかかる暖簾(のれん)のように容易くめくり上げられてしまっていた。


 もはや破壊行為に等しい。

 もしもここに人間が、それらに類する生命体がいたとしたら器物破損もいい所である。


 しかしやはり、ここには人間はいなかった。

 そのかわりに、

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