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灰笛続き 12月16日 1つ 1358 美少年のハジメテはあたしがいただくのだ

 呼吸をしている。彼女がこの世界に生きている証、息を吸って吐き出している。


「はああああああぁぁぁぁぁぁぁああああ あああ」


 溜め息の質量と失望の重さはかなりの圧迫感を持っていたらしい。

 ミッタの呼吸の気配について、俺は彼女がまだ怪物としての純粋な意識に包まれて、守られていた時の状況を思いだしていた。


「なにやらシツレーなことを夢想しておるようじゃな?」


 ミッタがじろりと俺の事を灰色の相貌でにらんでいる。


「わしの黒歴史について考えておる場合では無かろう」


「そうそう! そうだよ」


 以外にもミッタに同調コメントを送っているのはモアの喉もとであった。


「これからもっと大切なことについて考えなくちゃいけないんだから」


 なんと、さらなる展開がまだまだ待ちかまえているとは。


「復讐心と好奇心に駆られて雲の上まで飛んできて。

 かと思えば知り合いの美少女に世界の秘密と仕組みについて打ち明けられて。

 そしたら謎の存在にテメーの存在感を吸い尽くされそうになって。

 この他にまだ重要なことが起きるのか」


 ここまでの展開を並べてみたが、なんともまあ楽しく愉快なひとときと言えよう。


「ヤバいな」


 俺はとっさに口元を隠している。

 しかし隠しきれない体の震え。


「どうしたのじゃ? あるじ様……?」


 ミッタが心配そうに、ミズクラゲの用に揺蕩いながら俺の顔をのぞきこんでいる。


「よもや数々のストレスについに精神の螺子(ネジ)が外れてしもうたのかの?」


 割かし本気で灰色の幼女は俺の事を気遣ってくれるようだった。


「ご心配には及ばねえよ」


 俺はすぐに口元を、にっこりと笑っている唇をミッタへあらわにしている。


「楽しすぎた、思い出し笑いにちょっと息が苦しくなっているだけだ」


「……」


 心配の気配は消えたが、それでもミッタは俺の事を凝視し続けていた。


「憐れじゃのう……」


 憐憫を向けられる理由も分からないままに、展開はまた別の方向性へと進もうとしていた。


「さて、いい感じに隠蔽操作も出来たよね?」


 モアが誰かしら、もしくは自分自身に向けて確認事項を並べている。


「隠蔽?」


 何のことかと、俺が該当する情報を頭の中に検索しようとした。


「ほら、勝手に貴重な検体を魔術式のエネルギー源に使用しちゃったからさ」


 モアが事情と事実をスラスラと呪文を唱えるように舌の上へ並べ立てている。


「たぶんこれがばれたらエミルをはじめとしたシヨン叔父さんにもこってりコテコテに絞られて怒られるだろうけれど、まあいいよね!!」


 知らない人間の名前が登場してきたことに戸惑いを覚えてしまう。


 しかし俺の困惑などお構いなしに、モアはまたしても距離感を詰めてきていた。


「なんだよ……」


 パーソナルスペースなど知ったこっちゃない、とでも言いそうなスキンシップに俺がそろそろ興奮を通り越して辟易とし始めた頃。


「早速だけど君には魔法陣を作ってもらおうと思う」


 モアが俺に仕事の依頼をしてきていた。


 ややあって。


「ヤバいなあ、これってもしかしてハジメテ? 生まれて初めて? 始めてから初めての「仕事」をあたしが頂いちゃうって感じかな?」


 俺はすぐにモアの想像を肯定する。


「そう……なのかもな。魔法使いとしては、これが初めての依頼内容だ」


 まさかこんなところで、雲の上で人生初の仕事を受け持つことになろうとは。


「この魔法陣を模写すればいいのか?」


 やばい、緊張してきた。

 ドクドクと心臓が脈打っている。

 鼓動は激しい。

 体中が熱かった、空気はひんやりと冷たいはずなのに。


 冷却が間に合わない程に肉体が熱を帯びている。

 熱暴走はこころの活力と繋がっている、鉛筆を握る手が震えそうになる。


「模写とは異なるね」


 俺の言葉遣いをモアが軽やかに否定していた。


「スケッチと言って欲しい、ある意味デッサンとも言える」


 モアの声を聞きながら、俺はタブレット式の飛行用魔法陣の上で直立不動になっている。


「魔法陣から得られる情報から、紡ぎあげた像をあたしに見えるようにしてくださいな」


 おねだりのほうしゅうは料金先払い方式カード(プリペイドカードとも言う)一万分。


「ソシャゲのガチャもまともに回せない金額で申し訳ない」


「10連ガチャ一回分じゃあ昨今の世界を生き抜くのに心許なさすぎるのう」


「なんの話をしてるんだ?」


 モアとミッタのやり取りを受け流しつつ、俺は紙の上にペンを走らせる。


 描いてみて気付くことがあった。


「この魔法陣、なにかに似ているな?」


「ほうほう? 気付いたことがあるんだね?」


 モアが待ちきれないというように俺の抱いたイメージに強く関心を示してきていた。


 急かされるのは苦手だが、しかし不思議とモアの言葉に強制力は含まれていないような気もする。


 実際のところ上手く描けたかどうかも分からないままに、ただ見える世界を真似するだけで精一杯だった。


 ペンを走る音が遠くに聞こえる。

 すぐ近くに存在しているはずの音色をうまく使いこなせないままで、俺はただがむしゃらに鉛筆を握りしめることを意識する。


 映像からやがて答えが返ってきていた。

 どうやって言葉にしようか? 少し考える。

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