灰笛続き 12月21日 2つ 1368 企画は少しの想像力とたくさんの金が必要
「うわっ?」
自分自身が作った魔法について、俺はついついまだまだ新人臭さが抜けきっていない。クソみたいにつまらねえ反応をしてしまったのが実に心苦しい。
「なにこれ、気持ち悪ッ」
自らが描いた円の中心に生き物のような鼓動が発生していた。
なにも無い虚空に円が描けたことさえ、実のところいまだに受け入れ難い現実であるというのに。
いや、散々魔法使い先生や魔術師殿の業を見たのだ。
今さら虚空に模様を描けることがなんだというのだ。と強く心に言い聞かせようとした。
しかし現実を一つ受け入れようとしたところで、どうしようもなく次の事項が現れてきてしまっていた。
「何を作ったというのだろうか……俺は」
「何って、そんなのきまっているじゃん」
何を今さらクソつまらないことを聞いているのだろうと、モアは全てをわざわざ丁寧に語るまでも無く事実を証明するだけであった。
「魔力鉱物の光明を検索するための魔法陣、さあ、これを使って探索探索ゥ!」
「えいえいおー!」とモアは右の手の甲を天高く、月明かりに向けて高々と掲げていた。
「マジかよ……」
彼女の向かう先を指し示す。
廃墟の内部、魔法陣の鼓動は向かうべき方向と共に藍色の鼓動を繰り返していた。
さあ探索と言うところで。
「暗ッ!」
単純に人間として、人間であるが故の限界、視覚器官の機能が背負う不可能に打ちのめされていた。
モアが笑いながら廃墟の中をあてどなく進む。
「月明かりだけじゃ、そのうち適当な穴に落ちても誰も気付かないまま死ぬだけだね」
「縁起でもない事言わないでくれよ……」
美少女の頭蓋後つが粉々になり、中身がぐちゃぐちゃになる、イメージに俺はブルブルと身震いする。
前を進むモアは後ろがわ、くるりと振り返る。
体の動きに合わせて彼女のポニーテールのたっぷりとした毛先が、夏のはじまりにあたためられた麦の穂のように豊かに揺れていた。
モアは俺と視線を交わしている。
「魔法陣に発光することを命令してみたら?」
「ええ……出来るのか? そんなこと」
正直なところを言えば探索用に魔法陣を張るだけで手一杯なのだが。
しかしモアは容赦がなかった。
「ほら、早く、早く」
「分かったよ……慌てるなって」
光り輝くもの……何があるだろうか?
思い出せるもの、参考に出来る何かしらを頭のなかでイメージする。
「お?」
モアが光の気配に注目していた。
「うわあ、ちゃんとできたじゃん」
発光する魔法陣。
円の形、直径六センチほどの範囲だけに光景を確保する機能を発揮している。
モアが俺に質問をする。
「ちなみに何をイメージしたのかな?」
「野郎の想像力についてなんてあれこれ聞くもんじゃないと思うが?」
「まあまあ、そんなノリのわるいこと言わないで」
言葉にするとあやふやになってしまいそうな気がする。
「懐中電灯くらいしか、それぐらいしか思いつかなかったよ」
内容を聞いた。
モアはいよいよ愉快でたまらないと笑顔をはじけさせていた。
「最高じゃないか! いかにも科学文明を未練たらしく引きずった「普通の人間」に相応しい、侘しい想像力だ!」
「そりゃどうも」
何はともあれ発行機能をたずさえた魔法陣を頼りに、俺たちは廃墟の中から魔力鉱物の鉱脈を探すことになった。
「それにしても」
トコトコと、しばらく歩いた。
歩きながら周囲を観察してみる。
「これって元々はどういった目的の建物だったんだ?」
右に左に視線を動かしてみる。
直線に伸びる廊下のような空間は、天井に所々長方形の穴が開いている。
元々は吹き抜けのようなデザインを想定していたのだろう、上を見れば次の階数の様子が下側からそれとなく確認することが出来そうだった。
もしも昼間の出来事であって、過去の記憶の残滓としてではなく本物の時間、異世界に生きていた頃ならば活気に満ちあふれた開放的な空間を期待することが出来たのだろう。
そう、この場所は紛れもないほどに人工物であるらしかった。
「ここは……もしかして」
長く続いた廊下の部分を通り抜けた辺り、広々としたエントランスホールに抜き出た。
そこで俺はこの建造物の目的についてを想像する。
「ショッピングモールなのか?」
果たしてこれが正解なのか、絶対的な証拠はまだ得られそうにない。
「ふーん? そうなんだー」
なぜならモアはまともな返答を寄越してくれそうになかったからだった。
この場面において一番情報を多く持っているであろう彼女は、どうやら空間そのものについて、あまり関心を持てないでいるらしかった。
「ただの「普通の人間」が作ったものなんてつまらないよ」
モアはそう主張する。
「魔法も魔術もない、ただの科学の寄せ集めがどうしてそんなに面白いんだろうね?」
広々と外界の光、月明かりを収集するガラス。
ホールを照らす透明さは所々ひび割れ、擦り切れ、外側の冷え切った空気を容赦なく内部に満たして言っている。
「分からないなあ」
今回は俺は美少女に賛同することが出来なかった。
「計算され尽くした設計が、自然の力に負けて崩れていく寂しさがたまらないと思うんだが」
何はともあれ、俺達は魔法陣の導くままに鉱脈を探すことにした。




