灰笛続き 12月16日 3つ 1360 出来上がったものは仕方ない、利用法については後で考えよう
「萌え絵と言えば簡単に済まされる話だけどな」
俺は自分の中に用意できる呼び名を使うことにした。
「うーん……」言葉で説明しようにも、どうしようもなく上手く出来ない。
「なんだかもっと別の描き方があったんじゃないか……。そんな気がしてならない」
「そりゃそうじゃろうよ」
俺の悩みにミッタがため息をこぼしている。
「どう見ても女の裸を描いておる場合じゃ無かろうよ!」
ミッタはどうやら俺の絵に強く不満を抱いているらしかった。
「あの魔法陣を見て、どうしてメスの裸に結びつくのか、してその原理は?」
説明を求められているらしかった。
うまく離せるか自信はないが、しかし求められるのならば実行するまでである。
「最初は地図のようなイラストを描こうとしたんだ、その点で言えば風景画と一緒だったかもしれない」
「ほう」
「でもペンを走らせようとしたその瞬間! 頭のなかで妹の姿が見えた」
「ほう、ほう?」
「妹が……メイが言ったんだ、ただの魔法陣には興味が無い、そんなものを作るくらいなら死んでしまえばいいいって」
「はあ……?」
「だから、せっかくだから妹のイメージを参考に女の裸について考えることにした」
「……」
「ものすごく考えた。ちょうど背後にいい感じのおっぱいがあったから、その感触を参考資料に妄想の限り、想像力の全てを指先に集中させた」
「……???」
「で、これが出来上がった」
過程を聞いた。
ミッタが混乱しているあいだにモアが俺の手からスケッチブックをサラリと奪い取っていた。
「あ!」
俺が驚いているなかでモアが俺の絵を評価する。
「うーん、これは実にいいおっぱいだ」
「返せよ」
身内であるミッタならばともかく、他人であるモアに作ったものをジロジロとみられるのはまだレベルが高すぎる。
「恥ずかしいだろ」
「おっといけない」モアが俺の唇へ人差し指を寄せてきていた。
「無駄な謙遜はいたずらに、無意味に魂を傷つけるだけだ」
反論を用意する暇も与えずに、モアは出来上がったモノについての感想を並べ立てていた。
「パースとか構図とかも全然だめで、素人の雑さがたっぷり含まれている。
正直言うとお金を払ってまで欲しい絵とは思えない」
酷評である。
「だけどまあ、このおっぱいは悪くないね」
下げに下げて、最後にひとかけらの希望をよういするところが実にずるがしこい。
と、思ってしまうのは低評価を喰らったが故のわがままで餓鬼っぽい被害妄想でしかないのだろうか?
「ありがとう」
モアが俺の手に一枚のカードを与えていた。
「これ、報酬ね、しっかり収めといて」
初給料である。
感動を覚えていると、足元の魔法陣から大きな音が鳴った。
ざあああ、ざあああ、ざあああ、ざあああ。
まるで鯨が海面から飛び上がったかのような音。
事実、「水」のように柔らかな魔力の塊からたくさんの固有物が現れてきていた。
「な、なんだあ……?!」
いきなりの登場に俺が戸惑う。
錯乱直前まで慌てる暇もないままに、あっというまに魔法陣から大きな廃墟がこの世界、空間へと発言していた。
「やったー! 大成功だ!」
モアが花がほころぶように喜んでいた。
「説明しよう!
あたしが依頼してルーフに魔法を作るようにした。そして作品は完成した。あたしはそれを報酬を以て受け取る。
このやり取りこそまさに! 常雨にエネルギーをもたらす源泉となり得るのだ!」
「へえ、この魔法陣、道具は常雨っつうのか。初めて知ったよ」
俺が名前を知れて感激している。
単純に感動しているだけの俺とは違い、ミッタの方はもっと理性的な情報を求めているようだった。
「して、どうしていきなりここに都市の廃墟が現れたのか、その理屈を教えてくれまいか」
「ええ……別に聞かなくてもよくないか?」
ミッタの言い分に反対の意見を述べることにした。
「町が現れたんだから、それでいいだろ?」
「いいわけなかろうが」
ミッタは俺に噛みつくようにしている。
「いくらこの町が、世界がトンチキであろうとも、常識的観点を失えばただの狂気じゃろうて」
「うーん……たしかに、ボケにツッコミが無いのも味気ないか」
そういうことを言いたい訳では無い、といった表情や感情をミッタが見せていた。
「なあモア」
モアが俺に答える。
「なんだい? ルーフ」
「どうしていきなりここに廃墟の塊が登場したんだ?」
モアがそれに答えようとした。
「そうだねえ、これはただのタイミングの問題だよ」
「タイミング」
「そう、運の巡り会わせ。それこそ10回連続のガチャガチャでお望みのキャラクターを一回で引き当てるくらいには運の良いことだ」
「俗っぽいなあ」
せめてもう少し洒落た言い回しをしてもらいたいところなのだが。
「じっさい、これは結構俗物な話なんだよ」
モアは俺をなぐさめるような気配を言葉ににじませていた。
「仕事の一部、お金儲けの話をしようか」
「そりゃあ、なんとも楽しそうな話だな」
なんやかんやで魔法使いとしての「仕事」に参加させられている。
状況に関しては別段不快感も無く、どことなく昂揚感さえ覚えていた。
とりあえずまずは町が検索される過程を観察することにする。




